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僕のスキルは無能なようです。

伯爵家の屋敷に着くと、玄関で母様だけが出迎えてくれた。


「おい、コルムの家族はこいつだけなのか?」

「こいつじゃなくて、僕の母様だ。」

「あら、喋る猫さんなのね。コルムは面白い子を連れてきたわ。私はコルムの母のルットラス=アンジュと申します。どうぞコルムと仲良くしてやってください。」

「言われなくても仲良くしてるぞ。俺たちは友達だからな。」


ネグルカは自慢げに言うと、それを見た母様は、ふふっと笑った。


「まぁ、コルムにもお友達が出来たの。よかったわ。それじゃあ、私は邪魔者ね。あとは2人で楽しみなさい。コルムが帰ってきた事は私からお父様に伝えておくから。」


そう言って母様は奥へと行ってしまった。

僕達は、歩いて来たこともあって疲れていたので、僕の部屋で休む事にした。


部屋に着くと、僕の部屋には埃がこれでもかと言うくらい溜まっていた。

「こりゃ、僕が家を出てから掃除されてないな。仕方ないか。

よし、掃除から始めるぞ!」

そう言って掃除道具を取りに行こうと扉に手をかけた。

ブォーン

後ろから物凄い音がした。そして振り返ると、埃一つ無くなった部屋と椅子の上で胸を張ってるネグルカの姿があった。


「えっと。何をしたの?」

「掃除だ。お前が掃除を始めると言ったのではでは無いか。だから、俺は手伝ってやったんだ。どうだ、助かっただろ。」


はぁ、まぁ、助かりましたよ。助かりましたけど、最後の一言でなんか助かったって言いたくなくなったんだけど!と心の中で叫んだ。


「お前、恩着せがましいな…」


あ、つい本音が漏れてしまった。


「ん?なんか言ったか?」

「いや、別に。何も言ってない。と言うか、そんなことよりさ、10歳の儀式明日なんだよね。今日これから何する?」

「うーん、そうだな。あ、そうだ。お前に聞きたいことがある。」

「ん?急になんだよ。」

「いや、さっきの迎えと言い、この部屋といい、お前は嫌われているのか?それとも、人間の出迎えとは、普通はこういうものなのか?」


まさか、こんなに直球に質問されるとは思わなかったが、なんだかネグルカらしくて安心した。


「普通なんかじゃ無いよ。僕はこの屋敷で結構嫌われてる。」


流石に、5年ぶりに帰ってきた息子に対して、母様以外誰もいないという伯爵家の対応は僕も驚いた。だが、心のどこかではそんなものだろと納得していた。


「でも、お前は悪い奴には見えないぞ。なんで嫌われるんだ?」

「人間ってのはそんなに簡単には出来てないんだよ。悪い、良いで好き嫌いが決まるわけじゃ無い。貴族なんて特にそうだ。家に貢献出来るか、出来ないか、それがその人の存在価値そのものになる。だから、価値の無い者はただの穀潰しだって嫌われるんだ。

そして、この家は代々優秀な騎士を排出してこの地位を保ってきた。その中で、魔力が無く、騎士として使い物にならない奴が生まれれば、そいつは必然的に嫌われるってわけだ。

まぁ、それが僕だった。それだけだよ。」

「人間は、色々と大変なんだな。」


ネグルカがしみじみと言っている姿が、なんだか面白くて、少し暗くなっていた気持ちが明るくなった。


「だから、明日の儀式でもらえるスキルで僕の人生が決まると言っても過言ではないんだ。あぁ、なんか近接向きのスキルだと良いな。」

「なんで近接なんだ?」

「そりゃそうだろ!弓矢とかどうやって戦うんだよ。魔力で身体を覆われたら、どんな弓の名人でも傷一つ付けられないんだぞ。」

「あぁ、そっか。確かにな。やっぱり、お前頭いい!」

「いや、常識。だから、騎士になる時の試験は剣術と体術だけなんだよ。」

「へぇ、詳しいんだな。コルムは騎士になりたいのか?」

「当たり前だろ!俺は騎士になって、騎士団長、もっと言えば聖騎士団長になるのが夢なんだよ。」

「そうなのか、結構一緒にいたつもりだったが、初めて知った。」


ネグルカは色々知っているようで、所々抜けていて、その度に僕が教えると頭いい!と誉めてくる。悪い気はしないが、悪い人に騙されるのではないかと心配になる。

もし、ネグルカが騙されたとしても、僕が助けるだけだけど。

そんな事を考えていたら、だんだん眠くなってきた。そして、ベッドに横になると、すぐに眠りについた。


「…きてください。起きてください。コルムお坊ちゃん。食事の準備ができました。」

はっとして飛び起きると、窓の外は暗くなっていた。そして、隣にいた使用人は、僕が起きたのを確認すると、すぐに何処かに行ってしまった。


ちょっと待て、よく考えたら、人の部屋に勝手に入ってきたよな。しかも、伯爵家の僕の部屋に。いやぁ、僕も舐められたものだな。今度会ったら絶対に一言だけでも言ってやろう。

「おーい、コルム。考え事も良いが、ご飯なのだろう、行かなくていいのか?」

ネグルカの声で我に帰ると、僕は急いでダイニングに向かった。


その日の夕食は久しぶりに家族全員揃ったというのに、誰一人として話をしない何とも不気味な食事だった。

そんな夕食と入浴を終え、自室に戻ると椅子の上でネグルカが待っていた。その時、ネグルカの夕食がない事に気がついた。


「あ、ネグルカの分の食事もらってくれば良かったな。気が利かなくてごめんよ。」

「別に俺は一年くらい食べなくても生きていける。気にする必要ない。」


衝撃的な事実に僕は唖然とした。


「え、でも、一緒に旅してた時は食べてたじゃないか。」

「あれは、お前が旨そうにしてたから、娯楽のような感覚で食べてただけだ。」

「そうだったのか。て言うか、それ初めに言えよ。」


そう言ってベッドの方に向かい、仰向けになると、お腹の上にネグルカが乗って来た。


「寝るのか?」

「いいや、まだ僕は寝ないよ。ただやることが無いからね。暇なんだよ。」

「じゃあ、俺の昔話でも聞くか?」

「嫌だ。あ、なんだか眠くなって来たなぁ。あぁ、もう寝てしまいそうだ。」

「なんだ、眠かったのか。せっかく話してやろうと思ったが、仕方ないな。じゃあ、俺も寝るとするか。」


良かった。前に一度だけネグルカの昔話を聞かされたことがあるが、日が登るまでずっと話していて、途中で寝ようものなら魔法で半焼きにされる。まさに拷問の様な時間が続いて、これからはもう聞かないとその時心に誓った。


眠くは無かったのだが、ゴロゴロしているうちにいつの間にか寝てしまっていた。


次の日になり、儀式のために神殿に向かうと、僕と同い年の子供でごった返していた。

受付で整理券をもらい、僕の順番が来るのを待った。貴族は少し早めに通してもらえるのでそんなに時間はかからなかった。

僕の番になり、神官長が

「では次、ルットラス=コルム前へ。」

と言うと、後ろから父様が小さな声で

「良いのを引くんだぞ。」

そう一言だけ言われた。

僕が緊張して震える足をどうにか前へだした。

「では、祈りを捧てください。」

神官長に言われた通り、手を前で組み「どうか、いいスキルがもらえます様に。」と祈った。

「もういいですよ。では次に、ここにおいてある紙の上に手を置いてください。」

手を置くと、神官長が上から手を置いだと思った次の瞬間、手がピカッと光った。

そして

「はい。これが貴方のスキルです。」

そう言って手の下にあった紙を渡された。

そこにあったのは。

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『遠視』

とても遠くが見えるようになったでしょう。

その代償として、貴方の半径2メートル以内の敵意もしくは殺意を持った生物を見ることは出来なくなりました。

視る事。それすなわち、ある事。


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ふざけるな!嘘だろ!

僕の期待は大きく外れた。

もはや、悲しいとすら思わなかった。ただただ絶望感だけが僕の胸を支配した。


「どれどれ。コルムのスキルは何だ?」


そう言って父様が近づいて来て、紙を見るなり、表情が一変した。


「おい!どう言う事だ?!"遠視"だなんて…」


父様は初めは動揺を見せたが、少したって冷静になると、


「まぁ、無能なお前に相応な無能スキルだな。」


そう言って、僕を置いて神殿を出た。

周り人達の表情も、良いものとはとても言えなかった。


10歳にして、僕の夢と希望と未来は幕を閉じた。


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