僕は弱かったようです。
部屋に戻って負けを実感すると、悔しくて悔しくてたまらなかった。まさか負けるなんて思ってなかった。遅いからと油断していた自分が恨めしい。そう考えていると、堪えきれなかくなった涙が頬を伝った。すると、何かが込み上げてきて、涙が溢れ出した。ベッドに潜り、折れた剣を抱えてワーワーと声をあげながら泣いた。体が子供だったせいか、途中で止める事は出来なかった。
ひとしきり泣き終わり落ち着くと、剣聖であった僕のプライドはこんな事でズタズタになるのかと笑えてきた。それと共に、もう負けてたまるかという意地に似た決意がみなぎってきた。
そして僕は、強くなるために魔物狩りに出ることに決めた。
その日の夜、僕は魔物狩りのことを伝えるために母様の部屋に行った。
「失礼します。コルムです」
「どうぞ。」
母様の部屋は伯爵家に相応しい豪華な部屋で、母様は窓際の椅子に座り紅茶を飲んでいた。
「僕は強くなりたいのです。魔力を使わなくとも、魔物は倒せると聞きました。なので、実践経験を増やすため、明日から魔物狩りに行きたいのです」
母様は一瞬目を見開いて驚いた。
今日弟に負けたのにあまり無謀な事を言うと笑われるか、馬鹿にされるかのどちらかだと思っていた。
しかし、驚いた後の母様の表情は真剣そのものだった。その冷静な様子から、母様は僕が旅に出ると言い出すのではないかと、少しは予想していたのだと分かった。
「とても危険という事は分かっていますか? 悪い大人に騙されるかもしれないし、その日の生活費が手に入らなくなる可能性も多いにあります。それに、悪く言うつもりはありませんが、貴方には魔力がないのです。魔物の中には魔法を持ってしても簡単には倒せない物もいます。それを分かっていて、魔物狩りにいくと?」
僕はあまり母様と話した事がなかったから、つい父様やシグノと同じように僕を貶していると思っていた。
だが、そんなのは全くの嘘で、母様は僕の事を大切に思ってくれてる。言葉からも行くのを諦めて欲しいのだという思いが伝わってくる。
それだけで十分覚悟をきめた僕の心の支えになった。手を握りしめ、自分の決意が伝われと願いながら答えた。
「はい。分かっています。それでも僕は強くなるために行きます」
「分かったわ。でも、私はいつでも貴方を大事に思ってる事を忘れないで。辛くなったら、お父様がなんと言おうと帰ってきなさい。待ってますから」
「はい。10歳になるまでには帰ってきます」
そう言い残して、僕は母様の部屋を出た。
10歳の礼拝。それは、その人の人生をも変える一大イベントだ。そこでは、1人1つスキルをもらう事ができる。そのスキルは様々でその効果も天と地ほどの差がある。例えば、良い物だと、動体視力が向上し相手のステータスが分かる神眼は騎士に、身体の欠損をも治せる息吹は神官へと将来が約束される。だが逆に、貴族で使えないスキル持ちは無能と呼ばれ嫌煙される。この儀式には僕も流石に出席しなくてはならないので、それまでには帰ってくるつもりだ。
父様への報告を済ませ、準備をし、朝を待った。興奮して眠れないかとも思ったが、泣き疲れていたこともあって、すんなりと眠りについた。
朝になり、昨日準備した最低限の荷物だけを持ち、伯爵家を後にした。門を出る時、少し躊躇った。しかし、昨日の母様の言葉を思い出し、母様のためにも頑張ろうと頬を叩き気合い入た。
「よし!」
僕は旅の一歩を踏み出した。