僕の弟は、優秀なようです。
そんな日々を過ごして、僕は7歳となった。
僕には1人弟が出来た。ルットラス=シグノ、僕の弟で、魔力量がずば抜けて高く、顔も良い。まぁ、僕も悪くはないが、整った顔立ちに、キラキラと輝くような金色の髪に、吸い込まれるような透き通った群青色の目、そして幼くても分かるスタイルの良さを持った人と比べれば、見劣りするのは自明だった。
今日はそんな完璧な弟の3歳の誕生日だ。弟もお父様から剣をもらった。そして、僕の時と同じ様に修練場に行った。
違う事があるするなら、弟の相手を僕がすると言う事と父様が弟に魔法の使い方を教えているという事だ。
「ほら、身体に集中して。何かが回っているのがわかるだろう。それを手に集めるイメージだ。」
「はい。父様。」
「お、出来ているぞ。その調子だ。そしたら、剣にも意識を移して、全体を覆う様に魔力を張るんだ。」
「こうですか?」
「おお!凄いぞ。シグノには魔法の才能があるな。」
そう言って父様は僕の方をチラリと見た。明らかに「お前とは違って」と言わんばかりの熱烈な視線だ。
5歳頃から父様向けられ始めたその視線を、今や屋敷中の使用人ですら躊躇わず向けてくる。その頃から、僕にとって屋敷はなんとも居心地の悪い場所となった。そのせいか、弟もなんだか僕を見下した様な態度を取ってくる。
「少し魔力があっただけです」
そう言って嘲笑うかの様に僕の方を見て
「お兄様。では、お相手しましょう。」
僕がシグノの相手をしてあげる立場なんだけどなと心の中でツッコミ入れつつも
「分かったよ。」
と笑顔で答えた。すると一気にシグノが距離を詰めてきた。まぁ、一気にと言っても3歳児にしては早いというだけで、4年もやってた僕からしたら歩いているくらいの速度だったので、避けるのなんて造作も無かった。剣筋も悪くないが、かと言って良いとも思えない。
そんな事を考えながら避けていると、父様や使用人が「大人気なく逃げるなんて卑怯だ」と言わんばかりに睨んできた。
そんな弟を贔屓する視線を向けられても困るし、避けるのも立派な剣術の技術なんだけどなと失笑した。
しかしまぁ、今日は弟の初舞台だ。花を持たせてやろうと思い剣を受け止めた瞬間。カシャンッと戦闘中になるはずの無い音がした。地面と金属がぶつかり合う音だ。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。だが、結果として僕の剣が真っ二つに斬られ、弟の剣は無事それだけは確かだった。
「ははっ、やはりシグノは強いな、私が思った通りだ。それに比べてコルムは…なんという事だ。4つも歳が離れてる弟に負けるなんて。今回はお前の強さをシグノに知ってもらおうと思い、お前を相手にしたのに。」
嘘だ。父様は僕が勝てるなんて少しも思ってなかった。それに、こうなる事もわかって僕を相手に選んだんだ。分かってた事だが、こうも露骨にやられると悲しくなってくるもので、僕は俯いてしまった。すると、
「仕方ないですよ。なんてったって兄様には魔力が無いんですから。」
「シグノは優しいな。騎士には優しさも必要だからな。お前は良い騎士になれるぞ。よし、私ともう少し練習をしよう。」
そう言って2人は修練場の奥に歩いて行った。この対応の差はあんまりではないかと、訴えたかったが、もうそんな気力はなかった。
僕は、真っ二つに折れた剣を持って、自室に戻った。
途中その姿を見てクスクス笑う使用人も居たが、もうなんとも思わなかった。




