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僕は期待されたようです。

 ……1年経った頃、

大体の家の事情は分かってきた。この家は伯爵家で、代々優秀な騎士を輩出している由緒正しい家で、他の伯爵家より良い待遇を受けてる。

 そして、この世界には魔法があり、生活のエネルギーのほとんどが魔力由来である。

 また、魔力は大気中にも存在する身近な物だが、貴族階級以外の言わば平民の人たちは体内の魔力量が少ない。

 逆を言えば、貴族は体内魔力量は比較的多く、我がルットラス家は貴族の中でも多い家系だった。

 しかし、僕はルットラスの血を引きながら、魔力が一切ないという前代未聞の事態を引き起こしてしまったらしい。この事について、両親はずっと頭を抱えているらしく、別に僕がしたくてした訳ではないが、少し申し訳なく思えた。


       *


 3歳になり、特に出来ることもやる事もなく、ただ寝て起きて、ちょっと本を読んだり、母様とお散歩したりと平凡に過ごしていた僕にやっと転機が訪れた。


 誕生日プレゼントにと父親が僕に剣をくれたのだ。まぁ、もらった時は3歳にこんな物あげるのかと疑問に思ったが、久しぶりに剣を握ったらそんな思いなど吹き飛び、ただ再び剣が握れるという喜びでいっぱいになった。


「父様、ありがとう! 大切にする!」


「おう、沢山練習するんだぞ。時間がある時は私も練習に付き合ってやるからな」


 僕に魔力が無くて頭を抱えていたなんて想像も出来ないくらい幸せな会話をして、この嬉しさを噛み締めた。


 剣をもらった僕は、父様と一緒に外に出た。

 カラッと晴れた空、爽やかな風、青々とした草。それは、今まで僕の見た事が無い修練場の景色だった。胸は高鳴り、これから剣を握れるという喜びで思わず頬も緩んだ。

 ここは伯爵家の敷地内にあるルットラス家専用の修練場だ。いつもは父様率いる第三騎士団が練習をしているが、今日は休日であったため、しんとしていた。

 つまり、今だけは僕一人のものなのだ!


「やった!」


 と声を上げながら、素晴らしい修練場を舐め回すかのように走り回った。


「はっはっは。こらこら、コルムあまりはしゃぎすぎるな。そんなにもここに来たかったのか」


 父様が笑いながらこちらに近づいてきた。


「はい! 父様。ずっと、楽しみにしてました!」


 この体は不便なもので、少し走っただけで、ハァハァと息がきれた。だが、僕の様子なんて気にもせず


「では、手始めに模擬戦といくか」


 そう言って父様は木刀を構えた。

 いやいやいや、いくらなんでも息を切らした子供相手に模擬戦をするなんてひどく無いかと戸惑った。しかし、剣聖と呼ばれていた頃の記憶のせいか、絶対的に強者に挑むと思うと高揚感が押し寄せた。


「望むところです! 父様!」


 気付けば僕は、もらったばかりの剣を握り、うぉーと声を上げ父様に向かっていった。

 だが、中身が剣聖でもやはり体は3歳児のものである。父様は軽々と僕の攻撃を避け、容赦なく剣を振り下ろしてきた。驚いて目を閉じてしまったが、僕は直感を信じて剣を振った。

 カンッ。剣と剣がぶつかり合う音がした。恐る恐る目を開けると、そこには驚いた顔の父様がいた。


「まさか、この攻撃を受け止めるとはな。コルムは筋がいい。このまま練習すればもしかしたら、騎士

になれるかもしれないな」


 そう言う父様の顔はどこか憂いの様な悲しさが感じられた。


「それじゃあ、私は仕事があるから屋敷に戻る。あとは好きに練習しなさい」


 と父様は修練場を出て行った。

 好きに練習しなさいなんて、僕が最も欲しかった言葉だ。3年もの間剣を握れずに、うずうずしていた。そうして僕は、毎日筋トレや素振りなど出来る事を全てこなしていった。

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