僕は、強くなれたようです。
「馬鹿だなぁ。そんな事誰も言ってないじゃ無いか。コルムは1つの事しか見てないから、ダメなんだよ。」
ネグルカが何を言っているのか理解できなかった。僕は目に見えないものを切ることができず、敵意を持って近づかれれば見えないのだ。その状態で、僕の考えの何が違うというんだ。
やけになって頭から否定したかったが、もし他に可能性があるのならそれを聞きたいと思った。
「他に何か方法があるのか?」
「あるよ。てか、お前はもうできるはずだが?」
「だから、それを早く教えろってば!」
「はいはい、分かったから、そんな急かすなって。まず、コルムのスキルは認識できない事に欠点がある。つまり、認識さえ出来ればいいわけだ。それに、認識する方法は見るだけじゃ無いだろ。魔力を感じ取るのも、立派な認識だ。」
「なるほど!って事は見えなくとも魔力を感じ取って攻撃すればいいんだな!」
「そういう事。ほらな、案外簡単な事だろ。」
もう、暗い気持ちはなく、僕は絶望の中に確かな希望を見つけた。
それからというもの、僕は目を閉じて戦闘する様になった。僕の視覚は頼りにならないから、音、匂い、振動、魔力、それら全ての感覚を澄まし相手を捉える、そうすれば僕はなんだって倒せた。
今まで出来なかった対人戦も、攻略できた。
人はいつでも魔力を纏えるわけじゃ無く、こちらが一方的に剣で攻め入れば、かわすのに集中せざるを得なくなる。そして、集中が逸れれば、魔力は格段と脆くなる。僕はその瞬間を狙って一撃を入れる。
これは、かなりの技術差が無いと出来ないが、僕はなんて言ったって、元は剣聖だ。剣が通じるなら怖いものなどなかった。
こうして、僕達は2年間ただひたすらに、"認識する"ことを練習した。
そして、12歳になった僕は聖クロスト王立学院の試験を受けるため、都市クロストに足を踏み入れた。
聖クロスト王立学院。それは、言わずと知れた名門校で、王国の貴族の中でも選ばれたものだけが入学する格式高い学校でもある。
それ故に、ほとんどの場合この学校に入りさえすれば将来の成功が約束されると言っても過言ではない。
現に、この学校の卒業の7〜8割はそのまま上級騎士になり、特に好成績を残して卒業した者は聖騎士や皇族近衛隊になれるのだ。
完全実力主義を謳うこの学校は、実力が有りさえすれば平民でも通う事が出来る。だが、実際は平民の基準は貴族よりも高く、魔力量の少ない平民でこの学校に入れるものは極めて少なかった。また、入れたとしても成績が悪く退学になってしまう人が多いと聞く。
そんな学院の入試は武術又は剣術どちらか得意な方と、筆記、の2つだ。
特に武術・剣術では、基礎測定と実践に分けられているらしい。
合格者には魔力測定があり、それと試験結果でクラス分けが行われる。
ほとんど貴族に関わっていなかったせいでここまでの知識しか無いが、聞く限りではとても面白そうな学校だ。
受験申し込みのために学院へ行くと、真っ白な10m近くある外壁に、主役は自分であると言わんばかりに黒い門がどかんと構えていた。
受付は門の前で行われ、近くに行くとより圧巻だった。
受付を終え宿に戻ったが、試験前というのもあってか、じっとしていられなかった。
「コルム、そんなに動いても時間は早くは進まないぞ」
とネグルカに言われてもなお動き続けるくらいに、僕は興奮していた。
当然夜も眠れるはずがなく、テストのシミュレーションをしたり、学院での生活を妄想したり、とにかく頭が忙しかった。
この状態は試験当日まで続いた。
そして、今日、僕の実力を発揮する時が来た。
「僕の実力を見るがいい!」




