僕は神に愛されなかったようです。
家に帰った僕に話しかける人は誰も居なかった。まぁ、元からそうだったのだが。
唯一の味方だった母様も、どうやら僕を哀れに思ってか、腫れ物に触れる様な対応になってしまった。
「コルム、どうしたんだよ。なんか元気が無いぞ。」
ネグルカはいつもそうだ。誰がどんな気持ちだろうと気にもせず、無責任にズカズカと人の心に立ち入って来る。自分でも感情的になっている事は分かってる。でも、この感情を止める術を僕は持っていなんだ…
「お前に言って何になる。」
「なんか俺が手伝えることあるかもしれないだろ。」
「そんな物ないよ!ネグルカみたいに魔法が使えて、戦闘だって負けなしの奴に、手伝われることなんてない!」
僕は衝動的に部屋から飛び出した。
後ろからネグルカが追いかけて来る事は無かった。
夕方の庭で1人、花壇を見つめながら冷静になって考えると、本当に酷い事をしてしまったと思う。
「僕はなんて事を言ってしまったんだ。」
落ち込んでももう遅い。言った言葉は戻っては来ないし、時間も巻き戻せない。
あと僕に残されているのは、謝る事、それだけだった。
心が落ち着いてきて、部屋に帰ろうとした時。
ガサッ
目の前の草の間からネグルカが現れた。
「ネグルカ、なんでここに?いや、それよりも、ごめん。さっきは酷いこと言った。ネグルカは俺のことを考えて言ってくれたのに、僕は…何も考えず、感情的になってしまった。本当にごめん。」
「あぁ、その事なら気にするな。俺もお前の気持ち、分かってやれなくてごめんな。」
「許してくれるのか?」
「当たり前だろ。友達だからな。」
友達なら、なんでもありなのかよ。と思ったが、今は流石に言えなかった。
「あ、そう言えばだな、コルムは俺が負けたことないって思ってる様だがな、俺も負けたことあるぞ。」
「え?!そうなの?」
「あぁ、昔の友達にな。」
「そんなに強かったのか。いつかその友達に会ってみたいな。」
「いつか、きっと会える。俺はそんな気がしてるよ。」
その夜、僕とネグルカは今後について話し合った。そして、また旅をすることにした。
今回は学院の入学試験がある12歳までだ。そして今回の旅では、もれなく勉強もついてくる。
幸い、ネグルカは学問についての知識は豊富だそうで、夜に教えてもらう事にした。
善は急げだ。前回と同じ様に母様と父様のところに行き、説明をして同意を得た。
出発はもちろん明日の朝だ。違うのは、出発するときに隣にもう1人いる事だけ。
だが、たったそれだけの違いでも、僕の旅が楽しいものに変わった気がした。
翌朝になり、僕はすぐにネグルカと共に家を出た。
実家には2日しかいなかったが、2日でも居たくないと思わせてくれるほどの対応だった。
まずは近くの森で魔物を狩る事にした。
そして森に入ってすぐ、ビッグボアを見つけた。
「とりあえず、僕1人で戦ってみるから手は出さないでくれ。」
「了解。」
そうネグルカが返事をすると同時に、ビッグボアがこちらへと走ってきた。
僕は剣を構え、ビッグボアが間合いに入ってきた瞬間を狙って剣を振った。
あれ、切った感触がない。おかしい!
そう思った次の瞬間
ドンッ
気が付いたら僕は後ろの木に吹き飛ばされていた。
だが、一度吹き飛ばされてめげる様な僕ではもうない。僕はもう一度剣を構えた。今度は間合いにはいられたあと、一振り目を首へ、そして二振り目を足へと入れた。だが、またもや感触がなく、吹き飛ばされた。
どのくらい繰り返しただろうか。
少なくとも20回は色々と試した。しかしどれもうまくいかなかった。すると見かねたネグルカが、ボンッと爆発させ、一撃で倒してしまった。
「ネグルカ!手を出すなって言っただろ。」
「本当はお前だって分かってんだろ、攻撃が通じてない事に。」
「そんなのまだ、やってみなきゃ分からな…」
「見える事。すなわちある事。この意味わかるか?」
「それは、僕のスキルの紙に書いてあったやつだよな?」
「そうだ。で、その意味は?」
「…そんなの分かるわけないじゃないか。」
「そこだな。問題は。」
意味がわからなかった。僕の剣と何が関係あるって言うんだ。そう言いたかったが、ぐっと堪えた。
「僕にも分かる様に教えてくれ。」
「物は一体あるから見えるのか。それとも、見えるからあるのか。そんな話聞いた事ないか?」
「ない。」
「あ、即答ですか。じゃあ、初めから説明するな。ある物体があったとするだろう、そして、そこの前にお前がいる。でも、みんなそれを見る事は出来ない。じゃあ、その物体は本当に存在するのだろうか。ま、簡単に言うとこんな感じだ。」
「それで、それと僕のスキルの関係は?」
「そりゃもちろん、コルムは半径2メートル以内の敵意・殺意を持った者が見えないんだろ。つまり、コルムからしたら敵意を持った者が半径2メートル以内にいても存在していないのと同じなんだ。だから、コルムにはあのボアが切れなかったってわけだ。」
「そんなの嘘だ。僕にはただでさえ魔力が無いのに、半径2メートル以内の敵には手出しできないっていうのか!!
そんなの…あんまりだ。」
もう僕は、これ以上何かを口に出す事は出来なかった。もし何かを言ったのなら、あまりにも自分が惨めに思えてきてしまうから。
ことごとく僕は神に愛されなかったようだ。




