剣聖だった僕は、転生したようです
ー強くなりたい。
幼い頃、誰もが一度は願った事があるだろう。だが、それを人一倍願った者がいた。
彼は強くなりたかった。そう"最強"に。
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「おいおい、嘘だろ。今回はあの黒龍かよ。」
そう言って僕が見た先には、体長30mはある真っ暗な鱗に真っ赤な瞳のドラゴン、通称黒龍がいた。
普通なら、黒龍が現れた時点でその国の者が全員土地も財産も捨て逃げ出し、自然と眠りにつくのを待つ様な相手だ。
戦いを挑むなど全世界の騎士団を集結しても馬鹿な話と笑われるくらいの相手、それが黒龍という生き物。
そして、僕がいるのはその黒龍がある森から30km離れた首都の王城の広場。
ここからどうするのかって?そりゃ討伐さ。
「それじゃあ、そろそろいきますか」
そう言って僕はいつも使っている弓を取り出して矢をつがえる。
スッと引き絞り構えると、1秒足らずで矢を放った。
放たれた矢はすごい速さで飛んでいった。動体視力にどれだけ自信がある人間でも矢をその目に捉える事などできなかっただろう。
しかし、周りで見ている王や公爵などの貴族たちは、そんな弱々しい矢では倒せないとクスクス笑っている。見えてすらいないくせに、偉そうなことを言ってくれる。
だが、僕にはあいつらがなんと言おうとどうでも良かった。ただ結果を残す事だけが僕のやるべき事で、僕に必要な事だ。
そう再確認して、僕が仲間の待つ部屋に戻ろうと踵を返したとき、
ドォーン!!
後ろからもの凄い爆音が聞こえた。
それを聞いて貴族たちは皆慌てふためいている。本当に滑稽な姿に笑いを通り越して呆れてしまう。
僕はピタリと足を止めて、黒龍がいた方角を見る。すると、生き絶える黒龍の頭上下に貫く矢と黒龍のいた山1つが新地になっているのが見えた。
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僕は、物心ついた時には既に剣を握っていた。
強くなる。いつそう思うようになったのかは自分でも分からない。ただ、その想いは原動力となった。
幸い、僕には剣の才能があった。そして、毎日練習しているうちに、みるみる強くなっていった。
その結果、10歳ごろには近衛騎士団団長に勝ったし、20代ではドラゴンの討伐を一人でこなしていた。
そんな僕は気付けば"剣聖“と呼ばれた。一国の軍に匹敵するほどの実力を持ち、巷ではあまりの強さに歩く破壊兵器とも言われた。
だが、そんな僕も、老化には勝てなかった。
最期は国王から貰った自分の屋敷のベッドの上で弟子に見守られながら、重くなった瞼をそっと閉じた。
「おぎゃー、おぎゃー、」
なんだ?赤子が泣いているのか?
僕は気になって目を開けるも、ぼやぼやとした世界が見えるだけで、何も分からない。
すると、
「まぁ、貴方そっくりですわ」
「だが、髪の毛の色はお前の色と同じだ」
「そうですわね。でも目なんて貴方そっくりよ」
僕が遠い昔に聞いたような、甘く優しい声がした。
『その声をもっと聞きたい!』
と強く思うと、無駄だと分かっていても、つい手が伸びてしまった。
すると、男が僕の手を握ってきた。
そこでようやく、僕は自分が赤子であることに気がついた。
「では、魔力量を測るとしよう」
と男が言いうと、それと同時に体がふわりと浮き、筋肉質の腕にすっぽりと収まった。
不慣れな感じはあったが、安心した。
すると、急に頭に冠がつけられた。
そして、次の瞬間、
身体中に電撃のようなピリッとした痛みが走った。
「なんて事だ……ありえない!そんな!」
と僕の頭の上で大声で父が叫んだ。
さっきまで父と話していた女も近くに来た。
「まさか、そんな……嘘っ……。魔力が無いなんて!きっと何かの間違いですわ!」
そう言ったきり、2人とも黙ってしまった。
さっきまでほんわかとした会話がされていたのが嘘かのように、ピリピリとした雰囲気に包まれた。
……居心地が悪い。
だからといって逃げることもできず、父の腕に黙って抱かれてるしかない。
『誰か、この空気をどうにかしてくれ!』
と心の中で叫んだ。
すると、その想いが届いたのか父が口を開いた。
「とりあえず、成長を見守ろう。もしかしたら、大きくなったら魔力を持てるようになるかもしれないからな。それに、10歳の儀式でギフトを貰ったら、何か変わるかもしれん」
「そうですね……」
と2人は言葉を交わし、僕をベットに寝かせ部屋を出て行った。
あり得ない状況に置かれた僕は、まずは状況の整理から始めた。
まず、剣聖であった僕は老衰によってその人生の幕を閉じた。が、気がついたら生まれ変わっていた。今は生まれたての子供で、さっきの話から僕には魔力が無い。
整理したところで訳が分からない。何故僕が生まれ変わったのか、この世界はなんなのか、この世界の魔力とは何なのか、分からない事だらけだ。
ただ一つ分かるとするなら、
『僕は今世も最強になる!』
という僕の熱意は残っていたという事だ。
しかし、最強になろうにも、まずはこの世界について知らなければどうすることも出来ない。しかし、生まれたての赤子に何かできる事があるわけでもなく、起きている時間に周りの声を聞いて情報を集める事にした。