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23話

 本日は10月1日の夜。十五夜である。そして、龍の舞を行う日でもあった。


 7月に行われた ”夏の儀” と呼ばれる龍の舞は夏祭りも兼ねていた。今日はその日と違って、龍の舞だけ行う。


 黒鱗神社の大きな拝殿。その付近にある木造の大きな舞台。村人によると、龍の舞はいつもそこで行われている。今日も例外ではない。


 舞台には既に、三味線と桶同太鼓を構えた演者二名がいた。話に聞いた通り、その二名は龍の仮面を付けている。


――ベン、ベン。

――ポン、ポン。


 やがて演奏が開始され、4人が舞台袖から登場した。生け贄役である。今回の生け贄役は、崎守一家であった。息子と同級生だった奈緒。その父の現道。母の紀子。そして村長でもある祖母の芙蓉。


 4人が所定の位置に着いて、座った。すると演奏は止まった。しばらく静かな時間が続き、やがて演奏は再開される。


 続いて演者が登場した。巫女装束に龍の仮面。両手には二刀の短刀が握られている。


 あれが恐らく、龍役だろう。その龍役が所定の位置に着いて、演奏は止まった。


 これで龍の舞における演者が全て揃った。今宵は十五夜。夜空に浮かぶは満月。月明かりと舞台の照明によって、演者達は照らされている。


「イヨォオーッ!」


 三味線を構えた人が掛け声を張り上げた。そして三味線がベンと弾かれ、太鼓がポンと叩かれた。


 それを合図に、舞台中央にいた龍役が踊り始めた。


 舞は過激なものではなく、緩やかに四肢を動かしていく感じの様だ。


 演舞は淡々と進行していく。やがて終盤に差し掛かった。


 すると踊っていた龍役が、ピタリと停止した。かと思えば、一直線に舞台上で座している人たちの一人に近づいていく。


 奈緒の前に立った龍役。そして、その二刀の短刀を振り上げた。


「待ちなさい」


 舞台袖に潜んでいた私と倉持が、龍役の両手を掴んだ。振り下ろされるはずの短刀は、途中で制止された。


「まさか、犯人があなただとは思いませんでしたよ」


 倉持はそう言って、龍役の仮面を剥いだ。


「志田さん」


 倉持がその人の名を言った。ショートカットであるはずの彼女は、カツラで長くなっていた。茶髪だった髪色も黒く染められている。マンションの時に会った彼女とは全く別人に見えるが、間違いなく志田凜であった。


「まるで私が犯人だと、分かっていた様ですね」


 志田は言った。


「ええ。息子は此処に越してきてからの出来事をノートにまとめていたの。それを見ると、志田さんに関して色々不自然な事が浮き彫りになった」


 私は説明を語る。


「私の息子は引っ越した当日の夜に、同マンション内にて龍堂尊と出会っている。でも彼女は龍堂宅から学校に通っている。もちろん龍堂宅は高羽市内にあるマンションではない。なのに息子は夜にマンション内にて会っている。それは何故か。実は同マンション内にはあなたが住んでいた。龍堂尊は、あなたに会っていたの」


 私は此処に来た夜に、志田と出会っている。志田は同じマンションの住人ということも語っていた。


「それと息子の親友である相楽隆について。あなたはそのことに過剰に反応したと書かれている。あなたは相楽君の恋人だった。そして隆君は落とし前として殺害された。隆君の恋人は龍人だった。つまりあなたは、龍人ということになる」


 志田は、奈緒を睨んだ。奈緒は、申し訳なさそうに目を背けた。


「そうね。崎守家は私が龍人だということを知っていた。私と隆の関係を知った崎守家は、奈緒に落とし前を実行させたの」


 その憎悪故か、志田の身体は震えていた。


「隆を殺した崎守家が許せない。この村全てが憎い。だから龍堂家の計画に乗った。そして今回は奈緒、あなたを殺す為の私の独断よ」


 奈緒はその言葉に、心を痛めていた。俯いたその顔には、悲しそうな表情が浮かんでいた。


 息子によると、二人は親友のように見えていたという。そんな二人が、このような悲劇を生んでしまうなんて。

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