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16話

「ともかく。久遠君。あなたは知りすぎましたね」


 崎守の言葉がより一層冷たくなった。心なしか凄みも増した気がする。


「いずれにしろ、龍人があなたを放って置く訳もないですし。もう殺してしまった方が色々と都合が良いでしょう」

「な、何を言って……」


 俺がそう言いかけた時、崎守は鞄から何かを取り出した。


「お、おい! それは……!」


 それは仮面だった。龍の舞で付ける、龍の仮面だ。


「いつでも持ち歩いているんですよ。そして、これもね」


 崎守は龍の仮面を付けた後、また鞄から何かを取り出す。


 それはまさに、龍の舞で身につける、二刀の短刀であった。


「落とし前の先払いってことで」


 崎守がそう言った瞬間。彼女は鞄を捨て、短刀を構えて、こちらに詰め寄って来た。


「ま、待て! 来るな!」


 俺は恐怖のあまり尻餅をついて、後ずさりする。


「ふふ。林君みたいですね」


 崎守が言った。確かに、これはまるでビデオカメラに映っていた映像の様だ。


「首をはねたら、思いのほかピョーンと吹き飛びましてね。驚いちゃいましたよ」


 映像の内容を詳細に語る崎守。俺はその事実に違和感を覚えた。


「ビデオカメラは、見付けてすぐに警察に届けた。なのに何故、崎守は内容を知っている……?」


 崎守がビデオカメラの内容を知る機会は無かったはずだ。


「さて、何故でしょう?」


 ニッコリと、冷たく微笑む崎守。俺は事実を察して、ぞっとした。全身から、鳥肌が浮き出る。


「崎守。お前が林を殺したのか」

「はい。落とし前は、崎守家の長女である私のお役目なのです。崎守家の、他の人がやっていると思っていましたか?」


 崎守は言いながら、俺に詰め寄る。俺は距離を取るために後ずさりをする。でもこれでは、ビデオカメラの映像と同じ。後ずさりでは、結局追いつかれて、やがて殺される。


 しかし腰が抜けてしまい、俺は立ち上がることが出来ない。結果、不様にずりずりと尻を引きずることしか出来ない。


――トスン。


 背中に妙な感触がして、俺は振り向いた。


「龍堂家が、何の用ですか」


 崎守が敵意を込めて言った。


 俺の背中には浴衣の女性が接触している。特徴的な、腰まで伸びた黒い髪。白い肌。不気味な笑み。


 間違いなく、龍堂尊であった。


「久遠君は私のお気に入りなの。だから手を出さないで」


 人形の様な笑みを浮かべて、龍堂は言った。


「いいえ。あなたのお気に入りなのであれば、尚更生かしておく訳にはいきません。そこをどきなさい」


 崎守は短刀を龍堂へ向けた。


「あら。龍人を殺すの? あなたの判断で、殺せるの?」


 龍堂は余裕に言った。龍人を殺すと呪いが起きるという言い伝えのことだろう。


「殺しはしませんよ。ただ、退いてもらうだけです」


 一歩も退く気が崎守。


「ふふ。じゃあ、久遠君に見せてあげちゃおうかな」


 龍堂はそう言うと、俺の前に立った。


「龍に授けられた力を」


 瞬間。激しい目眩に襲われる。強烈な頭痛、動悸、息切れ、吐き気を催す。


 それはどうやら崎守にも起きている様で、彼女は膝を折って、顔を俯かせている。


 何だ。何が起きているんだ。


「これが龍の力だよ」


 龍堂の声がぼんやりと聞こえてきた。彼女は俺の前に立って、俺の顎を片手で引っ張る。


 ぐらつく視界。その中で、まるで人形の様に整った顔がぼんやりと見えた。


「あなたは……隆と……同じ……」


 俺はその言葉を聞き取って、目を見開いた。


「それは……前にも……聞いた……」


 俺は力尽き、意識を手放した。

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