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プロローグ

 そいつは龍の仮面を付けていた。


 白と紅の巫女装束を着ている。黒髪は長く、胸元が膨らんでいるから、恐らく女性だ。木製の舞台の床を裸足で踏みしめている。そして両手には、二刀の短刀を持っている。


 舞台の隅には二人の演者が座っている。一人は三味線を、もう一人は桶同太鼓(おけどうだいこ)を構えている。そして二人とも、龍の仮面を付けている。


 さらに舞台の手前には、四人が座している。着物を着ているが、仮面は付けていない。


「イヨォオーッ!」


 三味線を構えた人が掛け声を張り上げた。そして三味線がベンと弾かれ、太鼓がポンと叩かれた。


 それを合図に、舞台中央にいた龍の仮面の女性が踊り始める。


「今踊り始めたのが龍。短刀は龍の牙を表現しているのです」


 と俺の隣にいる女性が言った。


 演舞は淡々と進行していく。昔から続いている儀式の為、派手なアクションもなく地味だ。何の盛り上がりもないまま、終盤に差し掛かった。


 すると踊っていた龍役が、ピタリと停止した。かと思えば、一直線に舞台上で座している人たちの一人に近づいていく。


「何だ? 妙な演出だな」


 俺は言うと隣にいる女性に向いた。先ほど解説した人である。


「いや、おかしいですね。こんな演出はないはずですが……」


 と言って彼女は不審な表情で舞台上を見つめる。


 座していた四人も異変に気付いた様で、態勢を崩して後ずさりしていた。龍役は構わず詰め寄っていく。


 そして舞台手前で座していた四人の内の一人の前に立つ。座していた人たちは何事かと龍役を見上げていた。


 龍役はおもむろに両手を振り上げた。その両手には短刀が握られている。


 次の瞬間。


――ザシュッ!


 二刀の短刀が振り下ろされた。その人の胸元をクロス状に引き裂いた。


「ぐぁああああっ!」


 斬られた人の絶叫。同時に、大量の血液が夜空に舞った。


 しかしそれだけでは終わらない。龍役は右手、左手と短刀で交互にその人を何度も斬りつけた。そしてその度に血飛沫が飛び散った。


 観衆の悲鳴が遅れて響く。龍役は舞台上から逃げ惑う人々を見下ろす。


 そして俺は見逃さなかった。


 龍の仮面の下に覗く口元が、ニヤリと歪むのを。

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