【第93話】神殺しの大戦⑦
〜Side ナツメ〜
神殺しの大戦の首謀者ディクティオ。
身に纏う漆黒の衣装が風に禍々しくはためく。
僕と一緒の黒髪黒目が、正直少し苛立つ。
対峙するのは亡き図書館長のパートナーのメイレールさんと、現図書館長である僕の2人組。
僕達は完全なる臨戦態勢で臨む。
メイレールさんは両手に黒い雷を宿し、僕は描いた『黒天夜叉』の鎧を身に纏っている。
「おお。他はもう始めたみたいだね!
僕達もそろそろ始めようか?」
「その通りですね。
何としてもキサマを仕留めねばなりませんので」
「ハハッ! 血気盛んで結構だね。
流石は原初に最も近い天翼族だ、格が違う。
それに君も、少しはマシな顔が出来るようになったんじゃないかい?」
「御託は結構。ナツメさん、行けますか?」
「いつでも大丈夫です」
手に持った万年筆を握る手が、心做しか固くなっているのが分かる。
緊張か、はたまた怒りか……いや、両方かな。
あいつ相手に武器は正直、意味を持たない。
それなら──。
「先陣を切ります。『黒潮』!!」
普段なら足元に渦を描き広げ、相手の動きを拘束したり溺れさせたりする技だが、今回は僕の正面に展開する。
横に広がらないように狭く、局所的な竜巻を作り上げる。
黒い竜巻はディクティオを巻き込み、大きさを増す。
「足りない……」
竜巻の中から微かに声が聞こえた。
更に威力を強めるが、手応えがまるで無い。
しばらくすると、竜巻はたちまち掻き消された。
そこに立つのは、ほぼ無傷のディクティオ。
手にはガラスペンが握られている。あれで相殺されたんだろう。
「足りないよ、敵意も、殺意も……
全く感じられない! ぬるい!
仕方ない、本物を見せてあげようか」
そう言ってガラスペンを僕の方に向け、同じ様に竜巻を放った。ただ、威力は桁違いである。
インクは……僕の竜巻からか、しくじったな。
「ぐぅっ……!!」
「ナツメさん!」
「僕の後ろに居てください!」
咄嗟に描いた流線型の壁で何とか竜巻を凌いだ。
普通に壁を描いていたら、恐らく耐えられなかった。
僕のと何が違う? あいつが言っていたように、殺意や敵意だけなのか?
「メイレールさん、前に出ます!」
「ご一緒しましょう!」
身に纏う『黒天夜叉』を全力で操って、ディクティオの懐へと潜り込み、ありったけの打撃を叩き込む。
少し遅れてメイレールさんも攻撃に参加するが、悉く致命打は躱される。
「その気になってきたね!
それじゃ、こういうのはどうだい?
喰らい尽くせ『大黒縄』!」
僕達の攻撃を流しながら、ディクティオが片手間で描いた……何だろう、あれは?
以前に物語の中で見た『黒縄』と似てはいるが、大き過ぎる。
大蛇否、龍の如くそれは、のたうち回って周囲に破壊の限りを尽くす。
「あのデカブツは私が何とかしましょう。
そちらは任せても?」
「分かりました。気を付けてください」
「それはお互い様ですよ。ご武運を!」
僕に向けて僅かに微笑むと、この世の何よりも冷えた視線を大黒縄に向けた。
メイレールさんは大丈夫だろう。
問題はこっちだ。
「君1人じゃ、荷が重いんじゃないかい?」
「煩いな……全力で迎え撃つまでだよ」
「いいね、いいよ!
僕も敬意を評して少し本気を出そう! 『大黒天』」
「リオ爺の……」
リオ爺と同レベルか、それ以上の鎧を纏った。
でも、僕の『黒天夜叉』だって負けてない筈だ。
やってやろう……
僕が気絶しないギリギリの速度で間合いを詰め、一撃たりとも貰わない意識で動き続ける。
「驚いたな……正直、目で追うのも難しい。だが……」
「っ!?」
「軽い!!」
ドゴォォア!!
両手で地面を叩き割った!?
いや、その程度はやるか……
足元が崩されたから、かなり近寄り辛い。
だったら……
「これならどうだ!」
ディクティオの周囲を円形に走り回りながら、万年筆で強い伸縮性を持たせた黒い帯を描きあげる。
描きあげた瞬間、解放された帯はバチンと言う音と共に中心に居るディクティオを拘束した。
「これだけじゃ足りない……!」
それを幾重にも重ねて描き、奴を締めあげる。
ここまでしてようやく、身動きを封じる事が出来た。
ただ、こんなの時間稼ぎにもならないかな……
いや、動けない今なら話せるだろうか?
「聞いてもいい? 何でラグナロクを?」
「大戦の理由を問うているのかい?」
縛られた鎧から声が聞こえる。
もしかして、答えるのか? それなら好都合だ。
奴は少し悩んだ後に「そうだな」と、語り出した。
「至極単純に言うならば、これは復讐だよ」
「……復讐?」
「そう、復讐。極めて利己的で、くだらない理由さ。
でもそれが僕の全てで、生きる意味なんだよ」
「…………」
分からない。
リオ爺は、もうその手で殺したじゃないか……
じゃあ今は何に対しての復讐なんだ?
神殺しってくらいだし、オラシアさんなのか?
有益な情報が無さ過ぎる……
「全てはあの老いぼれに対する物って考えでいい。
リオテーク……いや、高野勇って言えば分かるかな?」
「っ!!? な、何でその名前を!?」
「お手本の様な反応をありがとう。
そう言えば僕が何者なのかも知らないのか……
別に隠す理由も無いから教えてあげるよ」
何でだろう。心臓の鼓動がやけに早い。
とても嫌な予感がする。体が、本能がそう叫んでいる。
これから先は聞かない方がいいと、そんな気がしてならない。
「僕の本来の名は高野巡。
元リオテークの息子で──」
「止めろ……」
「僕は──」
「止めろって!」
「正真正銘、君の父親さ!」
読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、いいねやブックマーク、広告したの評価☆☆☆☆☆を押して行ってください!
次回、ディクティオの過去が明らかに……?




