【第92話】神殺しの大戦⑥
〜Side ルーナ〜
相対するは2色の雷。
一方は紅蓮の雷撃。現図書館長のパートナーにして、『怒槌』の2つ名を持つ薄紫髪の少女、ルーナ。
もう一方は濃紫の雷撃。行方不明だった前聖天騎士隊長にして、『紫電』の2つ名を持つルーナの姉、アステラ。
髪色はルーナと同じく薄い紫色。
パッと見て分かる違いと言えば、纏う雷の色と翼くらいだ。
ルーナは左肩甲骨と右腰に1枚ずつ。
対してアステラは右の肩甲骨の辺りに、片翼しか生えていない。
そんな2人は現在、大きな動きは見せていない。
身に纏う雷撃はそのままに、互いに静かに見つめ合っている。
簡単に説明するなら、これはただの姉妹喧嘩だ。
──その規模にさえ目を瞑ればだが……
「はぁぁぁああああ!!!!」
先に仕掛けたのはルーナ。
手に持つ戦鎚を高く振り上げ、一気に下ろす。
たったそれだけの動作だ。
避けられ空を切った戦鎚が地面へ激突する。
雷鳴に似た音と共に、石畳だった床が見るも無惨なクレーターと化した。
「おいおいおい……マジかぁ?」
「うわぁ〜、初撃でアレなの? 自信無くなるなぁ……
ザックなら出来そう?」
「出来る訳ねぇだろ……
あの子、決闘の時とは比べ物にならねぇ位、強くなってんじゃねぇか?」
「2人ともいい加減駄弁ってないで、手足を動かしてください! このままではただの足手まといです!」
ルーナのサポートとして付いて来た聖天騎士3人。
現騎士隊長モネの同期で、数少ない前隊長アステラの元で騎士をしていた者達だ。
茶髪で大柄なザック、薄桃髪のムードメーカーのマイン、長い青髪の真面目なミナ。
3人は揃ってルーナの初撃を見て戸惑っていた。
『自分達の出る幕が無い』と……
ただただその姉妹喧嘩を眺める事しか出来ずにいる。
「何か言ってよお姉ちゃん!」
「…………」
アステラは問い掛けには何も応えないまま。
しかし、攻撃だけは苛烈極まる。
ルーナの初撃に応じる様に紫の雷を纏った両手が、ルーナを捉えようと迫る。
「行けねぇ! 嬢ちゃん、絶対に掴まれるな!!」
「えっ!? はいっ!」
ルーナはザックの警告で即時に、アステラの手を弾くようにして後方に退避した。
「あの、掴まれてはいけない……というのは?」
「ああ、アステラさんは槍の名手ではあるんだがな、ありゃ力をセーブする為だ。
本気のアステラさんは、敵を素手で握り潰すわ引きちぎるわ……
体の1部を掴まれたら最後、潰されるか切って落とすしか逃れる術が無ぇ、ってな訳だ」
「ザックの言う通り、今のアステラ前隊長は本気です。
この際ハッキリ言います。ルーナさん、正直私達では力が足りません」
ミナによる戦力外宣言。
しかし、彼等はアステラの戦いを最も近い位置で見て、学んで来た者達だ。
今までの経験が、知識がある。
それを踏まえてマインが言う。
「アステラた…前隊長は馬鹿力だけど、動きは読み易いから、次の攻撃を逐一私達が教えるよ!」
「馬鹿力……」
「うん、そうだよ〜。私達、特に私はあの人のお仕置きから逃げるのに、い〜っぱい動きを見て来たからね!」
「お仕置き……」
マインは「そんな事はともかく」と、話を戻し、ルーナは再びアステラを注視する。
「では皆さん、お願いします!」
「任せて〜!」「おうっ!」「はい!」
4人で同時に駆け出し、言の葉を交わす言の葉無く、アステラを中心にした三角錐の様な陣形を組み上げた。
ルーナ、ザック、ミナの3人が地上、マインは空中からアステラの動きを監視。
ただ、ルーナ以外の3人は、出来る限り邪魔にならない、もとい巻き込まれない位置を維持している。
「左掴み、来るよ!」
「はい!」
何とか交わして戦鎚でのカウンターを狙うが、アステラは拳をぶつけて戦鎚を弾き返す。
それだけの挙動でも、衝撃波で周囲にはかなりの被害が出てしまう。
「次、タックル来るぞ!」
「は、はい!」
姿勢を低く構えたアステラが、今度は足を大地にめり込ませながら爆走してルーナへ向かう。
あまりの速さに対応が遅れ、ルーナは戦鎚の柄をアステラに握られてしまう。
ルーナは対抗して引き剥がそうとするが、ピクリとも動かなかった。
仕方なく戦鎚を手放し、退避したルーナは衝撃の光景を目にする。
メキメキメキ……バギンッ!!!
ルーナの膂力で振り回しても何とも無かった戦鎚が、鈍い音を立ててへし折られた。
その様子を見て、ルーナのアステラへの警戒度と闘争心が跳ね上がる。
警戒が高まった所で、脳筋ご闘争心に抗えるはずも無く、止められない。
「よくもぉぉお!!!」
「おい! 嬢ちゃん!?」
ルーナはアステラと両手を組み合う様に仕掛け、力勝負に持ち込んだ。
勿論、純粋な力で言えばアステラの方が上。
しかし、ルーナは獰猛に喰らい付く。
組んだ手は悲鳴を上げ、今にも崩れそうだが、気合いと使命感だけが彼女を支えていた。
「りゃぁぁぁああああ!!!!」
ルーナの雄叫びに呼応するが如く、身に纏う赤い雷はより一層激しさを増す。
「嘘でしょう……?
あのアステラ前隊長と張り合ってるの?」
「すっごいね……私は絶対無理だよ〜」
「自慢の妹さんなだけはあるな!」
こうなってしまえばアドバイスも何も無いと諦め、ザック、マイン、ミナの3人は離れた位置から観戦する。
「絶対にわたしが……
お姉ちゃんを楽にしてあげるんだぁぁぁあ!!!」
その魂の叫びで、今までで1番強烈な雷撃が轟いた。
すると、アステラに変化が現れる。
『…………ア……あああ』
「っ!? お姉ちゃん!」
『うぅ、ぁぁああ!!』
さっきまで一言も話さなかったアステラが、呻く様な声を出したのだ。
ルーナにとっては数十年ぶりの姉の声。
気を緩めれば今にも溢れそうな涙を堪えて、組み合った手に力を込める。
「お姉ちゃん!!
強くなったわたしを……見てぇぇええ!!」
『ああああぁぁぁぁ…………ル、ルー……ナ?』
先程まで黒く淀んでいたアステラの目に、微かではあるが光が宿った。
勿論ルーナもその事に気付き、嬉しさが込み上げてくる。
「お姉ちゃん? 私の事、分かる!?」
『ルーナ……? 私は……へ?』
固く組んだアステラの手が徐々に緩む。
いつの間にか互いの雷撃も消え、姉妹はただ呆然と向かい合う。
「ルーナちゃん、倒したの!?」
「やったのか!?」
「まだ警戒を解いてはいけません!」
『お、お前たちは……』
『っっ!!?』
聖天騎士3人は驚いた顔でアステラを見た。
自分達を立派な騎士へと育て上げた、かつての騎士隊長が目の前にいる。
問い詰めたい気持ちはあるが、今は姉妹の再開に水を差さないように自重する。
「ねぇ、お姉ちゃんなんだよね?」
「ん? おお、ルーナだよな?
見ない間に大きくなっちゃって……
折角だ! お前達もこっちに来い!」
『は、はい!!』
慣れ親しんだ前隊長の元へ3人が整列する。
それは体に染み付いた癖のようなもの。
背筋を伸ばし、少々緊張した顔持ちで立つ。
『まぁそう緊張するな。
今は隊長でも何でもないんだ。
古い友人って事で……な?』
「隊長〜!! 会いたかった〜!」
『おーよしよし、相変わらずだなマイン。
寝坊癖は直ったか?』
「……直ってないな」
「ミナ!? ばらさないでよ!」
『ハッハッハ! さて。
ルーナ、ほんとに大きくなって……
この3人と一緒の編成って事は、それなりに立派な騎士になれたんだな?』
アステラはルーナの姿や周りの状況から整理して、その答えに辿り着く。
「ふふふっ……違うよお姉ちゃん! これ見て!」
ルーナは図書館員である事を示すバッジを、それはもう自慢気にアステラへ見せ付ける。
『おお! リオテークさんの所に居るのか!?
大出世じゃないか! 流石は自慢の妹だ!!
なでなでしちゃおう!』
「えへへへ……嬉しいな……お姉ちゃんに見てもらえて。
リオテークさんでは無いけど、新しい図書館長と一緒に頑張ってるよ!」
『妹の成長が見られて嬉しいよ……
……さて、そろそろ聞かせてくれないかい?
死んだはずの私が何故ここに居るのか、周りも騒々しいし……異形の大量脱走か?』
自分が異形である事を、まだ理解していない。
しかし、敵意は皆無である。
4人はアステラに包み隠さず、経緯を話した。
『異形!? 私が!?
胸のモヤモヤみたいなのも、そのせいか……納得!
道理で破壊衝動みたいなのが止まらないのか』
「破壊衝動……割と通常運転では?」
『何だマイン……お淑やかだろ? 私』
「は、はい〜!!」
『まぁ、あれだ! 折角だし、ディクティオとかいう奴が暴れてるんだよな?
そいつのおかげでルーナとこうして話せた訳だし、お礼参りでもしてやらねぇとな?』
「お姉ちゃん、一緒に戦ってくれる?」
『おうよ! 可愛い妹の頼みだ!』
かくして意識を取り戻した、元聖天騎士隊長アステラの異形が仲間に加わった。
たとえそれが短い間の泡沫の夢だったとしても、ルーナの心はこれ以上ない程に満たされていた。
読んでいただきありがとうございます!
お話もいよいよ終盤!
書いていて、とても楽しくなってきました!
皆さんも一緒に楽しんでくれていると、私も思いたいです!
次回はいよいよナツメ君が出てくるかも?




