【第7話】聖天騎士
おめかしした先輩と僕の2人で街に行く事になり、図書館の出入り口へと向かう。
その途中、図書館の受付のような場所を通り過ぎようとした時に声がかかった。
「あら、2人でおでかけ?」
「アベリアさん……受付の人だったんですね」
「ん? 知らなかったの? 受付は端麗なレディが担当するって相場決まってるから、仕方なくね」
そう言いながら、僕達に見せつけるように髪を指でファサッとさせる。
ちょっと様になってるのが無性に腹が立つ。
「夕飯までには戻るようにね〜」
「……ん」
「分かりました。行ってきます!」
アベリアさんに手を振って図書館を後にする。
神界に来て初めての街の探索だ。とても楽しみである。
先輩は表情こそあまり変わらないが、今はとても上機嫌なようで、いつもより歩くペースが早い。
図書館を出て街に向かって歩いていると、
「……何…食べたい?」
「何があるのか分からないですし、クーちゃん先輩のオススメのお店がいいです」
「……後輩…お肉……好き?」
と聞かれたので、好きだと伝えるとこれまた上機嫌になったようで、服の袖を引かれて小走りになった。
しばらく街を進むと、徐々に人が多くなってきた。
昼時なのもあり飲食店らしき店がとても賑わっている。
「……見えた…あのお店」
「あそこが先輩のオススメの店ですか?」
「……オススメと言うより……行ってみたかった」
先輩も行ったことがないお店なのか。
掲げてある看板は漫画などでよく見る骨付き肉が描いてあるので、そういう感じの肉が出てくるのだろう。
店内は他の店よりも人は少なく見える。
「……入ろ?」
「はい。お腹空きましたしね」
お店のドアを開けると、カランカランと小気味のいい音で出迎えられる。
中に入ると、店員さんに奥の方にあるテーブルに案内され、メニューを渡される。
「先輩、どれにしますか?」
「……この……1番大きいやつ…」
「え? 食べきれますかね?」
メニューを確認すると、『超特大骨付き肉………食す者は覚悟せよ』とか書いてある。
2人だけで食べ切れるのかな。
とりあえず、店員さんを呼んで例の特大肉を頼む。
「お嬢ちゃん達大丈夫かい? 結構大きいぞ?」
「……ん」
「何とか頑張ります…」
店員に心配されてしまった……
心做しか、嫌な予感がしてきた。
「……先輩、ホントに大丈夫なんですか?」
「……む…後輩……びびってる?」
「びびってませんよ!? なんて言うかその……」
続きを言おうとしていると、
「はい、お待ちどう様! こちら特大骨付き肉です!」
「「……ぅわ〜お……」」
あまりの迫力に僕達は唖然としていた。
目の前に出てきたのは、かつて見た事のない大きさの肉の塊だ。
今更だけどこれは何の肉なんだろう? こんな巨大な肉も骨も見た事無いのだが。
骨に付いた肉だけでも僕の体重の2倍はありそうだよ。
「とりあえず切り分けますね」
「……ん……クークラのお肉は……大きく切って」
「分かりました」
先輩の目がキラキラと輝いている。
相当食べてみたかったのだろう。
「それでは! いただきます!」
「……いただきます」
切り分けた肉を食べてみる。
皮の部分はパリパリとしていて、中の肉はとてもジューシーだ! 噛む度に肉汁が口の中で弾ける。
控えめに言って、かなり美味しい。
「すっごく美味しいですね!」
「……(こくこく)」
先輩も口いっぱいに肉を頬張り、目を細めて幸せに浸っている。
こんなに美味しい肉なら無限に食べられそうだ!
ーーそんな風に思っていた時期が僕にもありました。
食べ始めてから20分ほど経過しているが、肉の塊を全体の3割も消費できていない。
先輩と僕は共に限界を迎えていた。
「先輩……まだ行けますか?」
「……(ふるふる)」
と首を横に振るわれてしまう。
さぁどうしようか、この量を残すのは申し訳ない。
店員さんに謝ろうと思って立ち上がると、カランカランと店に誰かが入ってきた。
入ってきた人物は店員さんと仲が良さそうに話していたが、僕と先輩に気付くと近寄ってくる。
「あ〜! やっぱりクーちゃんとナツメ君! こんな所で会うなんて奇遇だね!」
「貴女は確か……モネさん!」
「そうそう! 歓迎会以来だね」
これは強い助っ人が来てくれた!
何とか助けを求めて、この大量に残っている肉をどうにかしてもらいたい。
「……モネ……助けて」
「え? あ〜、食べ切れそうにないんだね」
「何とか一緒に食べてくれませんか? 僕達ももう少し頑張るので……」
「いいよ! 今日はお腹空いてるし、いくらでも食べるよ」
良かった、モネさんが来てくれて本当に助かった。
モネさんが食べ始めると、目の前の肉の塊がとんでもないペースで無くなっていく。
僕と先輩も少しずつ肉を食べようとするが、全く食が進まない。
「いや〜ありがとう! ちょっと得した気分だよ」
「本当にありがとうございます。 僕らだけじゃ食べきれない所でした」
「……助かった……ありがとう」
「全然いいよ! あ、大将! これと同じの一皿追加ね!」
「あいよ! 相変わらず気持ちいい食べっぷりだね!」
えっ? これと同じ物もう一皿食べるの?
歓迎会の時にも思ったが、この人の身体のどこにあの量の肉が入っているのだろう?
「ンぐむぐ、ナツメ君さ、むぐむぐ、今日はングどうしてここにいたの?」
「喋るか食べるかどっちかにしましょうよ……」
「……(むぐむぐ)」
迷わず食べる方を選ぶ辺り流石だな。
「(ごくん) で、ナツメ君はどうしてここにいたの?」
「実は図書館で倒れちゃいまして、それで今日の午後は休みを貰ったんですよ」
「それ出歩いて大丈夫なの?」
「割と元気なので大丈夫です! …たぶん」
「そうだ! もしこのあと暇ならアタシ達の訓練とか見に来る?」
それは見てみたい! 騎士って響きがかっこいいし、どんな訓練をしてるのか気になる。
「先輩、訓練見に行っちゃダメですか?」
「……ん…大丈夫……クークラも…久しぶりに行きたい」
「じゃあ決定だね! アタシの食事が終わるまで待っててくれる? すぐに食べ終わるからさ!」
そう言って、新たに運ばれて来た超特大骨付き肉もペロリと食べ終わってしまう。
先輩はその食べっぷりを見て「……うわぁ」とか言っていたが、モネさんには聞こえていないようで良かった。
「「「ご馳走様でした」」」
僕達3人は店員さんに挨拶をして店を出た。
ちなみに、お会計はモネさんが奢ってくれた。
よくよく考えたら僕は1文無しという事に気付いたので、モネさんには借りが2つもできてしまった。
「それじゃ、行こうか!」
こうして僕達は聖天騎士隊の訓練場に向かう。
訓練場へ向かう道中、モネさんは街の至る所で挨拶されてはお土産を貰ったりで、既に両手が塞がっている。
「良かったら持ちましょうか?」
「ううん、大丈夫! これは騎士隊へ向けた、街のみんなからの気持ちだからね。アタシが責任もって運びたいんだ」
この人はなんと言うか、真っ直ぐな人だな。
街の人達からこれだけ慕われているは、騎士隊であること以外にも、モネさんの人柄も大きな要因だろう。
騎士隊の訓練場へ歩いていたはずが、気付けば図書館の前にいた。
もしかすると、図書館の中に訓練場がある、みたいなパターンだろうか?
「訓練場って図書館の中だったりしますか?」
「え、全然違うよ? 図書館が大きすぎて目立たないけど、ここの裏に訓練場があるんだよ」
そうか、僕は図書館が1番端だと勝手に思い込んでいたのか。
図書館の裏側へ行くとかなり立派な建物がそびえ立っていた。
上から見ると、恐らく大きなコの字型になっていて、真ん中の広場では武器を振るっている人達が何人かいる。
「到着! ここが私達の拠点だよ!」
「結構大きな訓練場ですね……」
「……中……行こ?」
モネさんが入口であろう大きな門に近づくと、門がひとりでに開き出す。
「ほらほら! 2人とも入って」
「お邪魔します」
「……お邪魔する」
敷地の中に入ると、数人の天使たちが迎えに来た。
「隊長! お荷物を中に運んでおきます!」
「隊長! 午後の訓練の準備、完了しております!」
「荷物は頼んだ! 訓練に参加する隊のメンバーはアタシが来る前に整列しておく事! それと、今日はここの2人が見学しに行くから、周知させておいてくれ」
「「はっ!!」」
やり取りが終わると部下達らしき人達は何処かに行ってしまった。
さっきまでのモネさんとは雰囲気がまるで違う。
こちらはたぶん、仕事モードの顔なのだろう。
あまり意識はしてなかったけど、この人隊長だったな。
「さぁ! お待ちかねの訓練を見に行こっか!」
「はい!」
訓練をする為の場所に移動すると、だいたい30人くらいの天使たちが整列していた。
すると、モネさんには気付いた天使の1人が、
「隊長! 聖天騎士隊第1部隊32人全員います!」
「うむ! ではこれより、飛行戦闘訓練を行う!
だがその前に、皆も知っての通り、今日は客を招いている! 騎士として恥じぬ訓練を見せよ!」
『はっ!!』
32人もいるのに誰一人として声の乱れが無かった。
それほどにまで統率が取れているのだろう。
騎士隊の人達はそれぞれ槍を手に取り準備を始めた。
この時、僕は聖天騎士隊の訓練に度肝を抜かれる事をまだ知らないのであった。
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次回は聖天騎士隊の訓練です!お楽しみに!(ง •̀ω•́)ง✧