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【第5話】禁書庫




 朝、目が覚めると体が動かせなかった。

 そう……筋肉痛だ。特に足がバッキバキである。

 まぁそりゃそうだ、ほとんどベッドで生活してきた僕が一日中歩き周ったのだから。


(痛たたた、これ今日周れるのかな?)


 動かす度にギギギ…と鳴りそうな身体を無理矢理に動かし、ベッドから降りる。

 昨日はすぐに寝てしまったので確認出来なかったが、この部屋は想像以上に快適だ。

 家具などはもちろんだが、脱衣所にユニットバス、まるで本で読んだホテルの部屋なのだ。


 取り敢えず顔を洗い、備え付けてあった歯ブラシで歯を磨いて、問題は服だ。

 昨日は着の身着のまま寝てしまったので、燕尾服がヨレヨレになっている。

 半ば祈りながらクローゼットを開けると、奇跡的にも替えの燕尾服が何着か掛けられているではないか!

 そうと分かれば新しい服に着替え、取り敢えず昨日食事をした部屋に行ってみる。

 すると、そこには朝食の準備をしているアルバさんがいた。



「アルバさん、おはようございます」


「おはよう。せっかくだし、少し手伝って貰えるかな?」


「分かりました」



 アルバさんは朝から朝食を用意で忙しそうにしていた。



「助かるよナツメ君。その食器類をテーブルに置いて貰えるかな?」


「それくらい大丈夫ですよ」



 皿を配っていて気付いたが、昨日の人数分より多い。



「お皿の枚数が多い気がするんですけど、大丈夫ですか?」


「ああ、昨晩はいなかったけど、オラシア様とメイレールもここに住んでいるからね」



 その2人がいなかったのは恐らく、メイレールさんがサボっていたオラシアさんに放置していた仕事をさせていたからだろう。



「悪いけどナツメ君、クークラを起こして来てもらえないかな?」


「分かりました。呼んできますね」



 僕は先輩を起こそうと、自分の隣の部屋のドアを開けて入った。

 そう、ノックをせずに……それがいけなかった。



「先輩起きてください! 朝で……す…よ?」


「………え?」


「うわぁぁぁ!!!」



 僕が目にしたのはブロンズ髪の少女ではなく、化粧途中の紫のショートボブのおじ…お姉さんのアベリアさんである。

 アベリアさんは化粧台から離れ、ゆっくり僕に近寄ってくる。



「レディの顔を見て出てくる台詞じゃないわね?」


「ごめんなさい! 先輩の部屋と間違えたみたいです!」


「そのようね……でもね? 仮にもレディの部屋に入ろうとしたんだから、ノックくらいはしなきゃダメよね?」


「はい! 僕もそう思います! 以後気をつけます!」



 何とか許して貰えただろうか?

 それならとても有難いのだが、



「…で、うわぁについて聞かせてもらおうかしら?」



(あっ、図書館生活終わった……)


 僕の方に手が伸びてきたので、祈りながら目を瞑る。

 コツっと額にデコピンされた。



「今回はこれでチャラにしてあげる。次は……分かるわね?」


「イェスサー!」


「いい返事だけど、レディには"イェスマム"よ?」


「イェスマム!!」



 そんなやり取りを終えて、ようやく解放された。

 死ぬかと思った……でも、何とか許して貰えた。

 今後は冗談抜きで気を付けよう。

 さて、一段落した所で肝心の先輩を起こしに行こう。

 僕のもう一方の隣の部屋をきちんとノックをしてから、返事が無いことを確認して中に入る。



「くーちゃん先輩、朝ですよ。起きてください」


「……んぅ……あと5日…………」


「いや、寝すぎです! 早く起きてください。みんな待ってますから」


「……んむぅ……おんぶぅ……」



 と言いながら両手をこちらに向けてくる。

 何だこの可愛さにパラメータを全振りした生き物は。

 可愛さに抗えるはずも無く、寝巻きのまま先輩をおんぶしてダイニングに向かう。



「おはようございます。ナツメ君」


「おはようございます」


「オラシアさんにメイレールさん、おはようございます」



 席にはもう全員が座っていた。

 僕もクークラさんを椅子に座らせ、自分の席に座る。



「それじゃみんな揃ったし、いただきます」


『いただきます!』



 サラダとトースト、各種ジャムといった朝食だが、大勢で食べるととても美味しく感じる。

 朝食を食べながら雑談をしているとオラシアさんが、



「そう言えば、朝からこの辺りで強い祈りを感じたのですが、心当たりはありませんか?」



(心当たりしかないが、ここは黙っているのが吉だろう)


 他の人は心当たりが無いらしいので、確実に僕の祈りだろう。必死だったのだ、仕方ない。



「かなり切羽詰まった祈りだったので、心配ですね……」


「神様って祈られてるとか分かるんですか?」


「神様全員がそうじゃないですよ? 私が『祈り』を司る女神だからですね!」



 何故か自信満々という雰囲気だ。

 というか、オラシアさんは祈りを司っていたのか。

 ただ、祈りの内容までは分からないようで助かった。

 そんなこんなで朝食を食べ終わり、各々が仕事に向かう。



「引き続き、今日も案内よろしくお願いしますね」


「……ん……よろしく」



 今日、僕が案内されるのは禁書庫だ。気を引き締めていこうと思う。

 少し歩いた所で、やっぱりどんな場所なのか気になるので、先輩に聞いてみた。



「禁書庫ってどんな場所なんですか?」


「……禁書庫には……2つ種類がある。……1つは…危なくないけど…とても広い」


「もう1つは……」


「……ん……めちゃくちゃ…危ない」



 危ない本ってどんな本なのだろうか?

 それと、広いだけで何故、禁書庫になるんだろう?

 これは実際行ってみないと分からなそうだな。







 1つ目の禁書庫には思っていたよりすぐに到着した。

 禁書庫と言う割には、割と普通の木で作られたドアと言う印象だった。ただ、鍵穴は縦に3つも並んでいる。



「……ここには入れるから……入る」


「分かりました…」



 先輩は懐から鍵がジャラジャラと繋がったリングを取り出して鍵を探し出す。

 しばらく探した後、僕の方に鍵を差し出した。



「……後輩……どれだと思う?」


「えっ、分からないんですか?」


「……ん……こんな所…滅多に来ないし」



 2人で3つの鍵を探し出すのにかなり時間を費やしたが、何とか3つの鍵を開けることが出来た。



「……よし…入ろ?」


「分かりました」



 少し怖いけど、ゆっくりドアを開けてみる。

 部屋の中は4次元空間なのかと疑うほどの広さだった。

 雰囲気は割と普通の、どこにでもある本棚に大量の本が並んでいるといった感じだ。



「先輩、ここってなんで禁書庫なんですか?」


「……ん……1冊手に取って……読んでみて?」



 言われるがままに近い所にあった本を1冊引っ張り出して、中を確認してみる。


『6月17日 今日は朝から雨が降っていた。

お出かけ用の服をデパートに買いに行きたかったのに、行けなくて残念。明日は晴れるといいな!』


 と、そんな事が書かれていた。

 数ページ読んだが、この本1冊このような内容だった。

 要するにこれは、誰かの日記という事だろうか?

 表紙のタイトルを見てみると、『緒方 夏帆』と明らかに人の名前が書いてあった。



「先輩…これって……」


「……ん……それは…この世界に生きてる人の…日記」


「…………」


「……後輩は…日記とか読まれても……平気?」



 なるほど、禁書庫な訳だ。

 ここを他の人が閲覧出来ないようにしているのは、プライバシーの保護のためなのだろう。



「この部屋にある本は全部、誰かの日記なんですか?」


「……そういう訳じゃない……ここにある本は…日記以外にも…ある」


「例えばどういう本があるんですか?」


「……完結していない…なおかつ……未だ更新されている本」



 日記も言ってしまえば未完成の本という訳か。



「……後輩の住んでた所では……インターネット?……ってやつがあって…そこにはいっぱい物語が更新されてる……よね?」


「そうですね、いっぱいありました」


「……それが本になっていても…いなくても…ここには本として置いてある」



 この広さと膨大な数の本の理由がようやくわかった。

 世界中の人の日記もそうだが、ネット小説や漫画などが置いてあるなら、この広さになるはずだ。



「物語が完結しないまま終わった作品とかはどうなるんですか?」


「……ん……完結してなくても……ここには残る」



 この部屋はもしかすると年々広くなっているのかもしれない。

 あまり長い事ここに居ると、帰り道が分からなくなりそうだったので、2人で出口まで戻った。

 帰り際はある程度、鍵の形を覚えていたのでスムーズに施錠できた。

 次に向かうのは危ない方の禁書庫か……



「……じゃ……行こ?」


「はい…」







 しばらく歩き続けると、周りの雰囲気が少しずつ物々しくなってきた。

 何回か階段を降りたので、ここは恐らく地下だろう。



「そろそろ到着しますか?」


「……ん……もうすぐ…もう見える」



 少し狭い通路を抜けると、六角形の部屋に出た。

 天井はかなり高く、ガラス張りになっているようで、少しだけ陽の光が見える。

 そして目の前にある扉である。

 別に大きい訳でも何でもないが、とても威圧感がある。



「……ここが……禁書庫」


「中には何があるんですか?」


「……強いて言えば……魔素を吸収し過ぎた本」



 物でも魔素が吸収できるのだろうか?

 この扉を見て思ったが、先程の禁書庫のドアには鍵穴が3つもあったのに、この扉には1つしかない。



「ここは鍵穴が1つなんですか?」


「……ん……ここの鍵は…資格がある人しか持てない」


「資格、ですか?」


「……ん…詳しくは…分からない…でも…後輩ならその内…入れると思う」



 いずれこの中に入らなければ行けないのか……

 ここはまだ2人とも入る資格を持っていないので、戻る事になった。

 しかし、僕は好奇心に抗えず、鍵穴から禁書庫の中を覗き込んでしまった。

 鍵穴から中を覗いた瞬間、怒涛の勢いで頭の中にあらゆる声がなだれこんで来た。


『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!』

『俺が何をしたァァ!?!?』

『お前もか!? お前もォオオ!!!』

『熱い………熱いよ……』

『私が全てだ!! 私こそが!!』

『何処だ………何処にいるのだ……』

『あいつが殺したんだ、あいつが殺したんだ、あいつが…』



 鳴り響く声と憎悪に耐えきれず、僕は意識を手放した。




ここまで読んでいただありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 禁書庫。危なげな響きですが、神域の図書館たる物語構造の重要なところなのですよね? 本とその中の物語、そして魔素。物語としてとても面白い発想ですね。そしてまだ詳細は不明ですが、危ないほうの禁書…
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