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【第4話】館内巡り




 朝起きると、部屋には既に誰もいなかった。

 誰かが掛けてくれた毛布をどけて起き上がる。

 テーブルの上を見ると、トーストとゆで卵、そして1枚の置き手紙があった。内容を確認すると、


『起きたら食べてください。着替えは椅子の上に置いておきますので、着替えて待っていてください。 アルバ』


 と書かれていた。

 とりあえず書いてある通りに朝食を食べ終え、椅子の上に綺麗に畳んで置いてある服を広げてみる。

 それは自分用の燕尾服だった。

 着かたが分からないので、取り敢えず想像に任せて袖を通してみる。

 多少の違和感はあるが、問題なく着る事ができた。

 鏡が近くに無いので、細かいところは確かめられないが、似合っている気がする。いや、似合ってないと困る。


 着替えが終わったので、応接室の扉を開けてみる。

 そこにはやはりファンタジーな空間が広がっており、昨日の出来事が夢ではなかったのだと思わせてくれる。


(昨日はここまで走って来たから、ゆっくり見れなかったんだよな……)



「おや、起きたんだねナツメ君。着心地はどうだい?」


「アルバさん、おはようございます。ピッタリだと思いますけど、着かたはこれで合ってますか?」


「ええ、合っていますよ。とてもよく似合っています」


「ありがとうございます。早速なんですけど、仕事ってどんな事をすればいいんですかね?」



 1番大事な事だ。ここには一応仕事をするために来ているので、何とか役に立とうとは思っている。



「その事なんだけどね、いきなり仕事は出来ないだろうから、まずは図書館内を見学してきて欲しいんだ」


「見学ですか? って事は明日から仕事をするって事ですかね?」


「いや、1日じゃ到底周りきれないから、少し端折りながら3日くらいかけて見学してもらうつもりだよ」



 端折ってなお3日かかるのか、確かに広いので一日ではどうにもならないのは理解出来る。



「と、言うわけで。今日から3日間はクークラと一緒に図書館内を回ってきてもらえるかな?」



 そう言うと、アルバさんは小さなハンドベルのような物を数回鳴らした。

 すると、どこからともなく深緑のメイド服姿の少女が姿を現した。



「……ん…?……呼んだ…?」


「呼んだ? じゃないですよ……今日からナツメ君に図書館を案内してって頼んだじゃないですか…」


「……あ……忘れてた」


「忘れてたって……まぁ、いいですから案内をしてきてください」


「よろしくお願いします、くーちゃん先輩」


「……ん……後輩……れっつごー」



 こうして先輩との3日間にも渡る案内が始まる。

 今日はまず、館長の執務室へ向かう事になったので、そこを目指して2人で歩き始めた。



「先輩はもう全部の場所とか覚えているんですか?」


「……ん……覚えてる…後輩も……すぐ覚えられる」



 と言いながら、こちらを見ずにサムズアップする。



「そうですか……」


「………………」


「………………」



 先輩、ノリはいいのだが、基本的には無口なので会話が途切れると地獄のような静寂に包まれる。

 たまに喋っては沈黙してを繰り返し、30分近く歩いただろうか? 



「そういえば先輩ってどれくらい前「……着いた」」



 目の前には扉があった。扉と言うよりは戸だろうか?

他の場所はどちらかと言うと洋風なイメージだが、ここは和風なのかな?



「……リオ爺……入る…返事は……聞かない」


「えっ、いいんですか?」


「……構わない……はず…」



 先輩はピシャーン! と勢い良く戸を開け中に入ると、奥に座っている人物に軽く挨拶を交わしていた。

 中は和室のような雰囲気で、そこまで広い訳では無い。

 部屋の半分から奥は1段高く、畳張りになっており、そこの座布団の上に正座をして作業している燕尾服姿の館長がいた。



「ようこそナツメくん。ここがわたくしの執務室です。

 机と本以外は何もありませんが、和室が好きならいつでも遊びに来るといい。話し相手に不自由していてね」


「はい、すごく落ち着きます。リオ爺さんには色々と聞きたい事があるので、近々来たいと思います」


「……ここは……絶好のさぼりスポツト」


「そこまでハッキリ言われると辛いですな、わたくしがさぼっているみたいに見られるじゃないか……」



 可哀想な事に図書館長ともあろう人が少し項垂れているじゃないか。

 そんな事はどうでもいいとばかりに先輩は次の目的地に向かおうとしていたので、僕も軽い挨拶をしてから部屋を後にした。



「次はどこに向かうんですか?」


「……次の…さぼりスポットは……図書館端の庭園」



 おや? なんか本来の目的とは違う場所に向かおうとしてないか? でもまぁ、案内は案内だからヨシ!

 歩き始めてしばらくすると、珍しく先輩から話しかけられる。



「……リオ爺の部屋に着く前……何か…話そうとしてた…?」


「え? ああ、くーちゃん先輩が何年くらい前からここでお仕事をしているのか聞こうとしてたんですよ」



 先輩はしばらく悩んでいるような仕草をすると、



「……少なくとも…120年は…ここにいる……かも…?」


「120年!? 先輩の年齢はいくつなんですか!?」


「……む……レディに歳を聞くの……ナンセンスって……アベリア…言ってた」



 確かにその通りだ。これは反省しなければいけない。

 しかし、見た目は10歳くらいなのに120歳はゆうに越えているのか。



「ちなみに、リオ爺さんって何歳か知ってます?」


「……ん……確か…500ちょっと…だったはず」



 どうやら図書館長もド級の年齢だった。

 この事も色々含めて後日、聞いてみるとしよう。

 それからまた40分ほど歩くと、とても明るく開けた空間に辿り着く。

 庭園内はその広さと、全面がガラス張りになっている事で屋内だと言う事を忘れさせる。

 庭園には花々はもちろんの事、至る所にベンチや丸テーブルなども置いてあり、天使達が優雅に本を読んでいたり、談笑していたりと賑わっていた。



「綺麗な所ですね。ここならずっと居れそうです」


「……ん……ここは…最高のお昼寝スポット」


「オススメの場所とかあるんですか?」



 そう聞くと、奥の方にある少し大きめの木を指さして、



「……あの木の下が……至高…!!」


「あっ! ちょっと待ってください!」



 先輩は僕の手を取り、走り出した。

 例の木にたどり着くと、そこには先客がいた。



「もしかして、またサボリですか? オラシアさん」


「えっ! ナツメ君!?  なんでここに居るんですか?」


「……後輩の……案内」


「あらあら。くーちゃん、ちゃんと先輩しているんですね」



 褒められて少しドヤ顔の先輩が微笑ましい。

 まぁそんなことより、



「オラシアさんはサボリですか?」


「違うの! メルちゃんには言ってないけど、ちゃんと仕事をしてから休憩してるの! ホントなんですから!」



 その後、次の目的地に向かう途中で、鬼気迫るオーラを放つメイレールさんにオラシアさんの居場所を聞かれた。

 もちろん、自分の身が可愛い僕と先輩は、迷いなくオラシアさんの居場所を教えて次の目的地へ向かった。

 その後、オラシアさんがどうなったのかは知らない。

 神のみぞ知ると言うやつだ。



「……メイレールだけは……怒らせちゃ…ダメ」


「うん……僕も気を付けます……」






 この後は一日、特に何事もなく色々な場所を巡った。

 掃除用具の倉庫、食堂、各所のトイレなどなど。

 正直、広すぎて道はほとんど覚えていない。



「今はどこに向かってるんですか?」


「……最後は…私たちのお家に……案内する」



 今日は結構周ったけど、どうやら次が最後らしい。

 もはや足が棒になってしまいそうなほど疲れている。



「そういえば、皆さんはどこに泊まっているんですか?」


「……ん……泊まると言うよりは……ここが家」



 皆は図書館で生活しているのか?

 共同生活みたいな感じなのだろうか?



「……着いた……今日は…お疲れ様」



 到着したのは割と大きめの家? だった。

 外見は洋風な屋敷と言ったところだろうか?


(でかいな、って言うか建物イン建物なのか……)



「……ここが…みんなのお家……帰る場所」


「僕もここに住むんですね、改めてこれからよろしくお願いしますね、先輩」


「……ん……こちらこそ…よろしく……じゃ…入ろ…?」



 玄関のドアを開けると、両手で鍋を抱えたアルバさんが軽く出迎えてくれた。



「おや、遅いおかえりだね。夕飯ができたから、皆で食べようか」


「……!…今日は…シチュー……アルバのは…天下一品!」


「そこまで褒めてもらえると嬉しいね。クークラの分は大盛りにしといてあげるよ」



 こうして自分を含めた神域の図書館のメンバー5人で暖かい食卓を囲んだ。

 生前ではこんなに大勢で食卓を囲んだことは無いので、とても新鮮な気分だった。

 これが毎日続く事を想像するだけでも、とても楽しい気持ちになる。


 夕飯を食べ終え、片付けが終わったあと、先輩に連れられて自分の部屋を見に行くことになった。


 部屋の中は割と広く、クローゼットやベッドなど、生活に必要そうな家具は揃っていた。


「……ここが…後輩の部屋……クークラの部屋の…隣」


「案内ありがとうございます。先輩は隣の部屋なんですね。たまに遊びに行ってもいいですか?」


「!?(こく、こく!)」



 先輩はとても嬉しそうな顔で頷いてくれる。

 また遊びに行ってみよう。



「明日もよろしくお願いしますね」


「……ん……明日は…禁書庫に行く…少し…危ない所」


「禁書庫ですか、少し怖いけど、頑張ります!」


「……ん…いい返事……おやすみ」


「はい、おやすみなさい」



 僕は先輩と別れた後、すぐにベッドに飛び込んだ。

 病気にはならないけど、筋肉痛にはなるらしい。

 無事に図書館生活1日目が終わり、安心して眠りについた。



 翌朝、地獄のような光景を見るとも知らずに……




今回も楽しんでいただけましたでしょうか?


面白い!続きが気になる!と思っていただけたなら、

下にあるブックマークや、評価を☆☆☆☆☆をつけていただけると嬉しいです!


これからもモチベーション上げて頑張って書くので、応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言]  ご投稿お疲れ様です。  (人´∀`)クーちゃん!クーちゃん♪
[良い点] 職員の皆さんも良い人ばかりですね。 でも爺ちゃんと瓜二つな図書館長さんがやはり気になる! この図書館ならナツメも気持ちよく働けそうですね!!
[一言] 年齢といってよいのかわかりませんが、この神域は、確か初話で不老不死だとは言っていなかったと思うのに、数百年の時間を経過しているのはやはり不老不死? それとも神域では時間の経つスピードが遅いの…
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