【第16話】白い本
図書館の外で昼食を食べた後、僕と先輩そしてルーナは禁書庫に戻って来た。
「図書館には何回も来た事があったけど、こんな所もあったんだね……」
「関係者以外は一応立ち入り禁止らしいしね……」
禁書庫には鍵がかかって中に入れなかったので、扉の前でリオ爺を待っていた。
「待たせてしまいましたね、おかえりなさいナツメ君。
横にいるお嬢さんがナツメ君に選ばれた子ですかな?」
「え、えぇっと、初めまして…… 聖天騎士学校から来ました。ル、ルーナと申します」
「そう畏まらなくても大丈夫ですよ。
神域の図書館にて図書館長を務めております、リオテークと申します。
どうぞ気軽にリオ爺とお呼びください」
「は、はい! よろしくお願いします、リオ爺さん!」
ルーナは腰から直角に折り曲げ頭を下げた。
傍目から見ても分かるくらい緊張してるな……
「せっかくなのでもう少し会話を楽しみたい所ですが、あまり時間に余裕がありません。
早速、2人には特訓をしてもらいます」
「特訓ですか? 図書館内にそんな場所ありましたっけ?」
「いえ、無論物語の中で訓練してもらいます」
あんな怪物といきなり戦わされるのかな……
「取り敢えず、禁書庫に入りましょうか。
私は説明云々より、実力行使派ですので、覚悟しておいてください」
鍵を開けながらそんな恐ろしい事を言わないで欲しい……
でも、今は道連れ、もといパートナーのルーナもいるし何とかなるだろう。
「ではどうぞ中へ、詳しい話は物語の中で話すとしましょう」
「お、お邪魔します……」
「リオ爺、あんまり怖がらせないであげてくださいね?」
「善処致しましょう」
これは絶対しないやつだ。感覚で分かる……
「そういえば、物語で鍛えるって言ってましたけど、あんなのと戦える気が微塵もしないんですが……」
「あ、あんなの……?」
そうか、ルーナはまだ見た事がないんだよな……
「あ、あの……リオ爺さん、それってもしかして物語に出てくる『異形』ってやつですか?」
「流石は聖天騎士の見習いさんですね。
しっかり勉強なされている、わたくしも説明が省けて大変助かります
でも、大丈夫ですよ。今から行く物語に登場人物はいませんので」
そう言いながら棚から取り出したのは、かなり薄い本だった。
表紙に何も書いてない白い本。
「自由帳か何かですか?」
「過去にわたくしが修練を積むために書いた本ですよ。
中身を見れば、修練の内容までは分からなくとも、予想はできますよ」
僕はその白い本をパラパラと数ページめくって読んでみる。
『1年が経過した。』
『3年が経過した。』
『10年が経過した。』
全ページそんな感じの1行だけが書いてある。
まるで、有り得ないほどズボラな人が書いた日記だ。
そして何一つ修練の予想が出来ない。
「これで、何をするんですか?」
「おや、聡明なナツメ君でもまだ分かりませんか?
ではお聞きします、先程読んだ数ページだけで、この本の中ではいったい何年の時が経ちましたかな?」
あぁ、僕の予想が正しいなら、かなり凄いな……
ルーナは頭にいくつかのはてなマークを浮かべて、僕とリオ爺の顔を交互に見る。
「短い時間で数年分の何かができる、的なやつですか?」
「概ねその通りです。
では、こちらの本に先に入っていて貰えますか?
わたくしも準備が出来次第そちらに向かいますので、ルーナさんに説明だけしておいてください」
説明か、何処から何処まで説明すればいいんだ……
取り敢えず初めは──。
「合言葉を決めよう!」
「あ、合言葉?」
僕は物語の中に入る時に合言葉が必要な事や、前回の大兎の件をざっくりと説明した。
「なるほどね、合言葉か……
ちなみにナツメ君のはどんな感じなの?」
「僕のはね……っ!」
気付いた、気づいてしまった。リオ爺があの時言っていた、かっこいいを理由に合言葉を決めると、後々後悔することになる……
この事か〜っ!! 僕自身、今でもかっこいいとは思っているけど、他の人に聞かれるとなると話は違う!
なんて言うか、その……恥ずかしい!!
「その、僕のは……」
「どうしたの?」
ええい! もうどうにでもなれ!
「僕のは『悪しき者に正義の鉄槌を、助けの声に愛の手を』って合言葉にしてる……」
「──いい……」
「え?」
「かっこいい! わたしもそんな感じにする!」
ルーナもこっち側の人だったか……
良かった……いや良かったのか?
でも、ルーナもかっこいい合言葉にするなら、僕も恥ずかしくないぞ!
そんな事を思っているとルーナがキラキラと目を輝かせて言った。
「よし決めたよ! わたしの合言葉!
わたしが先に本の中に入ってみてもいい?」
「うん、僕は大丈夫だよ。入り方は説明した通りね!」
「じゃあ、行くね!」
ルーナは魔法陣の壁の前に立ち、白い本に手を添える。
『我は守護する者、扉よ開けこの命朽ち果てるまで』
こうしてルーナの合言葉は登録された。
ちゃんと発動したようで、魔法陣が淡く光る。
「向こうで待ってるから早く来てね!」
「うん、すぐ行くよ!」
僕も白い本に手を添えて、合言葉を唱える。
『悪しき者に正義の鉄槌を、助けの声に愛の手を』
魔法陣を通って中に入ると、ルーナは体育座りをして潤んだ瞳でこちらを睨んでいた。
「すぐ来るって言ったのに、なんで2日も放置したの!?」
読んでいただいてありがとうございます!
面白い、続きが読みたいと思った方は、ブックマークや、広告の下の評価☆☆☆☆☆をつけてくださると嬉しいです!
次回も乞うご期待なのです!
感想やレビューも待ってます!




