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短編集

メガネ、

作者: 七星 ナツキ

 ──朝、枕元のスマホのアラームが鳴る。何度目のアラームだろう、朝に弱い私は毎朝何重にもアラームをセットしておくのだ。……画面を見るに、どうやらもう起きなければならない時刻のようだ。むくりと起き上がり、ようやく慣れたメガネをかけ食卓へ向かう。

──何気ない日常の始まりだ。


 家族への挨拶もそこそこにジャムを塗ったトーストと牛乳で腹を満たす。歯を磨き、髪を梳かし、制服に身を包み荷物を持てば登校。毎朝ギリギリの時刻である。

改札を通れば少しして電車が来る。人の少ない後列の車両に乗り込み、座席に座れば唯一朝にゆっくりできる時間が来る。メガネを外し、人のいない車内から外の景色を眺めていれば学校へはすぐだ。

──何の変哲もない私の日常だ。


 メガネをかけ直し最寄り駅を降りる。この時間ではほとんどの生徒が既に登校しているため人はまばらだ。いくら進学校であろうとも歩きながら単語帳を手にする者はいない。私は無心で歩み、教室へ向かった。

席に着きひと息ついたらチャイムが鳴る。内向的でマジメなメガネっ子の私の学校生活が始まる。

──学校での日常が流れてゆく。


 黙々と授業を受け、休憩時間に目と脳を休め、また授業の繰り返し。昼休みは昼食とアプリゲームで気分転換。そして眠気を払いつつまた授業。特出すべき点のない、何の変哲もない時が過ぎてゆく。既に部活動を引退している身である以上今は耐え、努力すべき時である。クラスの違う友人も頑張っているはずだ。

学校が終われば塾へ向かい、授業を受け自習をする。ただひたすらに、淡々と勉強をする時間を積み重ねる。ふと天井を見上げるがすぐにまた机へ向かう。長時間メガネをかけ続けるのもすっかり慣れていた。

──この先の明るい日常を掴むため。


 家に帰れば夕食の時間だ。親と共に食事をとり、何気なくテレビを見る。風呂に入り、歯を磨き、勉強すれば夜も更ける。メガネを外し、独り眠りに着く。明るい日常を目指して、信じて。

──これが私の日常。



 ただ淡々と繰り返す何気ない日常。いい大学へ行き、いい会社へ就職する、そんなフツウに暮らせるのがシアワセなのだろう。

だって世の中には私よりもフコウな人は多いし、私は不幸にはなりたくない。だからワタシはシアワセでいたい。

だから私の知っている、私たちの周りの人達の生き方と似るのは必然と言えるだろう。その道しか知らないから。


 私も、このクラスのみんなも、進学校である以上イイ進路を望んでいる。私はココロを洗い流すように、クラスのいちグループの後を追いトイレへ向かう。手洗い場の前に来た時、スマホにアイドル育成ゲームの通知が入る。キラキラ生きているキャラクターからのメッセージを見ると、ふとメガネのヨゴレに気がついた。楽しげに会話するクラスメートを横目にメガネを外すと──

鏡に映っていたのはメガネを持った顔のぼやけたヒトだけがいるトイレだった。

あなたはジブンを持っていますか?

あなたはナニモノですか?

あなたはダレですか?

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