プロローグ:いつもの風景
「やる気ないなら帰ってもいいぞぉ〜!」
ちっ、こんなこと言われて帰る奴がいるかってんだ。
昼休み終了後20分経過。ただ今5時間目、日本史の授業。季節は春。そして俺は窓際。この、時、場所、状況で寝ない奴はいるんだろうか。いるかもしれない、物凄く近くに。
「・・・・・・はぁ」
「なんだい?」
俺はため息を吐きながら、隣の真面目ちゃんから目を離す。
メガネ。そう、クラスに一人はいるメガネ。別にメガネを馬鹿にしていない。しかし、こうもメガネが似合う奴がいるなんて。
身長は俺より高く、体の線も細い。貧弱ともいう。狐目というか、なんというか、鋭い目つき。漫画に出てきそうな委員長キャラ。なんとリアル(現実世界)でも委員長。
「きめーきめー」
「私語は謹んで、授業受けろ」
おまけにこの上から目線。一回ノシてやろうか。いや、やめとこう。停学明けて2週間も経ってないし。
「あーあ、なんか楽しいことねぇかなぁー」
「邪魔するなら出て行け!」
ちきしょう。
「霞さん、今日はどうします?」
あぁ、これが可愛い女の子からの会話なら俺はキャッチするだろう。だが、実際にこの言葉を放っている奴は、目の下に切り傷痕がある、金髪小僧。俺の一個下だ。
ピアスをしていて、髪は短髪、金髪。見れば一発「不良」。そう俺はその不良達のドン、つまりTOP。
「なぁ、大河。俺と武藤の間にある差ってなんだ?」
「武藤?あぁ、あのイケメン野郎っすね!あんなの殺すっきゃねぇっしょ」
「お前、俺の質問聞いてる?」
「え?なんでしたっけ?」
「・・・もういい・・・」
馬鹿ってどこまで行っても馬鹿。まぁ俺も他人のことイエナイ。「目くそ鼻くそを笑う」っていうよね。それ俺のこと。
おっと、イケメンの話をしていると、張本人が来たよ。
「よっ、イケメン」
「黙れよ、不良」
俺の友好的な会話を見事にスルー。もうちょっと言葉のキャッチボールしない?
「てめぇ!霞さんに何タレてんだ、ブッ殺すぞ!」
案の定、大河が吼えた。これで俺の高校生活青春偏差値が下がったよ。キナ臭い高校生活が段々確立されていくよ。あぁ・・・・。
「吼えるなよ、下っ端Aが」
武藤が大河に言い返す。もちろん顔も見ずに。
武藤はサッカー部で、1年ながらレギュラーを任されている。ポジションは・・・どこだっけ。
「今日は玉蹴らなくていいのか?」
俺は聞いてみる。正直あんまりサッカーは知らない。けど、最低でも普通の友人くらいはもう少し増やしたい。しかもイケメン。俺の周りは堅気には見えない奴等ばかり。
「玉じゃねぇよ、ボールだ。あぁ、今日は筋トレだ。お前こそ何やってんだ?停学明けたばっかだろ」
「だから、てめぇはよぉ!」
大河がついに武藤に殴りかかった。俺は上半身を大河の進行方向に入れ込んで止める。
「やめろ、大河。今日はもういい。皆に『白菊の実』に集合かけろ」
「・・・・うっす」
まだブツブツ言いながら大河はカバンと小さな体を揺らしながら、校門を出て行く。
「不良の長も大変だな」
無表情で喋る武藤は校門を出て、道を曲がっていく大河を目で追いかけながら俺に言う。
「まぁ、俺だってなりたくてなったんじゃねぇ。普通の生活ってのを今でも取り戻したいと思ってるさ。」
俺はため息を吐きながら答える。そう、なりたくてなったんじゃない。本当なら、普通に勉強して、部活して、恋愛もそこそこして、卒業する。その後の事は後で考える。
でも、もう戻らない。戻れない。このポジションからは引き返せない。巻き込んだ責任、集めた責任が俺にはある。今更逃げれない。
「ふーん、やっぱ入学当初のアレか。あんなに派手にやらかしたら嫌でもそんな状態になるな」
「イケメンでも言っていい事、悪い事があるんだぜ?」
「おっと、怒れる獅子が目覚める前に俺はミーティングに行くよ」
おっと、無意識にイラついてたみたいだ。落ち着け、俺。停学明けたばっかだ。これ大事よ。
停学明けてすぐ、また問題起こしたら面倒になるからな。あぁヤダヤダ。
イケメンこと、武藤君が振り返った。一体なんだ?
「あぁ、言い忘れてた。木下と奥川が付き合ったぞ。今日の昼休みにな。ご定番の『3番目の桜の木』の下でだ。まぁ頑張れ、不良」
奥川さん。クラスで一番可愛い女の子。髪はセミロング、目はクリクリ。色白。おまけに性格は天然。
木下君。誰それ。
「なにーーーー!?」
そうさ、世の中面白くない。
だから言ってやる。
ちきしょう。