高校生活の折り返し
「俺と同着とは珍しいな成宮!セーフだが、気をつけろよ~」
人の好さそうな、それでいて気の抜けた声で注意をしながら教壇に人がたったと同時に成宮も席に着いた。
我らが2年A組の担任、菅谷 浩二先生...みんなはスー先生と呼んでいる。
「ホームルーム始めるぞ~、さて、今日から10月に入り2年生も折り返し、つまりは高校生活が折り返しに来たわけだがー、あー何が言いたいかというと、来月の11月は修学旅行がある!今日のHRではその班決めをしてもらうぞ~」
「修学旅行キター!」
「私たちは同じ班で決まりだよね」
「班って何人なんだろ?」
「行先は確か京都だよね!たのしみー」
途端にクラスがざわざわし始める。
当然修学旅行の存在は知っていたが、班決めをすることで現実味を帯びたのだろう、クラス全体が浮足立っている。
「楽しみになるのはしょうがない、ただこれから班決めだ、委員長たちに協力してやってくれな~
成瀬と夏江!すまないが前に出て舵取り頼む。
うちのクラスは31人だから男女3人ずつ5班を組んで一班だけ6人になるよう決めてくれな~
俺は職員室にいるから30分以内に終わったら呼んでくれ!以上!」
そう言い残してスー先生は教室を出た。
「夏江、行こう。」
「ええ」
不本意だがクラスの委員長になってしまったので仕事の時間だ。
しかもよりによって毛嫌いされている夏江が相方...
「私が仕切りをするから、あなたが板書をやってもらえる?」
「わかった」
別に断るほどの理由がなかったため、役割分担はすんなり決まった。
クラス委員長が決まったのは当たり前だが4月、当然修学旅行は意識していた。つまりこの状況もいずれ来ることは想定済みだ。ある程度の仕切り役についてもイメージ済だったが。
修学旅行とは高校生活において至上といってもいいくらい一大イベントだ。
その班分けとなれば当然ひとりひとりに願望が存在しているだろう。決め方を間違えれば反感をくらいかねない。そのため板書でその責任をかわせるなら願ったりかなったりだった。
「班分けを始めます。このクラスは男子15人、女子が16人、5班になるようにだから、まずは男女別で3人組を決めてもらってもいいかな?そこからくじ引きで男女6人の班を作りましょう。余った一人は私の班に入ってもらおうと考えてます。」
自分から仕切りをあげたのだ、何か画期的な策などを考えていたのだろうと黒板に白い線で名前を書く間取りを描きながら聞いていたが、ごく普通の提案だった。
「夏江、それだと一人余ったうえに余ったことをみんなにさらす羽目になるぞ、その人がかわいそうだ、、」
「仕方ないでしょ?一班だけ4人の班を作れって言っても抽象的だし、それで4人組が2つできたりしたら2人組が生まれることだってある。それだとその2人だってかわいそうってことになるじゃない。班決めの最中は不安にさせてしまうけど、余ってしまった人は私が組むわ。一人にはさせない。それともほかにいい案があるのかしら?今更くじ引きなんて提案はあまりにも現実的だわ。」
既にクラスは夏江の提案を受け入れ、それぞれが仲のいい友達のもとへ移動し始めていた。周りのクラスも班決めをしてるのだろう、廊下を伝って声が響いてくる。
「そうか、そこまでの覚悟を持ってるなら俺からいうことは何もないな、すまなかった。でも夏江、一つだけ問題がある。それはお前が女子にも人気だってことだ。」
そう、夏江は男子にも女子にも人気がある。つまり言い方は悪いが余ってしまった人が一番人気の班に入ることで反感があるかもしれない。
大げさかもしれない、気にしすぎかもしれない。さらに夏江沙織は間違いなくこのクラスのトップカースト。不満があったところで仕切り役でもある本人に吐き出す愚か者はいないはずだ。
だがそれでも不満は出るだろう。それで不満を飲み込もうとする。しかし耐えられなかったら?その矛先はどこに向く?夏江ではないなら,,,
「あなたが危惧してることは大体理解したわ。確かに一理ある。嫌味になってしまうから今更とぼけたりしないけど、私くらい人気者だとありえなくもない話ね、もちろん私はみんなを信じてるし、その程度のことでいじめに発展することもないわ、」