表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

第3話 俺と後輩と日曜日

 目覚めてすぐにわかった。


「――これは夢だな」


 今、俺の目の前に広がっている光景。

 それはRPGに出てきそうな草原だった。


「よし。もう一回、寝るか」


 ゲームだと、ここから色々なクエストが発生したりと、面倒なことになることが多い。

 それが討伐系のクエストだった場合、俺はスライムにすら勝てない自信がある。

 だから危険を避けるため、俺は二度寝をしようとした。

 しかしふと声が聞こえたんだ。


『忍よ、目を覚ますのじゃ』


 その声には聞き覚えがあった。

 俺は閉じかけていた目を開き、即座に視界へ入ったその人物を殴った。それもグーで。

 俺に殴られたその人物は、数メートル程後方へと吹っ飛ぶ。

 にも拘らず。腫れた頬を撫でながら、ゆっくりと立ち上がり、こっちへ歩いてくる。


「いきなり親友に、なんてことするんだ」

「誰が親友だ‼ 夢にまで出て来やがって。その眼鏡、カチ割ってやろうか?」


 こっちへ歩いてきた人物は、自称俺の親友を宣う眼鏡副会長――霧道司だった。


「それで? お前は何の役だよ?」


 俺が尋ねると、霧道はどこからともなく、あるものを取り出した。

 それは仙人が使うような、あの先端が渦巻き状の棒。

 その渦巻部分を空にかざしながら、霧道は答える。


「今回俺は、お前を宝まで導く案内人だ」

「宝?」

「そう、宝だ。ただし、お前にとっての宝だがな」

「……俺にとっての宝ね」


 呟いた直後、空間が歪んだ。


    *


「ようこそ、何でも揃っている闇市へ」


 俺の自称親友は、偉そうにそう言って手短に説明する。


「ここは何でも揃ってる闇市だ。ここならお前の宝もあるはずじゃ」


 霧道はそう言って杖を振り、煙となって消えた。


「なんだったんだよ、今のは?」


 霧道が消えた後。俺はぐるりと周囲を見渡した。

 俺の周囲には、路上に座り商品を並べている商人や、ナイフをチラつかせているチンピラ。他にも怪しそうな人物が、数多く潜伏していた。

 だけど、俺が一番注目したのは――


「……なんだよ、この矢印は?」


 俺の視界の端に現れている、黄色い矢印


「もしかして、この矢印が指す方向に行けってか?」


 あのバカ、本当に説明が足りなさすぎるだろ。

 俺は後で霧道の眼鏡をカチ割ることを誓い、その矢印の指示通りに歩き始めた。


                   *


「まずさ。何であの矢印のゴールが、お前らなんだよ、バカップル」


 あの矢印の指し示す方向へ歩き、細い道やくねくねと曲がった道を辿り、着いた先。

そこには、一軒の店があった。


「よっ、忍。また会ったな」

「そもそもお前は、なんで一人二役やってんだよ」


 俺はまたも登場している眼鏡に話しかける。


「大人の事情だ、気にするな」

「それと生徒会長。あなたが参加していることには、もうあえてツッコミませんけど。その格好は何ですか?」


 俺は霧道の隣に立つメイドに声を掛けた。

 キリっとした顔つきの。ショートカットの女性に。


「うむ。司に言われて着てみたのだが、案外よいものだな」

「……そうですか」


 俺は心の中で、現実の生徒会長――綾辻華凛さんに謝り、話題を変える。


「それでここかよ? 俺にとっての宝があるっていうのは?」

「それな。ちょっと待ってろ」


 霧道がそう言うと、二人は店の奥へ続くと思われる赤いカーテン。

 それを開けて、店の奥へと入って行った。

 そしてその数分後、人が一人入りそうなガラスケースを持って。


「持って来たぞ、これがお前の宝だ」


 店の奥から霧道が出てきた。

 しかも、そのガラスケースに入っていたのは――


「まさかここで出てくるかよ、静香」


 発育がある程度進んでいる、長い黒髪の俺の後輩だった。

 だけどどうやら、ガラスケースの中で眠っているらしい。


「それじゃあ、忍。目を覚ますための最後の試練だ」


 最後も何も、試練を受けた覚えがないんだが。

 そんな俺の思いなど知る由もなく、夢霧道は続ける。


「この少女に、キスをするのじゃ‼」

「はい?」

「だからキスだよ、キス」


 今度はかなりラフに言われた。

 いや、そういう問題じゃなくて。


「そ、そんなもん‼ 出来るわけが無いだろ‼」


 流石に夢の中と言われても、それは出来ない。

 俺が返答に迷い続けていると、霧道が両手を合わせてはやし立てて来た。


「キース。キース」


 この野郎。眼鏡を割るだけじゃ足りないな。

 次に会ったら即、ドロップキックだ。

 俺が霧道に対する怒りを抱きつつ、迷い続けていた時だった。

 さらに周りにいたゴロツキまでもが。


『キス。キス。キス。キス』


 などと言い始めていた。

 ……この状態、どうするのが正解なんだよ。


「男なら迷うな、忍‼」


 霧道はそう言って、未だ迷う俺の顔に、ガラスケースの中で眠る静香の顔を近づけて来た。

                *


「やめろ、バカ‼ 夢なんかでできるか……あれ?」


 俺は自分の叫び声で目を覚ます。

 手にはゲームのコントローラー。

 そして隣には俺の体に寄りかかって眠る、静香。

 ……そういえば。休みだからって、一緒にゲームしてたんだっけ?

 なるほどな。それで途中で寝落ちして、あんな夢まで見たのか。

 ゲームのコントローラーを投げ出して、思わず隣で眠る静香を見た。


「こいつは俺にとって。ただの後輩……だよな?」


 自分で思わず呟いて、俺は未だに眠り続ける静香の口元へと、視線を向ける。

 もしも今、ここでこいつに――


「せんぱ~い。さっきからうるさいです~よ」


 俺がある想像をした時だった。

 俺の声で目を覚ました静香。

 彼女は少しだけ不満そうな顔をして、目を擦り、短い欠伸をした。


「わ、悪い。その……起こしたか?」

「何ですか、先輩。まさか私が寝てる間に変なことでも――」

「してないから。本当に何もしてないからな‼」


 そう言って弁明する俺の脳裏には、多少の罪悪感が残っていた。

 一瞬とはいえ、変なことを考えたのは事実なのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ