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第29話俺と後輩とキス


 昨日の静香からの命令により、俺達は遂に彼氏・彼女の関係となった。だがしかしその事実以上に俺の心を支配していたのは、唇に今も残るあの感触。

 俺は何となく自分の口元に手を当てると、学校帰りに寄った喫茶店でおいしそうにケーキを食べている目の前の静香に尋ねた。


「なあ、静香。なんで昨日、あんなことしたんだ?」

「あんなこと? あんなことというのは何でしょうか?」 


 静香はケーキを食べる手を止め、俺の顔を見つめると少しだけ首を傾げた。


「いや、そこはわかれよ。一応少し前のしたのか、してないのか、よくわからないのを抜いたら、あれが俺達のファーストキスなんだから」

「確かに先輩はファーストキスなのかもしれませんが、私は先輩みたいにヘタレでもないのでキスぐらいで動揺なんかしませんよ」


 自信満々に答えた静香は、再びケーキにフォークを走らせた。


「だけどお前、あれからずっと俺の口ばかり見てるだろ」


 俺が嬉しそうにケーキを食べていた静香にそんな言葉を投げかけると静香は突然指摘された話の内容に驚き、咳き込んでいた。


「ケッホ、ケッホ。せ、先輩はい、いきなり、な、何を言ってるんでしゅか。じいしゅき過剰もいいところでしゅ」


 そう言って動揺しているのがバレバレの静香は、ケーキと一緒に頼んでいた砂糖が大量に入れられたコーヒーを震える手で持った。


「そもそも先輩は何で、珍しく鋭いんですか。先輩は私以上に鈍感じゃないとダメなんですよ」

「い、いや、それはその……俺もお前の顔や口ばかりを見てたからわかったことで」


 俺がその事実を伝えると俺達は互いに視線を下へ向けてしまった。

そして俺はこう思った。恥ずかしくて顔を上げられない。それに赤くなった顔を見られたくない。

きっと静香も俺と同じことを考えていたのではないだろうか。


「先輩のエッチ」


 静香は俯いたままそう呟くと出来る限り俺の顔を見ないようにし、またケーキを食べ始めた。


「先輩のエッチってお前な。そもそもあんなことをしてきたのはそっちだろうが。どちらかというとあんなにガッツリとやられた俺の方が恥ずかしいぞ」


 本当なら、もう少しいい雰囲気の時に自分から行こうと思ってたのに。

 俺が乙女のように自分の唇を隠して、静香の方を見ているといつの間にかケーキを食べ終わった静香は俺の顔を照れるように見て言った。


「ごちそうさまでした、先輩」


 果たして今のごちそうさまはケーキに対して言ったものなのか。それとも昨日のキスに対して言ったものなのか。果たしてどっちだったのだろうか。

 俺はそんなことを考えながら、ブラックコーヒーを飲む。ここの店のブラックはいつも俺ですら苦く感じるが今日に限ってはとても甘酸っぱい味がした。



               *



「先輩。そんなに気になるならもう一度、キスしますか?」


 喫茶店からの帰り道。またも俺は静香の口元に視線が行ってしまっていたのだろう。それに気づいた静香がそんな提案をしてきた。


「お前。流石に外でそういうことをするのはどうかと思うぞ」

「何か問題でもありますか? もしあるなら、先輩が恥ずかしいと言う以外の理由を言ってみてください」


 何だろう。先ほどとは打って変わって静香が余りにも積極的だ。流石にコーヒーの中に砂糖を十杯ほど入れて飲んだのが、悪かったのかもしれない。


「先輩。また失礼なことを考えましたね。言っておきますが、今の私は平常運転です。そもそも私ももう一度だけ先輩としてみたいんです」


 静香はそう言って自分の口を右手で撫でた。


「昨日のあの後からここに残った先輩の感触が消えないんです。だから先輩、もう一度だけ私とキスをしてください」


 静香は甘えるような声で俺に頼み込むと周囲は普通に住宅街だと言うのに、そんなことを気にすることもなく、俺に体を近づけていた。

 きっと今静香は、俺にキスをしてもらうことを期待しているのだろう。だがしかし俺としてはその……そういう行為を他人に見られるのには流石に抵抗がある。だから今回は静香が求めている唇にキスをすることはあきらめた。

 ただし、俺はキスをしないとは言っていない。


「じゃあ、少しだけ目を瞑れよ」


 俺がそう言って指示を出すと静香は無防備に唇をこちらへ向けた。だが、先ほども言った通り俺はそこに自分の唇を重ねるつもりはない。

 俺は静香が目を瞑っている最中に少しだけ移動し、顔を近づけた。そしてその右頬に優しく自分の唇を触れさせ、すぐに離れた。


「こ、これでいいか?」


 正直、する前は唇同士でキスした時よりもあまりドキドキはしないんじゃないかと思っていたが、それは俺の思い違いだった。

 ドキドキが止まらない。普通に脳内の情報処理が追いつかない。本当にこれは選択を誤ったかもしれない。

 俺がそう思って一人後悔していると、俺に右頬にキスされた静香が突然俺に抱きついてきて、俺の胸の辺りに顔をうずめた。


「静香?」


 その静香の態度に俺が疑問を抱き覗き込もうとすると、静香は小さな声で言った。


「……恥ずかしいので……しばらく見ないでください」


この物語は一応、完結としましたが、もしもこの続きを見たいという声があった場合は再開し、主人公が高校三年生になるまでの時期を書きます。


 また、クリスマスやホワイトデーなどのイベントでの二人を見てみたいという声があった場合は番外編と言うことで、書くつもりです。

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