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ザダンカイ

作者: 時田柚樹

「両の目をくり抜き、両の腕を切り取ってやろう」

 長い金の髪を持つ少女を傷つけ、森へ投げる。それが私の仕事。


「いらっしゃいませぇ。おひとり様ですかぁ」

 甲高く、間延びする声の女性店員に聞こえないようタメ息をつく。誰だ、こんな若い店で女子会を開こうなんて言い出した奴は。

「片山で予約していると思いますが、他の人は来ていますか?」

「はぁい。片山様ですねぇ。四名様ご予約で、すでに三名様いらっしゃってますぅ」

 何も言わずに、席に案内してもらおう。

 

個室に四人掛けの円卓。色が色ならいい店だと評価するかもしれない。

「はぁい♡ みーちゃん、元気だったー?」

「なに、その『みーちゃん』って」

 友紀子の周りに合わせられる能力は高く買っているが、さすがにパステル脳内はキツイ。

「いいじゃない、みづえ。ほらほら、座んなさい。愛香に早く説明求めて、食べ物選ばないと一生ありつけないわよ。名前だけでとろけそうだから」

 貴美は面白ければそれでいいのだろうな。そうか、ここにしたのは愛香か。

 「みづえちゃん、何食べるー? 友紀ちゃんと私は、即決。『桃色雪だるまア・ラ・モード~甘く切ない恋は後回し~』と『子猫のモフモフレア・チーズ~初恋はここから始まるの~』よ。私のおススメはね……」

 ここの店のメニューを見せられ、すでにお腹一杯というか、胸一杯。グッとくる。愛香らしいといえば、らしいけども。

「まかせるわ。ブラックコーヒーと甘くないやつ選んでちょうだい」

「おっけー。んじゃね。『カエルの背中のティラミス~あなたの肩に頬寄せて~』にしよ」

「それって食べ物の名前なの? そもそも、カエルはかわいいのか?」

「みづえ。そんなことで悩んでいたら物語は完成しないわよ。ちなみに私は『黒い瞳の雪ウサギ~見つめないで私が映る~』よ」

 こめかみが疼く。私たちの性別は女である。間違いない。けれども。全員が六十を過ぎていることも間違いない、はず。

 運ばれてきたものについての感想は述べたくない。ただ、自分に来たカエルの背中は、抹茶のティラミスだった。そう書け!


「で。まずは近況報告でしょう。友紀子の最近は?」

 雪だるまの顔から食べるやつは、どうなんだろう。

「窯で焼かれたわ。もうちょっと派手にしてくれればなぁって思うわぁ。蓋閉めなくてもいいと思わなぁい?」

「友紀ちゃんてば。それは無理でしょ。グロテスクすぎるわ?」

 子猫の目からいくやつが言うな。

「わかってるわよぅ」

 なにやらどぎついピンクの液体をチュウっとストローで吸う。デロデロ。

「あたしは、サクッと終わっちゃったの。ドレスの発注だけー」

 ホントにやりがいがないったら、と頬を膨らませる。

「愛香にはいい仕事じゃない。フリフリドレス作ったんでしょ? 私やみづえだと無理よね。ちなみに私は、鏡の中よ。忘れたころにやってくるっていう、サボりたくてもサボれないやつ」

「貴美にもいい仕事ね。前にはいるけど、手元が見えないから内職はできるっていうね」

 ティラミスが甘くなくてホッとする。

「みづえは?」

「私は長い仕事だったわ。塔の上の監視よ」

「あー、あれイヤね。寒いしぃ、階段はきついしぃ、膝が痛いんだもん」

 ゆっきーよ。急に若さを失くすな。

「残業代がなければしないわよ」

「あ、そうそう。あたしの二つ前のお仕事が、組仕事だったんだけど、ほら、いつもお化粧とかお洋服とかきっちりしてる朋子さんいるじゃない? あの人、仕事辞めるんだってー」

 愛香が店員を呼んで言う。はやっ。

「『ペンギン畑のスノードーム~降り積もる愛の重さ~』と『愛は血の池がごとく』くださーい」

 友紀子の飲み物を指して言うからには、あれが血の池か。て聞いたら、いちごラテじゃないか。ピンクだし! 話が耳に入りにくいわ。疲れる。やれやれ。

「えー。朋子さんって若いのにねぇ。五十六だっけぇ?」

「うん。旦那様に、いい加減辞めたらどうだって、ずっと言われてたんですってー」

「この仕事、若い子たちがしたがらないから人手不足なのに、辞められるとキツイわね」

 貴美が頬杖を突く。クール。

「お待たせしましたぁ。愛を詰め込んだ一皿でぇ~す。どうぞ、ごゆっくりぃー」

 甘いを通り越して苦いわ。店員よ。

「はぁああ。やっぱり主役は強いわよー」

 愛香の肝臓も強いと思うよ。

「そうねぇ。誰か私たち主役でお話し書いてくれないかしらぁ」

「そうしたら、友紀子は引退するの?」

「しないわよぉ。みーちゃんだってしないでしょ?」

「ま、ね」

 なんだかんだ言ってこの仕事が好きなのだ。

「大体、こういうのは年を重ねたほうが雰囲気がでるってものでしょ。愛香、それちょっとちょうだい」

 貴美が愛香の皿からペンギンを一匹拉致した。

「貴美ちゃんはイケメン好きねっ。一番いい顔の子をさらって行くなんてー」

 違いのわかる女。

「イケメンっていえばぁ、たかちゃんの孫。将来有望じゃなぁい? 年賀状見て驚いたわよぉ。よその子は大きくなるの早いねぇ」

 友紀子がため息交じりに言う。たしかに、早い。貴美んちの嫁が仕事を辞めると言ったのも、つい先日のように感じる。

「うちの孫の話はいいわよ。あたしさ、次の仕事、海の底なのよね。お嬢を待つだけの仕事。だから、内職しつつ次の役員人事を考えようと思ってるの。推薦したい人がいたら、リストに入れとくから言ってよね」

「それって提出するやーつ? ちゃんとした人じゃないとダメねぇ。あたしも嘘つきにお仕置きしに行くだけだから考えとくねっ」

 貴美の仕事って楽なの多くないか? 仕分けする立場の役得か。愛香は趣味に走りすぎている気もするけど。

「友紀子は?」

「パーティーの最後にフラーッと行ってぇ、予言するだけぇ。同じようなのが二本よぉ。みーちゃんは?」

「今回みんな楽ね。私も旅をしている女の子にアイテムの使い方を教えるだけ。役員ね。誰かを推薦したら自分を外すシステムにしてほしいわ」

「人不足だってゆってるじゃなぁい。みづえちゃん、我がままいわないの」

 『めっ』て言われても。

「最近のお仕事って、私たちでなくてもいいようなものばかりじゃなぁい? 友紀子わぁ、もっとグッチャグチャのとか、おーっほっほ的なのがイイわけぇ。たかちゃん、そういうの回してよぅ」

「ほんとにないのよ。そういう話。昔みたいな『教え』はいらないのね」

「だからこんな甘々になるのよ」

 コーヒーを飲み干す。苦みが心地よい。

「次の集まりは、年相応の場所にしてちょうだい」

「みづえちゃんの好みを重視すると、居酒屋さんになるんだもーん。つまらなーい」

「甘味処でいいけど、目がチカチカしないとこにして」

 

席を立つ。よっこらしょ。

絶対口に出しては言わないと決めている言葉も、心の中では毎回出る。

「みづえ、もう行くの?」

「ええ。旦那が帰ってくるからね。次行く前に会っとかないと。うちはご同業だからね」

「うんうん。みーちゃんちは貴重よねぇ」

「旦那が貴重なのよ」

 この仕事は男が圧倒的に少ない。魔女っていうそれに、すでに女と入っているのだから。

「あ、みづえ。パールのネックレス貸して。修理に出してるのに戻ってこないのよ」

「いいわよ。すぐいるんでしょ? 明日中にバイク便飛ばすわ」

「サンキュー」

 軽く手を振って部屋を出る。短い時間でも会える時に会っておかないと、いつ何があるかわからない年なのだから。パステルな甘々だって我慢できるわ。

「あの部屋の代金、これで」

「ありがとうございましたぁ。またのお帰りお待ちしてまぁーす」

 我慢はしたけど、もう来る気はないわ。

 黒い服が恋しい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 頭文字をアルファベットに短縮した言葉などが見られない。 彼女達の現状が真実である事を語ってる気がしますね。 勢いとかも、すごく良く考えてるるな~って感じました。うまい!。 [気になる点] …
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