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プチ小説「納涼探偵P」  作者: まぜたん
7/7

「迷子の探偵」

 ―――――焦げたアスファルトの香りが、ユラユラと遠くの景色をゆらしている。


 「このクソ暑い中、タダ働きか・・・。」

 僕はアゴの汗を拭いながら、とある病院の前にいた。

 

 まったく、とんだ厄介事を引き受けてしまった。

 道に迷った子供(幽霊)を、家まで送り届けなくてはならないのだ。三歳児の証言が正しいならば、その手掛かりがこの病院にある。・・・はずだ。

 その子は多分、交通事故に遇い、この病院で死亡した。 

 その事実確認と彼女の住所をさぐるのだ。

 

 ――――ここは、不苦労ふくろう病院。

 

 大きな病院である。駐車場の面積だけで小学校の校庭ほどの広さはあろう。救急外来、小児科、産婦人科、耳鼻咽喉科、歯科、放射線科、いわゆる総合病院である。

 待合い室はごった返しているが、ここでは日常なのであろう。人の流れはスムーズである。

 混雑を尻目に、四階にある"面会者専用受け付け"に向かう。


 受け付けには年配の女性、その向こう側では二人の男性が忙しそうに書類の整理をしている。

 「スミマセン。・・・実は、友人のお子さんが交通事故に遭われたそうで・・・。」

 年配女性のメガネの縁がキラリと光る。

 「3歳の女の子で・・・、名前はたしか・・・リンちゃんと言うんですが・・・。」

 「リンちゃん・・・。」

 年配の女性は、眉をひそめて言った。

 「・・・リンちゃんは、今、・・・意識不明の状態にあります。」

 「・・・え?」

 て、事は。まだこの病院にいるってことだ。しかも生きている?

 

 ――――――生霊(いきりょう)というやつだ。

 

 彷徨(さまよ)(たましい)を、身体の中に戻す事が出来れば、目を覚ますかも知れない。

 「今なら、まだ間に合う。」


 丹波たんば りん、305号室。

 ドアに貼られた面会謝絶と書かれたプレートにあおられて、僕は家への道のりを全力で走った。

 

 「いた、いたよ、病院に。今から行こう!」

 家の玄関から発せられた僕の声は、空を切った。

 

 どういう事か、家に彼女らの気配はなかった。

 何処へ行ったのか、その痕跡を探ろうと試みたが無駄であった。

 いかに優れた探偵であろうとも、幽霊の痕跡を探るのは不可能である。

 

 ―――――僕は、軽いめまいの中ベッドに倒れ込み、深い谷底に落ちるように眠りについたのだった。


                  つづく。

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