「迷子の探偵」
―――――焦げたアスファルトの香りが、ユラユラと遠くの景色をゆらしている。
「このクソ暑い中、タダ働きか・・・。」
僕はアゴの汗を拭いながら、とある病院の前にいた。
まったく、とんだ厄介事を引き受けてしまった。
道に迷った子供(幽霊)を、家まで送り届けなくてはならないのだ。三歳児の証言が正しいならば、その手掛かりがこの病院にある。・・・はずだ。
その子は多分、交通事故に遇い、この病院で死亡した。
その事実確認と彼女の住所をさぐるのだ。
――――ここは、不苦労病院。
大きな病院である。駐車場の面積だけで小学校の校庭ほどの広さはあろう。救急外来、小児科、産婦人科、耳鼻咽喉科、歯科、放射線科、いわゆる総合病院である。
待合い室はごった返しているが、ここでは日常なのであろう。人の流れはスムーズである。
混雑を尻目に、四階にある"面会者専用受け付け"に向かう。
受け付けには年配の女性、その向こう側では二人の男性が忙しそうに書類の整理をしている。
「スミマセン。・・・実は、友人のお子さんが交通事故に遭われたそうで・・・。」
年配女性のメガネの縁がキラリと光る。
「3歳の女の子で・・・、名前はたしか・・・リンちゃんと言うんですが・・・。」
「リンちゃん・・・。」
年配の女性は、眉をひそめて言った。
「・・・リンちゃんは、今、・・・意識不明の状態にあります。」
「・・・え?」
て、事は。まだこの病院にいるってことだ。しかも生きている?
――――――生霊というやつだ。
彷徨う魂を、身体の中に戻す事が出来れば、目を覚ますかも知れない。
「今なら、まだ間に合う。」
丹波 鈴、305号室。
ドアに貼られた面会謝絶と書かれたプレートにあおられて、僕は家への道のりを全力で走った。
「いた、いたよ、病院に。今から行こう!」
家の玄関から発せられた僕の声は、空を切った。
どういう事か、家に彼女らの気配はなかった。
何処へ行ったのか、その痕跡を探ろうと試みたが無駄であった。
いかに優れた探偵であろうとも、幽霊の痕跡を探るのは不可能である。
―――――僕は、軽いめまいの中ベッドに倒れ込み、深い谷底に落ちるように眠りについたのだった。
つづく。




