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プチ小説「納涼探偵P」  作者: まぜたん
6/7

「迷子の幽霊」

  ―――――素朴な疑問なのだが、幽霊は昼間、何をしているのだろう。


 ここに二人の幽霊がいる。

 細かい話は抜きにして、二十代の美女と三~四歳の幼女の幽霊が、僕の向かいのソファーに並んで座っている。


 「この子、病院から家に帰ろうとして道に迷ったみたいなんです。」と、美女の幽霊。

 「うん。・・・それで?」

 子供の方は、ソファーから宙ぶらりの足をパタパタさせながら無邪気に微笑んでいる。

 「つまり、僕にこの子の身元を捜して家に連れて行ってあげてくれ。・・・と?」

 「だって、・・・かわいそうです。」

 

 しかし、相手は幽霊である。お金も無ければ実体も無い。探偵を職業とする僕としては、ただ働きはごめんである。

 「幽霊が道に迷っても、空腹で死ぬわけでもないし、・・・ねえ。」

 「冷たいんですね。」冷ややかな目。

 生きた子供ならいざ知らず、幽霊を連れて行って親に引き渡しても、困惑されるだけだろう。

 「ねえ、・・・ママは?」幼女は、いつの間にか涙目になっていた。

 「ママは、先におうちに帰ったの。もうすぐ会えるからね。」彼女は優しく慰め、何かを訴える様な目でこちら見ている。

 「いや、え――――・・・。」僕は、観念した。


 「君、お名前は?」

 「りんちゃん。さんさいです。」小さい声ながらもはっきり答えた。

 「りんちゃん。ちゃんと自分の名前、覚えているんだ。」と、感嘆の声をあげると、もう一人の幽霊の方が気まずい顔をした。

 「君も、名前が無いと不便だよね。仮の名前を付けてもいい?」

 彼女は、ちょっと嬉しそうな顔をして「お願いします。」と答えた。

 「幽霊だから、幽子ゆうこ。で、どう?」

 「ゆうこ。優子。裕子。有子。・・・いいですね。」

 「じゃあ、幽子で決まり。」

 彼女は満足げである。


 では、気を取り直して。「りんちゃんは、いつ、・・・いつから幽霊になったの?」

 「ゆうれいじゃないよ。りんちゃん。」

 そうか。三歳の子供に幽霊という概念はないか。しかし、よわい三歳にしてこの世を全う。・・・か。・・・ツラいな。

 「・・・では、質問を代えます。何で病院に入ったの?」

 「・・・くるまにぶつかったの。ボールをおいかけて、つかまえて、ドンってなったの。」

 交通事故か。一応、検索をかけてみよう。パチパチとキーボードをたたき、それらしき記事を探してみた。しかし、見つからなかった。

 幽子も興味津々でモニターを見つめていたが、ため息をついた。


 ―――――たしか、幽子ゆうこの話だと近所の病院で亡くなった子だと言っていた。

 この近所で、救急病院と言えば‘不苦労ふくろう総合病院’くらいか・・・。まあ、手がかりくらいはつかめるかも知れない。

 「ユウ子さん、お願いがあるんですが・・・。」

 「はい、何でも言って下さい。」

 「僕は、この病院に母親の手掛かりがあると思うんです。ここに行って探りを入れてもらいたいんですが・・・。」と、パソコンの地図に指をあてた。

 ユウ子は首をかしげた。「サグリを、入れる・・・?」

 しかし、すぐに何かを理解したのか軽くうなずいた。

 「わかりました。では、この子をお願いします。」

 ちょっとまて、それは困る。迷子の子供の子守りなんて、ハードルが高すぎる。

 「ごめん。僕が病院に行く。二人はここにいてくれ。」

 「わかりました。お願いします。」ユウ子はちょっと意地悪な笑みをうかべた。


 ―――――よしとしよう。

 今回は、貸しを作ったのだ。幽霊に貸しを作る行為は探偵にとって大きなメリットである。

 いつか役にたつ。・・・はずである。


 ―――――晴天の空に、ミンミンゼミの声がエコーしていた。


                         つづく。

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