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プチ小説「納涼探偵P」  作者: まぜたん
5/7

「黒煙」

 薄暗い天井をじっと見つめながら、微かに響く車の走行音を聞いている。


 ――――――――――眠れない。


 僕は探偵である。深夜に思考が冴えて眠れないという事がままある。

 探偵とは、危険を予見するプロである。しかし、言い代えればネガティブ思考のプロとも言える。

 「犬も歩けば、・・・車にひかれる。」

 「猫に小判を、・・・盗まれる。」

 「猿も木から、・・・落ちて死ぬ。」

 いらぬ想像をしてしまうのだ。


 「・・・あの、ちょっといいでしょうか?」ドア越しに話しかけるこの声は、あいつである。寝たフリをしよう。

 「火事です。起きてください。」

 「エエ?」

 飛び起きて窓を開ける。と、確かにけむい。サイレンもかすかに聞こえる。

 「火元は多少離れた場所なので、ここは大丈夫だと思います。しかし・・・。」

 「しかし?」ドア越しの声に問い返す。

 「・・・二階のベランダに子供がいるのに、気付かれていない様なんです。」

 「ん?二階って、君は空をとべるの?」

 「飛べないです。でも、ベランダから身を乗り出して手を振っているのが見えました。・・・あの子を助けてあげて下さい。」言いながら水玉の少女が、ドアをすり抜けて部屋に入ってきた。

 

 不思議なのだが、この幽霊は全然怖くない。彼女は泣きそうな顔でうろたえているのだ。

 助けろと言われても、どうやって・・・?。二次災害のニオイがぷんぷんするのだが・・・。

 「プロの消防士さんにおまかせするしか、ないよね・・・。」言いながら彼女から目をそらした。

 「でも、・・・もし、自分の子供が同じ状態でも、そう言えますか?」

 

 う~ん・・・。言えない。が、消防士さんの邪魔はできない・・・。

 その時なぜか、枕元の携帯電話が自己主張をしている感覚があった。

 

 ピ・ポ・パ。


 「プツ、火事ですか?救急ですか?」早い。

 「あの、火事です。○○町の火事の向かいのビルの者です。二階のベランダに子供がうずくまっているのが見えるんですが、気付かれているのか心配で・・・。」

 「落ち着いて下さい。同様の情報は数件ありますが、まずはお名前からお願いします。」

 「あ、・・・では、いいです。」ピ・・・。

 冷や汗が出た。

 「・・・気づかれていたんですね。」

 幽霊もため息をついてヘタりこんだ。


 そのあと、なかなか寝付けなかった。

 ―――――人生が終わったあと、精神だけが生き残りこの世の事象を見続ける。それは拷問ではないだろうか。

 だとしたら、あの幽霊は何年その拷問の中にいるのだろう。

 そんなことを色々考えているうちに外が白みだしていた。


 「仕方がない、起きるか・・・。」

 

 テレビをつけ、朝のニュースを見ていると見覚えのある景色が映っていた。

 ―――――昨夜の火事の報道であった。

 老夫婦の住む一軒家が全焼したらしい。しかし、住人は外出中だったため無傷ですんだ様だ。


 「・・・ん?。」

 僕の同居人。あの幽霊が騒いでいた子供の事が報道されていない。

 あのムスメ、嘘をついたか?

 いや、電話オペレーターの女性も知っている様な口調だった。無駄に考えるより本人に訊くのが早いな・・・。

 「どうせその辺にいるんだろ?。」

 

 ――――――――返事はなかった。


 何か恥をかかされた気分である。

 「どこですか~?。」

 こわごわと別室のドアを開く。が、気配がない。

 ・・・チャプン・・・。かすかに水の音が聞こえた。

 「今はかくれんぼしてる暇はないのに・・・」

 音のする風呂場のガラス戸を開け、凍りついた。

 

 ―――――彼女はなんと、全裸であった。


 「キャー!」(←幽霊。)

 「ゴ、ゴ、ごめん!」(←僕。)

 パニックであった。瞬時にガラス戸を閉め、後ろを向いた。

 「し、質問が、あった。・・・あるので、り、・・・リビングにいます。」

 それだけ言ってリビングへ戻った。


 ―――――ほどなくして、彼女はリビングに現れた。いつものワンピース姿である。

 「驚かしてしまって、すみませんでした・・・。」

 悲鳴を上げたのは僕ではないのだが、僕には非がない。・・・はずである。

 「実体のない存在なのに、お風呂なんて意味あるの?」

 「ありますよ!。髪だって時々編み直しているんです!。」

 「ほう・・・。」感心。確かに整った髪だ。

 「そうじゃなかった。質問だった。昨日言っていた子供のはなしなんだけど・・・。」

 「あ・・・、その事ですね。」

 もぞもぞと彼女のスカートが動き、後ろから三つ編みの少女が顔を出した。一瞬目が合い、ちょっと口をとがらせてまたひっこんだ。

 「昨日言ってた子。この子です。数日前に近くの病院で亡くなった様です。」

 「幽霊?。・・・連れてきちゃったの?」

 「はい。お顔がススだらけだったので洗ってあげたくて・・・。」


 キョトンとした瞳。透き通る三つ編み。どうやら半透明の同居人が、またひとり増えてしまった様である。

             

                 つづく。


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