「青い雨音」
―――――土砂降りの雨の夜、事件は起きた。
僕はとんでもない事をしてしまった・・・。
今日の昼間、探偵社の先輩のアシスト中、カメラのレンズ交換を4~5回繰り返したろうか。一番小さな望遠レンズが無いことに会社で気付いた。
望遠レンズ。50万円もする代物を紛失したのだ。
先輩の顔が青くなるのを眼前にして、ビニール傘と懐中電灯を手に土砂降りの中へ飛び出してきた。
そんなこんなで、真夜中の公園に一人の不審者が誕生した。
「はぁ、雨ガッパも着てくるんだった・・・。」
草むらを照らしながらのひとりごとである。
―――――と、ビニール傘をトントンとたたく音がする。
感覚で分かる。あいつである。僕の悩みの種。幽霊である。
「今、忙しいんだ・・・。」
「レンズをお探しですね。全部見ていました。」
「ん?・・・全部?」
ふり返ると彼女が立っていた。傘もささず、土砂降りに濡れることも無く、懐中電灯に照らされる光をじっと眺めている。
「はい、あなたの仕事ぶりをずっと見ていました。」
「どこで落としたか分かるの?」
「それが、見ていないんです。」
からかう様な彼女の言葉にムッとして、草むらに分け入りながら舌打ちをしてみせた。
「ただ、一箇所だけ私が入れない場所があるんです。・・・多分そこかと。」
入れない・・・?場所・・・?結界的なものかな?
彼女を見ると、うつむき顔が赤い。
ピンときた。彼女は幽霊であるにもかかわらず、風呂上がりの僕を見て悲鳴を上げるのである。普通、悲鳴を上げるのは僕のほうだ。
―――――トイレか・・・。
それは、巾着袋に入ってトイレの棚の上にあった。中のレンズも無事であった。
「見つかってよかったですね。」
幽霊が嬉しそうに言った。
「これで二度目か・・・。」
二度も幽霊に救われた。毛嫌いばかりもしていられないか・・・。
「あの・・・、幽霊さん。ありがとう。」
「いえいえ。・・・でも、私の依頼も忘れないで下さいね。」
パラパラとビニール傘に跳ねる水の音が、和らいでいくのを感じながら家路についた。
「青い雨音」終。




