第一話-⑥ とある青年
一応、主要キャラクターはこれで最後。
今日昇った太陽が、そろそろ中天に近づきつつある頃。
ここ、埼玉県秩父につくられた、一部ファンにとってはかけがえのない『聖地』。
そこの要所に設えてあるベンチの一つに、がっくりと肩を落とした青年が深い深い溜息を吐いた。
「………はあぁぁぁ…………………」
青年は、深い溜息を吐くほど落ち込んでいた。
それはもう、気付いたら無意識に電車に乗り込んで都内を抜け出し、東松山市に行って自棄酒飲んで味噌ダレのやきとり(作者注:『鳥』といいつつ『豚』がメイン。味噌ダレで食べると美味しい)を食べようとしたが、自身の懐事情がそれを許さなかったので、さいたま市の山田うどん(作者注:埼玉ローカルのうどんチェーン店。ボリューミーで美味しい)のパンチ定食と肉汁うどんとたぬきそばを自棄食いした後、カプセルホテルで一夜を明かし、気の向くままにここまで来てベンチに座り、溜息をつくくらい落ち込んでいた。
彼は、絵本作家希望の青年だった。
幼い頃両親に連れられて車で出掛けた際に、トラックと正面衝突して以来、何故か自分でも抑えきれない衝動に突き動かされて絵本作家を目指すようになった。
別に絵本作家に限らずともと思う訳ではなかったが、彼は何故か絵本作家限定の衝動に突き動かされて、少年の頃から絵本作家を夢見て邁進した。
たが、現実は儚くも切なく、そして残酷なまでに、青年に夢の扉を開けることはなかった。
文京区にある音羽や駒込、本駒込の出版社、千石の出版社、淡路町の出版社、一ツ橋のかつて週刊少年誌で400万部以上の発行部数を誇った出版社の裏にある出版社、渋谷の出版社、新宿区の出版社に持ち込んでみたが、いろいろアドバイスは貰えたモノの芳しい反応は得られず、そして今回は一ツ橋の表通りに二社、大きい出版社が並んでいるうちの左側の出版社に持ち込みをして、トドメの駄目押しを喰らって精神的に打ちのめさた。
そして、この界隈に来たら帰りにどこかに寄って食べていくはずの近場にある、チャーハン&餃子が美味しいと評判の店や冷やし中華発祥の店の一つとされる中華料理店、ちょっと日本武道館寄りだが衣サックリ中身ホックリ、タレの味がバッチリ好みな天丼屋や昭和の文豪が贔屓にしていた天麩羅屋、カレーは当然ながら付け合わせのジャガイモが美味しいカレー店(作者注:3件くらいあります。味の方向性は違いますが、どこも美味しいです)、スマ○ラ風カレーで有名なカレー店(作者注:ココも美味しいです)、黒いカツカレーがホントに美味しいカレー店(作者注:ココも……以下略)、ちょっと水道橋寄りの挽き肉が入った家庭風カレーの美味しいカレー店………などには一切立ち寄らず、電車の中で自分の懐事情に思い当たるまで、東松山を無意識に目指したのだった。
そして今現在、青年はココに来て溜め息をついている。
青年は、辛い事、苦しい事、悲しい事があった時、辛苦が自分の心の許容量を超えそうな時や折り合いがつかない時に、よくココに来ていた。
ココには、青年の幼少からの記憶があった。
ココには、両親と共に過ごした楽しい思い出があった。
ココには、青年の幼い頃の憧れと夢があった。
『日本国立特殊撮影記念公園』
それが、ココの名だ。
通称『特撮公園』とか、一部で『石切場公園』とか『爆発公園』などと呼ばれて親しまれている公園だ。
まだ20世紀だったあの頃、経済が高度成長期と呼ばれた時代。
当時の子ども達に、絶大な支持を受けて流行ったブームがあった。
人々は後年、『特撮ブーム』と名づけたブームを形成した玉石混淆の特殊撮影の駆使した映画やテレビ番組の数々は、映画のスクリーンやテレビを前にした当時の子ども達、いやそれを商売にする大人や一部の消費力が旺盛な大人、果ては海外に居る子どもや大人達を巻き込んで盛り上がっていった。
大げさと思われるかも知れないが、当時子どもだったアラブの石油王が、大人になってからその豊富な経済力で恐竜と戦う特撮番組の続編を作らせたり、アメリカ50番目の州で人造人間の特撮番組のヒーローが名誉市民になったりと(作者注:実話です)、後々まで多大な影響を与えた特撮作品群だが、時代とともに安全性やコンプライアンスなどの色んな規制、批判、関連商品の市場規模の低減、様々な要因が重なってブームと呼ばれた潮流は当時が偲ばれないほど退いていく。
だが、リアルタイムで体験した世代を中心に『特撮』を一つの文化と捉え、後世に残していこうという気運が高まり、海外からの強烈な後押しが頻発するに至ってようやく国が動いて当時爆発シーンなどで多用された秩父の石切場の跡地に記念公園を作り、私鉄以外にも鉄道や道路のインフラ整備を行い、知る人ぞ知る聖地スポットとしてその名を知られるようになっていった公園だ。
蛇足ではあるが、派手な集客力や売上規模があるわけではないが、開園以来安定した集客と売上の規模が継続して維持され続けている現状を踏まえ、同様のテーマパーク型の公園を栃木県の岩舟辺りから群馬県太田市の藪塚辺りまでの比較的広域に、インフラ整備を施して地域ぐるみで観光地化させる第二テーマパーク構想が検討されている。
さて、そんな特撮公園だが、青年は両親に連れられてココによく来ていたせいもあり、青年にとって心のオアシス、心の癒やし場所共言うべき場所だった。
無理に考える事はせず、無理に嫌な記憶を回想する事もなく、ただただひたすら周りの雰囲気と時折遠くに聞こえる爆発音(作者注:定期的に爆発のデモンストレーションが実施されてます)を感じながら、ゆっくりと青年の挫けかかった心が徐々に癒やされ、立ち直ってゆく。
青年の名は、江崎理。
見た目が物腰柔らかで少しばかり線の細いこの青年が、後日、『最凶の戦士』と揶揄される事になろうとは、この時誰も予想できる者は居なかった。
やっと次から本編。
頭の中の妄想がボリューミー過ぎるので、どうやってカットするか頭悩ませ中。