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第一話ー③ 緑と橙

この辺りから、近未来的な現実世界ではなくパラレルワールドっぽい世界なんだなとわかるようにしてみたつもりですが、どんなもんでしょう?

 時間的に話は前後するが、○宮駅での出来事から数時間前………。


 薄っすらと朝靄(あさもや)が残る早朝、ここは千葉県成○市にある成田国際空港。

旧称、新東京国際空港。通称、成田空港と呼ばれ、21世紀初頭に今の名称に変更された海外の玄関口となる空港の一つである。

拡張した羽田空港や関西空港などが建設され一頃(ひところ)より貨物量や客数が減ったとはいえ、それでも日本における最大級のハブ空港の一つである。


 その中のロビーに今、仁王立ちした少女が感無量といった風情で辺りを見回し、おもむろに口を開く。


「…………ついに来たわね……日本よ!私は(かえ)って来た!!」


 軽く肘を曲げて拳を細かく震わせながら感極まった顔で、目を閉じて少女は呟く。

気分は、どこかの公国の武人みたいである。

 大半が黄色い肌と黒髪の日本人が言えばほっこりしかねないセリフだが、当の本人は透き通るような白い肌と金髪の少女で、はなはだ説得力というものがなかった。


 暫くしてようやく少し落ち着いたのか、ゆっくり目を開けた少女はおもむろに軽く握った左の手を口元に、グッと握った右の手を胸の辺りに持ってきて、何故か突然、歌い始めた。


「♪~は~~~~~るばる 来たぜ、は~こD「お姉ちゃん、危ない!!」(バキッ!)ぶるあぁ!?」


 歌い始めた少女の背中を、助走をつけて駆けて来た少女がジャンピングドロップキックをかます。

蹴られた少女は勢いで数センチ床から浮遊しつつ、緩やかに倒れ込むように上半身(顔部分込み)から着地する。


「いきなり、何すんのよ!」


 地面(ゆか)にキスした少女はすぐさま起き上がると、キックをかましてきた少女に抗議の声を挙げる。


「危なかったわねぇ、お姉ちゃん!日本じゃ大人の事情か何かで、歌を唄ったら何処からか謎のエージェントが来るか電話が来て、お金をふんだくられるわよ!

良かったわねお姉ちゃん、ワンフレーズ唄っちゃう前で…………」


「ちっとも良くないわよ!

そういう893(ヤ○ザ)とかモ○スターク○ーマー(モンクレ)みたいな既得権益塗れのヤカラ(や○ら)っぽいエージェントのいる団体は、自浄とか音楽産業が激しく縮小したりとかミュージシャンの抗議活動とかで、まともな団体に戻ったじゃない!」


「あれ?そうだっけ?」


「そうよ!何年前の話をしてるよ!」


「え~と…………5年位前かな?」


「違うわよ!それは、まともな団体に復活してきた時期のやつでしょ!!

その前の、歓送迎会や呑み会の余興で()いた楽曲にお金セビったり、音楽教室や授業の練習曲でお金セビったり、千年以上前の楽曲を作曲家の著作権料名目でお金セビったり、路上でライブパフォーマンスで初めて演奏する(・・・・・・・)楽曲にお金セビったりとかしようとしていた、良くいえば無知蒙昧(アホ)、悪くいえば低能、もしくは無能だった時期の話でしょ!

流石にマズいと思ったのか、今じゃちゃんと更生してまともな団体になっているわよ!」


 プンスカ怒る少女と、『そうだっけ?』と首を傾げる少女。

二人の少女の顔立ちは、驚くほど酷似していた。

見た目サラサラと指をすり抜けていきそうな、キューティクルの輝きが美しく映える少しくすんだ黄金の髪。仮に純金のような金髪を24金とするなら、少女の髪は17金か18金の輝きと言えば良いのだろうか?

そして、少女らしいふくよかさを残しながらほっそり目の輪郭とスッキリした目鼻立ち。

そして、澄んだ水の如き色をたたえた碧眼(へきがん)

 怒っている方は右側に髪を束ねたサイドテール、もう片方は左側に髪を束ねたサイドテールの髪型(ヘアースタイル)

髪型以外は、パッと見区別が付かないこの二人。

 そう、少女達は双子だった。

双子の姉妹はこの日本へ、イギリスから遠路はるばるやってきたのだ。

 ちなみに二人は、初来日(はつらいにち)である。


 右側にサイドテールしている少女は姉の方、名はシルフィ・クロムウェル。

 左側にサイドテールしている少女は妹で、名はベルネッタ・クロムウェルという。

 クロムウェルといっても、この姉妹の先祖で宰相(さいしょう)をしていた人物は居ない。

同じクロムウェルでも、クロムウェル違いである。

(作者注:ここで言うクロムウェルとは、オリバーさんという名の、昔イングランド共和国において初代の護国卿を務めた軍人で政治家な人物です)


そんな彼女達はある重要な案件……というより使命を抱えて、イギリスよりはるばる日本へとやってきたのである。


「……それよりもお姉ちゃん、少し急ぎましょ。

本当なら昨日の夜の早い内に着くはずだったのに、こんな時間になってしまったのよ。ここから直接向かわないと、昼までに秩父まで辿り着けないわ」


「えっ、今から?」


「そうよ。到着するのが遅れた分、ホントならホテルで仮眠取ったり軽く食事したりいろいろやろうと思っていた予定を省いて今から目的地に向かわないと、ちょっと間に合わないのよね。

ネットの情報やガイドブックの案内を見ると、この空港から電車で何回か乗り換えなきゃいけないし、目的地まで早くても5時間ちょっと、かかりそうだから………」


「え~~、せっかく日本に来たんだから、アキバとかナカノとかに少し寄って、立ち食いで蕎麦食べたりUeshimaのお店でジャーマンドッグ食べながらお値段安めでリーズナブルなコーヒー飲んだりしてこうよ~」


「だから、そういう事をする時間的余裕がない位、飛行機の到着が遅れちゃったんだから仕方ないじゃない。私だって、できれば池袋(ブク□)でイケメン執事さんに会いたいし、週一ランチタイム限定のうなぎ屋さんのカレーも食べたいし、カンダの本屋街でマンガを買いたいし、できる事ならカッパバシの刃も「わかったわかった!わかったわよ!」」


 シルフィは徐々にマシンガントークみたいに口調が速くなっていく妹に、何となく嫌な予感を覚えて言葉を(さえぎ)る。

今までの経験上、ベルネッタが早口になってきている時は趣味的な話で盛り上がっている時か、あれこれ不平不満などの鬱憤(うっぷん)大分(だいぶ)溜まっている時だ。

放置しておくと際限なく言葉と一緒にストレスを垂れ流し、最悪何らかの形でこちら側にとばっちりが来る。

可及的(かきゅうてき)速やかにベルネッタの意識を違う方向に逸らし、とばっちりが来ないようにしなければならないとシルフィは判断した。


「ベルネッタの言う通り、余裕がないなら仕方がない。涙を飲んで今回は諦めましょう。

でも、祖国に帰る前に、必ず余裕を作ってアチコチ行って食べて買って、遊ぶわよ!」


「まぁ、それくらいなら滞在中のどこかでやれそうだけど、これから向かう場所って、断然お姉ちゃんが喜ぶような場所じゃない」


「まぁ~、そういう風に言われたらそうなんだけど……遊ぶ余裕なんてあるのかなぁ?」


「どうかしらねぇ?…………現地の状況次第だと思うけど、早く終われば、記念写真とかアトラクション巡りとかできるんじゃないの?

………知らないけど」


「『知らないけど』じゃないわよ!

あぁ~~~!せっかく日本に来たのにゆっくり遊べないんじゃ、あんまりだわ~!!

私だって人間よ~!私だって若いのよ~!私だって遊びたいんだわ~!!」


「ハイハイ、どこかのインドで修行した虹男みたいな事言ってないで、早いトコ行くわよ、お姉ちゃん。少しでも遅れを取り戻して、どこかでお茶の時間(ティータイム)を作りたいから……」


「そうね。

ベルネッタのその意見には、同意だわ。

あと、移動中に電車か何かで移動販売か売店に寄る余裕ができたら、日本のお弁当とかお茶請けが欲しいわ」


「そうね。私も日本の食べ物に凄く興味あるから、余裕ができたら買いましょう!」


 そんな会話をしながら、足早に歩いて行く姉妹。


 小さい頃からネットや書籍などで得た知識やサブカルチャーの情報で、興味と憧憬がいい具合に入り混じったこの国にやってきた姉妹は、要件を済ませた後で存分に楽しみを体験する事に多大な思いを寄せつつ、空港の外へと向かって行った。

ちなみにクロムウェルの元ネタ(?)は、クロスさんとブラックウェルさんの名前をくっつけて語感を何となく整えたら、こんな感じになりました。

宰相みたいな名前になったのは、偶然です(本当)。

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