第一話ー② 赤と黒
かなり久し振りです。
やはり安定した生活が送れないと、なかなか投稿できなくなるものですね(>_<)
ここは某S県S市O宮駅。
S県最大級を誇るターミナル駅であるこの大○駅の
ホームに、東京、上野方面から電車が入ってきた。
イメージカラーの水色のラインの入った輝くボディは、今日も街から街へ、都市から都市へと人々を乗せて何度もこの駅にやって来る。
今回も、いつもと変わりなく無事に到着した。
そして、いつもと変わりなく車輌の自動ドアが開いた瞬間、いつもと違う日常の光景が発生した。
車輌の中から、男が背中向きに車外へと飛び出してきたのだ。
どーーーーー~~~ん‼️
擬音にすると、こんな感じだ。
この駅に異動して来てから4年、鉄道会社に就職してから勤続15年になる…………仮に駅員Aとしておこう…………ベテランと呼べる駅員Aは、視界の隅に異質な光景を認識した瞬間、身体が自然に動いて現場に駆け出していた。
『いつも安全、確実、正確に』をモットーとして早15年、余程の悪天候か人身事故でもない限り、実直に取り組み大過なく仕事をこなしてきた駅員の、半ば本能的な行動だった。
現場で倒れている男のそばに、駆け寄る駅員A。
「ぐあぁ………痛だだだだだだ………」
男は、見た目30代後半から40代の年齢で、赤ら顔だった。
左胸と背中に何かの動物のようなアップリケが入った、スウェット生地でできたトレーニングウェア(黒地メイン)を着込んだ男はどうやら、朝も早い時間から酒を飲んでいたのか、あるいはこんな時間まで飲み明かしていたかして、かなり酔っているようだった。
男に近付いた駅員Aの鼻腔にまで、酒の臭いが漂ってきた。
『酒臭っ!!』
駅員Aは一瞬、顔をしかめる。
そして次の瞬間、表情を即座に消し去った。
そう、こういう場面で下手に嫌悪の表情を浮かべた所を見られると、俗に『悪質クレーマー(以下、クレーマー)』と呼ばれる人種(作者注:……というか、人のカタチした獣未満?)に見つかった場合、間違いなく『何、嫌そうな顔をこっち向けとんじゃあ、ワレ!!俺は、お客様やぞ!!!』と絡まれる事になるからだ。
実際に、駅員Aは過去に酔っ払いを中心に何度も絡まれており、その経験が誰にも気付かれずに一瞬にして表情を変える動作を、駅員Aに自然と身に付けさせていた。
因みに無表情でも『何、仏頂面してんだ!!愛想良く対応しろ!!俺は、お客様だぞ!!!』と言われるし、さりとてにこやかに対応しても『何、ヘラヘラしてんだ!!俺をバカにしとんのか!!俺はお客様だぞ!!!』と、どんな表情をして対応しても、文句を言われる事に変わりはない。
だいたいクレーマーの人が店員などに見下すようによく言う『お客様は神様です』という言葉は、松下幸○助さんの場合は『きちんと対価を払ってくれた人』という前提条件が付くし、三波○夫さんの場合は舞台で芸を披露する際の心構えとしての言葉であって、決して『生意気に口答えするな!『お客様』であらせられる俺の言うことは絶対だから、黙って言う事を聞いてりゃ良いんだよぉ!このくそったれ店員がぁ!!』という類いの意味合いの言葉ではない。
また、更に理不尽な事に対応する相手ではなく、当事者とは全く関係のないただ見ていただけの第三者が『お前のその態度は何だ!お客に対して反抗的で頭か高いだろ!!もっと腰をヘコヘコ低くして、最敬礼で対応しろ!』とか全く関係ない文句を言い始める事もあるので、世の中ホントに油断ができない(作者注:又聞きの話です)。
赦されるなら、相手をプチ殺し(作者注:半殺しを可愛く言ってみました☆)にした上で、どういう対応が望ましいか実演付きで相手に見本を実際に見せて貰いたいものである(無論、こちらが納得しなかったら、延々やり直しするの前提で………)。
いくら自分の意見(新聞の一面に謝罪広告を入れろとか、誠意見せて見舞金出せとか、本社にいる社長を呼び出せとか、もっと高い商品をタダで寄越せといった類いのヤツです)が通らなかったとはいえ、『お前の存在が気に入らん!!』と全存在を否定された身としては、後学の為に是非とも見せて頂きたいものだ(デキないとは言わせない)。
かなり本気で……………。
さてドス黒い何かが駄々漏れしそうなので話を戻すが、場合にもよるが、『にこやかな表情>>無表情>>>(越えられない壁)>>>嫌そうな表情(又は困ったような表情)』の順番でクレーマーからクレームを受けにくい傾向があり、駅員Aは瞬時に比較的文句が来なくて、来てもごまかしの利きやすい無表情で対応する事にしたのだった(作者注:無表情なら文句を言われても、『これが私なりの精一杯の笑顔(又は申し訳ない顔)です』と言い繕える場合が多い。
ただし、これも『そんなチンケなツラしかできないなら、この仕事を辞めちまえ!!二度とお前の不愉快なツラ見せんな!』と追い討ちをかけられる場合が多々あります)。
駅員Aは倒れている男に声をかけようとしたが、スウェット生地のトレーニングウェアを着て首にチャラそうな金メッキのネックレスをかけ、サンダルを履き、端の尖った細いサングラスをかけている輩が、他人に痛がる事は喜んでする癖に自分に痛がる事を自主的にやるとは思えない事に思い当たり、声をかけるのを止める。
そして駅員Aは、男が飛び出してきた方向………車内の方向………に視線を向けた。
車内には、掌底の形で手を前に突き出して中腰に構えた少女がいた。
少女とはいえ年の頃は二十歳前後、所々上に跳ねた赤茶色の短髪をして活動的な雰囲気を纏った女性だ。
少し吊り気味の眼に怒りの感情を内包し、鋭い眼光で倒れている男を睨み付けている。
臙脂色のトレーニングウェアに包まれたその少女は、掌底を下げて中腰の姿勢からゆっくりと立ち上がると、車外へと移動してきた。
そして痛がる男を睨み付けて、開いた口から怒りを圧し殺した声が絞り出される。
「お前………僕の連れに、何て事しやがるんだ!!」
『あっ!?彼女は、僕っ娘なんだ!』
そう、駅員Aは少女の言葉を聞いて場違いな感動を覚えつつも、その言葉遣いが少女に合っていると感じた。
ボーイッシュながら凛々しく整った顔立ちが、男装の麗人というべきか、イメージ的に宝塚的な雰囲気(但し化粧はノーメイク)を醸し出しており、極々一部の特殊な嗜好持ちの人からは『罵って欲しい』とリクエストされそうな感じだ。
そんな凛々しい感じの少女が怒った表情のまま車外へ出て、倒れて痛がる男(以下、酔っ払いと表記)の前に立った。
視界に少女の足が入ったのか、酔っ払いは少し上を見上げるカタチで少女と目を合わせる。
「い、痛いじゃねぇか、クソ女!!
いきなり、何しやがんだ!」
凄味を効かせながら、ド定番のセリフを吐く男。
こういう人達専用のネットワークがあって、そのネットワークにマニュアルが流れているんじゃないかと疑ってしまう位、異口同音に吐かれる極々ありふれたセリフだ。
「いきなりは、どっちだよ!僕のモノに勝手に触りやがって!!」
「触ってねぇだろぉ!お前の貧相なモンに、誰が触るかぁ!!
俺が触ったのは、隣に居た姉ちゃんの胸だ!」
「触ってんじゃないか!!
僕の連れのに触ってるじゃないか!
あの胸は、僕のモ(ドゴスッ!!)へぶしっ!」
叫ぶように話していた少女から鈍い音がして、少女らしからぬ奇声を発しながら立ち姿勢が崩れ落ちる。
「……………………!!」
崩れ落ちた少女の後ろから、耳まで顔を赤くした黒髪の少女が現れた。
シックな感じのワンピース、腰辺りまで伸びた髪にスラリとした手足、何より服を着た上からでも分かる抜群のプロポーション。
黒目がちの瞳は神秘的な印象を抱かせ、蠱惑的な唇は今は固く羞恥と怒りの感情で固く結ばれている。
そんな表情をしていても、何となく引寄せられる魅力を持った顔立ちをした少女だった。
そして、少女の最も引寄せられる魅力を放っているのが、恥ずかし気に腕で隠されたその胸であった。
服の上からでも分かる、その大きさ。
そして腕で隠されてはいるが、見る人が見れば分かる女性特有の膨らみの形の良さ。
多分、拗れた性癖の持ち主ならば、七割から八割の人が『挟んで欲しい』と願わずにはいられない(作者注:何を挟みたがっているのかはナ・イ・ショ☆)、そんな想いを想起させる胸だった。
少し判り辛い例でいうと、胸部に軟質素材を使用して筆記具を挟めるようにした美少女型フィギュアのペン立てみたいな感じの胸といえば、全世界で数十人位は判ってくれると思う(作者注:残念ながら、作者にその辺りの性癖はなかったようです。ギミック的には面白くて才能の無駄遣い的な感じが大好きですが………考えた人、天才だな……(^3^)/)。
その少女の持つ二つの胸の膨らみは、何でもできる証拠にはなってないが、その大きさと形はまさに未来感じるフォーミュラー級。Fカップは間違いなくあるであろう胸をした少女だった。
ちなみに胸囲が91㎝あるかどうかは、定かではない。
(作者注:Fといえば、91型が有名だったと記憶してます)
まぁそれはとにかく、胸を腕で隠した少女は、後ろからジャンピング踵落としされて頭部を抑えてのたうち回っている臙脂色のトレーニングウェアを着た少女に向かって、言葉を放つ。
ちなみに頭頂部への痛撃は、下手したら死ぬ可能性もあるので、プロレスラー以外は技の使用は控えた方が無難だ。
「馬鹿な事言わないで!!
私の胸は私のもので、貴方のものじゃないわよ、舞!!」
怒りを孕んではいるが、透明感のある涼やかな声で少女は大きな声を上げる。
どうやら、臙脂色のトレーニングウェアを着た少女は、舞と言う名前らしい。
少し痛みがおさまったのか、舞と言う名前の少女は目に涙を浮かべながら、抗議の言葉を口にする。
「痛いじゃないか、美佐!
いきなり、何をするんだよ!!」
そして舞に踵落としを喰らわせた少女の方は、美佐という名前のようだ。
「『何をするんだよ』じゃぁないわよ!
いつ、私のモノが貴方のモノになったって言うの!?
この胸は、昔から私のモノよ!」
「何言ってんだよ!
小っちぇえ時から『僕の胸は僕のモノ。君の胸も僕のモノ』って言ってるだろ!」
「一体、何処の世界のジャイ◯ンよ!!そんなジャイアニズム全開な言葉、認めた事ないわよ!?
昔から舞が、勝手に言ってるだけじゃない!!
だいたい元から自分に付いてるモノを、何で他人のモノにしなきゃならないのよ!」
「だって、僕が丹精込めて育てたんだもん!
小さい時から『大きくなぁ~れぇ♪大きくなぁ~れぇ☆』って念じながら揉んだから、そこまで大きく(ボグシャ!!)ヘグれぶ!?」
かなり良い音をさせて、変な声を上げながら倒れかかる舞。
それは、小振りながら見事に綺麗な弧描いて舞の頭頂部にめり込んだ、美佐の肘打ちだった。
「貴方ねぇ!!
単にジャレて来てるだけかと思っていたら、そんな事考えながら揉んでたの!?」
「え~~、良いじゃん。
それで実際に、胸大きくなったし」
「良くないわよ!!
発想が物凄く変態じゃない!
貴方ニコニコ笑顔で、今までそんな変態チックな事考えてたの!?」
「変態言うな!変態とは、全然違うって!?
僕は純粋に、美佐の胸が好きなだけなんだ!
その形が好きなんだよ!僕が育てた、その大きさが好きなんだよ!そして、美佐の胸におさまっている、その佇まいが好きなんだよ!!」
「充分変態よ!!
『佇まい』って、何よ!
私の胸は、詫び寂びの対象なの!?私の胸は、観賞物なの!?私の胸は、壺や掛け軸と同じ存在なの!?」
「そうだよ!!(作者注:言い切ったよ!?)
壺や掛け軸とは違うけど、僕にとっては充分観賞の対象だよ!
その形、大きさ、服に隠れても隠し切れない存在感!そして年月共に形を変えていく、儚さを内包した美しさ!!その全てが一体となって醸し出される、至高の美!
それこそが僕が愛して止まない、究極の(ボグシャ!)ブロンゾ!!」
美佐による二度目の肘打ちが決まった。
全く、これっぽっちの容赦のない、まるで何処かの国がよくコメントで口にするような無慈悲な肘打ちだった。
「痛いじゃないか、美佐! 衝撃で頭がバカになったら、どうしてくれるんだよ!?」
痛みのせいか、半分涙目で舞が抗議の声を上げる。
「それ以上、ならないわよ!!
いっそ馬鹿になって、変態的な考えを無くしてくれたら私は嬉しいわよ!」
「何だよ!僕の想いを、そこら辺の下衆い感性や劣情と一緒にしないでくれ!
僕は純粋に、美佐の胸が大好きなだけなんだよおおぉぉぉ!!」
「言うに事欠いて、変なカミングアウトしないでよ!」
「変な訳ないだろ!
僕は純粋に、美佐の胸が大好きなだけだ!」
「どうでもいいが、俺の事、無視すんじゃねぇえええ!!」
事の成り行きを見守っていた駅員Aは、戸惑っていた。
何せ、
電車から、男が吹き飛んで下車。
↓
臙脂色のトレーニングウェアを着た舞という少女と男が、胸がどうのこうので口論。
↓
実際に触られた胸は自分のモノと主張した途端、舞という少女は胸の持ち主である美佐に踵落としを喰らう。
↓
舞と美佐の口論が始まる。
↓
成り行きで無視された男が、無視された事にぶちギレる。
↓
ワケわからんカオスチックな状況で、口論が繰り広げられる。←今ココ
こんな状況の中で、自分はどう対処したものかと一瞬悩む駅員Aだったが視界の隅に捉えた電車の運転手の姿を認識した時、駅員Aの悩みは消え去った。
そう、駅員Aは『いつも安全、確実、正確に』をモットーに仕事に勤しんでいた。
そして、今日この日の勤務も例外ではない。
駅員Aは、今の勤務に必須アイテムの『駅員さんがよく手にしてるアレ』こと棒に巻かれた赤と白の二本の旗。
いわゆる手旗だ。
それを軽く上げて遠くから見ている他の駅員にジェスチャーする。
他の駅員はそれに気付いて、粛々と行動を開始した。
車掌の乗車員が、発車を知らせる発ベルを鳴らす。
ちなみに今現在この駅、このホームで使われている発ベルのメロディーは、知っている人しか知らない「希望のまち」という、さいたま市の歌のメロディーだ。
期間限定で他の曲のメロディーに替わる時もあるが、大宮駅を利用する者には耳に馴染んでいる、昔(作者注:だいたい2003年辺り)から使われている発ベルだ。
「だから!人前で『胸!胸!!Oppai!?』とか、ポンポン言わないでよ!?」
「良いじゃないか!『右の乳を揉まれたら、左の胸も揉まれなさい』って、昔の人も言ってたろ!?」
「言ってないわよ!!
何処の世界の使徒の言葉よ!?」
「だから俺を、無視すんじゃねぇ!」
プシュ~~~
電車の自動ドアが閉まる。
だが、その音に気付かず、口論はいまだ絶賛継続中だ。
プァン!
「えっ?」
発車の際の警笛を鳴らした所で、美佐という名の少女がようやく気付く。
流石に電車が動き出したら、気が付いたようだ。
「えぇ~~~!?
ちょっ、ちょっと、舞!大変よ、舞!!」
「何だよ?だから僕は………って、ええっ!Σ(Д゜;/)/(作者注:絵文字並に驚いてます)」
唖然とした表情の少女二人を残し、電車はいつもと変わらず淡々と駅のホームを離れて行った。
「………………どぉぉぉぉぉぉすんのよ、舞!
あの電車が、昼迄に秩父に着く最後の電車だったのに………」
暫し呆然とした後、嘆くように美佐が舞に言う。
その表情は分かり辛い例で例えるなら、通勤(作者注:又は通学)が二時間位かかる場所に住んでいるサラリーマン(作者注:又は学生)が、寝坊して始業一時間前に目覚めて時計を確認した時の表情に似ていた。
「…………どうしよう?」
「だから、それはこっちの台詞よ!
今の電車に乗れなかったから、間に合わないじゃない!!」
「高速バス使うとか、タクシー使うとか、飛行機に乗るとか…………」
「電車が一番安くて早く着くから、電車にしたんじゃない!!
飛行機なんて、空港行くまでが遠いわよ!」
「例えばっていう、モノの例えじゃないか。
ホントに飛行機で行く訳ないじゃん!高速バスだって、停留所が近くにないし…………」
「だからそういう問題じゃなくて!!…………」
ここで思わず激昂しそうになった美佐だったが、感情を爆発させた所で何の益もなく無駄に体力と精神力を損耗するだけだと気付いて、軽く深呼吸する。
さすがに舞も現状は分かっているせいか、物凄く困惑した表情で駅から離れて行く電車を見ているのも美佐が激昂しなかった要因の一つではあった。
呆然と去り行く電車の後ろ姿を見ている少女達に、そこへ空気を読まない追い打ちの言葉が投げかけられる。
「ぎぇえはっはっはっは~~~~♪
ずぁまあああぁぁぁみぃろおおおぉぉぉぉぉ~~~~~!!
俺を無視しやがるから、そんな失敗するんだよおおぉぉぉぉ!自業自得ってぇヤツだぜぃ!(作者注:どうしてそういう結論になるかは意味不明。何故か、こういう自業自得系の事言う人は何処の地域に行っても必ずいます。やはり、マニュアルが存在するんですかねぇ?)
だいたいなぁ!俺を突き飛ばしやがるからグ(スパァン!)ェァア!!」
男の言うセリフは、何をしたか分からない程素早く動いた舞のフック気味の掌底で遮られた。
…………1、2秒程時間を戻そう。
男が笑い声を上げて『自業自得だ』と言葉を吐いた時、舞と美佐はお互いの視線を交わらせる。
その一瞬で、二人は互いに意志の疎通ができたらしい。
『美佐!ムカつくから、このおっさん、黙らせて良いか?』
『下手に長引かせると面倒だから、素早く簡潔に済ませて頂戴』
まぁ、だいたいこんな感じだ。
舞は軽く頭一つ分屈むような姿勢をとると、瞬間的に脚を踏み出して喚く男のそばまで距離を詰める。
スパァン!
掌底一閃。
下から斜め上に繰り出された舞の掌底が、蔑むようなドヤ顔で話す男の顎に叩き込まれる。
その時の掌底の角度は、男の顎に対して右斜め70~80°だ。
この角度で当たり所が良いと、顎を支点に頭部がグキンッとなって大きく振動。その振動により脳が急激に揺り動かされ、脳震盪を起こしやすくなるのだ。
そして事実、舞の掌底を喰らった男は、崩れ落ちるように意識を無くして地面に転がる。
パタリッ………
本当にそんな音が聞こえて来るような、それは見事です自然な倒れ方だった。
「………うん、これで良し!」
実に晴れやかな、舞の笑顔だった。
「そうね……さて、それじゃあ改めてどうしようか、考えましょうか?」
「あああぁぁぁ……………どうしよう?」
また頭を抱え込む舞。
『覆水盆に還らず』、『後の祭り』、『後悔先たたず』の言葉通り、なってしまった事に対してどのような行動をしても、元通りにはならない。
この場合は発車した電車が戻ってくる事だが、無論そんな事は起きるはずがなかった。
「え~と、お客さん達……」
半ば呆然としている二人に話し掛ける人の声。
そう、駅員Aだ。
「あと、8分後に出発する新幹線に乗り込めば、熊谷駅で今出た電車より先に到着しますよ」
「えっ!!」「ホントか!?」
駅員Aの言葉に、美佐と舞は同時に顔を向ける。
「えぇ、特急料金が別料金でかかりますが、新幹線の方が熊谷駅に早く着きますので……」
「美佐!!」「えぇ!」
言葉もそこそこに、階段に向かって走り出そうとする二人。
慌てた駅員Aは、舞と美佐に声を掛ける。
「すいません!コレ(作者注:倒れている酔っ払いの男です)は、どうします?」
「えっ、どうするって…………どうしようか、美佐?」
「……………(少し思案中)……大変お手数をおかけしますが、そちらで処分(作者注:この言葉で怒りの度合いを察して下さい)して頂けるよう、お願いできますか?(にっこり☆)」
「えっ?……処分って…………いいんですか?
警察に被害届を出さないと事件として扱ってくれないから、逮捕されないですよ!」
「良くはないですが………時間があれば、あること無いこと並べ立てて冤罪気味に罪を重くして(作者注:要は、罪を水増しして必要以上に加害者の刑罰を重くする事です)刑務所行きにしたい位腹立たしいですが(作者注:実際にやっちゃったら、普通に犯罪です)、今回は先を急ぎますので!
その辺の加減は、お任せ致しますm(_ _)m」
答えながら、軽く会釈程度のお辞儀をする美佐。
「わかりました!
トラウマ残すか残さないかの辺りで、数時間程度ねっちり説教をかましておきます」
「御願いします!!」
駅員Aにお辞儀をして、急いで階段を駆け上がって行く舞と美佐。
「……………それじゃ、後片付けをしますか」
舞と美佐をにこやかに見送った駅員Aは、駅ホームに居る仲間にジェスチャーで持ち場を離れる旨を伝えると、独り言を口にしてから気絶中の男の片方の足首を掴んでズルズルと駅員室に向かって引き摺って歩いて行くのだった(作者注:引き摺って行く様に、駅員Aの憤りを察してください)。
結構難産なキャラクターでした(>_<)