62 クマと毒味
「おー、人数分の『おはぎ』が完成したのか。
さっそく、食することにしようぞ」
エルフの女性族長は舌なめずりしながら、そう言ったのだが。
「族長、お待ちくだされ。
毒味がまだです。
さっそくわたしが」
族長にお付きの女性がそう言って、おはぎに手を伸ばす。
「いや、毒味の役はわたしのお任せください」
男性の兵士がそれを押し留めて名乗り出る。
どうでもいいけど、早く食べたいだけでしょ、君たち。
2人いっしょに食べたらいいじゃない?
どうせ毒とか入ってないし、君たちだってそう思ってるんでしょ?
わたしの意見が通ったようで、2人が一緒に毒味をすることになった。
2人揃っておはぎに手を伸ばす。
一口頬張ると、途端に2人揃って表情に変化があらわれた。
「「う……」」
「どうしたのだ、やはり毒が!」
慌てて近くの兵士が何人か駆け寄る。
他の兵士もわたしを睨んで武器に手を伸ばす。
「「甘くてとても美味しい……」」
そうだと思ったよ……
またよくある古典的なネタを……
毒見役となった2人がおはぎを完食したのを見届けた後、あらためて族長は
「毒は問題なさそうだな。
さっそくわたしにも『おはぎ』を……」
周りが止めに入る間もなく族長はおはぎを手にとって早速、口にする。
そして、周りにいたエルフたちも我先にと、おはぎを手にしていく。
「んむ。この口いっぱいに広がる甘み。
それでいて決して甘すぎず、飽きのこないこの味。
もちもちとした、この食感が……」
なんか族長がやたらと饒舌になってるよ。
アンナもそうだったけど、やたらとこのおはぎはエルフに評判がいいね。
「クマよ。
『おはぎ』はとても美味しかったぞ。
この出来ならアンナが大事な首飾りを渡したのも頷ける。
この見事な『おはぎ』を献上したそなたに褒美を授けることとしよう。
まずは、この村の名誉村民と認め、いつでも出入りを許可することにしよう。
何か他に希望の物はあるか?」
おー、無事に許されたようだよ。
褒美がもらえるんだ。
何か欲しいものあったっけ?
そうそう。
そういえばエルフの村までわざわざ来た理由があったんだっけ。
あらためて、事情を話して協力を求めるのがいいのかな?
ほら、ジャック。
あなたから改めてエルフの族長にお願いを……
そう思ってジャックの方を振り返ると、エルフの人たちに混ざってジャックもおはぎを食べてるじゃないですか。
ジャックの分は個数に入ってないから、あとでまた作り足しておかないと、村の全員に配ったら足らなくなっちゃって問題だよ!