異世界を殺した男
マキハラ・ユタカは類稀な幸運児だった。
福引きで大当たりを引き当てるのは当たり前。飛行機の墜落に巻き込まれても余裕で生還してしまう。
何をやっても理想通り。失敗から学ぶことの出来ない完璧すぎる人生に飽きたユタカは、いっぺん死んでみる事にした。
どうせ死なないだろうと高を括っていたユタカだが、彼は意外にもあっさりと死んでしまった。
気が付くと、ユタカは雲の上の小さな茶の間で座布団に座らせられていた。ちゃぶ台越しの目の前には絵に描いたように分かりやすい姿をした女神様がいる。
「…女神です。」
「あ〜、うん。僕はマキハラ。」
ユタカは至って冷静だった。非現実的な人生を全うした彼にとって、こんな非現実的な面談は普段通りの非日常に過ぎない。
「色々と手違いがあって、私は本来死ぬはずのない貴方を殺してしまいました」
「責任問題だね。」
「そうです。この事が天界に知れ渡れば、私は女神としての座を追われてしまいます。」
「大変だね。」
「ですから、あなたにお願いがあります。」
こうしてユタカは口封じとして、ある目的の為に異世界へ転生する権利と、いつでも好きな能力を手に入れる【能力創造能力】を当然のように手に入れた。
「元の世界へ還ることは叶いませんが、貴方は異世界で第二の充実した人生を堪能する事ができる。そして私は女神の座を追われずに済む。お互いWin-Winの関係ですね。」
女神は両手を広げて大げさなジェスチャーを披露する。それを見てユタカは思う。死んだ結果の異世界転生も、自分の完璧すぎる非日常の一場面に過ぎないと。
そう考えると、ユタカはこの茶番が尚更くだらないものに思えてきた。
「それはいいけど、僕に課せられた使命って何?」
「よくぞ聞いてくれました。目的もなく異世界へ飛ぶのも退屈でしょう?…これは簡単なロールプレイです。」
「ロールプレイ?」
それはどんな茶番劇か?とユタカは尋ねる。
「そうです。勇者が自ずと魔王を倒す様に、転生した貴方には因縁の敵を倒してもらいます。」
「そいつはどんな敵だい?」
「はい。【エデンの園のグライダー】と名乗る者たちです。正確にはステータス画面の職業欄に【エデン配列】を示す符号が付与されていない人物を始末してください。」
「ステータス?エデン配列?」
ユタカは女神の指示に従い、対象のステータスを看破する能力を創造する。その能力で試しに女神を対象に取ってみると、どこかに浮かび上がるステータス画面には女神ネギシアの本名や、女神の女神という職業、そして神様らしい超越的な数値の並ぶ能力値などが表示される。
「私の女神という職業名の横に付いているプラスマークがエデン配列を示すマークです。」
「つまり、このプラスが付いていない人物を倒せばいいと。」
「理解が早くて助かります。」
女神からの説明を聞き終えると、ユタカは自分の背後にある転生用のゲートへと向かった。
「そうそう。今更ですが相手も一応人間です。人を殺す覚悟はありますか?」
「あるよ。今さっき一人殺したから。」
ユタカは笑った。自分殺しにそれを聞くなんて、笑えないジョークだ。