愛してるってわかってるけど
何も辛いことなどない。
今日もまた、平凡で、普通の日常を贈る。
あなたに。
きっかけは、ベタだけれど恋愛話だった。
誰か好きな人いるの。んーいないかな。だったら、試す?
何を?
好きな人。俺と付き合ったら誰が好きかわかるんじゃない。
そうかもね、面白そうだし。わかった、乗ったよ、それ。
それだけの話だった。それだけで2年続いてるんだから、なかなかの高相性だったんだと思う。
後から聞いたら彼は当時私の事が好きで、付き合えるならなんでもよかったらしいとあの頃からの友達に聞いた。
よく考えたら、試すも何も、一番近くに居られる彼が一番有利に決まっている。面白そうだし、と軽く考えていたけど、あの時私は彼にまんまと騙された。
別にいいけど。
あの後私は彼を好きになったし、本当に好き同士で付き合ったカップルより順調だった。
だって、喧嘩とか、しないんだもん。
好きだってわかってる。今は私も彼もお互いが好きで、そういう風になってるし、本当に好き同士で付き合ったカップルと条件は何も変わらないのに、私達は自然と波風が立たなかった。
喧嘩の多い彼氏のいる友達は、羨ましい、優しいんだねと言っているけど、そうじゃない。
愛が薄いんだろう。
お互いが、好き。だけど、面倒起こすくらいだったら波風立たないほうがいいくらいの、どうでもいい人。多分、彼も私も、恋愛対象としてお互いが好きだけど、それ以外に好きな人もいないけれど、それでも“深く想う”事がないんだ。浅く薄い。恋人がいるだけで満足。多分、相手が変わっていっても、気づかずにそのまま何の違和感もなく付き合い続けられる自信はある。つまりはそういう事だ。
どうでも良いのだ。
別に何も辛いことなどない。
精一杯、あなたに普通の生活を贈る。
精一杯、あなたと普通の生活を送る。
送れたら、よかった。
でも限界。
喧嘩するほど仲が良い、というのはそれなりに理由あっての言い伝えだ。喧嘩するということは、それだけ相手を想っている表れだ。
だから、喧嘩しない今の私たちの状態は、想われてないことくらいわかるくらいには2年前より大人になった。
だから。
別れよう、そう伝えた時に、彼は驚いた顔をした。
なんで、と聞かれた。
順調だと彼も思っていたのだろう。
「だって想われてないから」
「どういう意味?」
「だって、私とあなたは、波風立たないように努力している。相手の怒らない言葉を選んでる。それだけで、2年、やってきた。でも言いたいこと言えてない。なんか、苦しい。あなたも溜まってるでしょう、言いたいこと。……私の友達は、皆喧嘩もするけど、言いたいこと言って、お互いを深く知り合ってる。何か、違うの」
「うん、そうか。じゃあ、言っていいの?」
「え?」
言わないんだと。最後までないよって、だから溜まってないよって、見え透いた嘘吐くのかなと思っていた。
「おれは、すごい引け目を感じてた。無理無理彼女にしたのもわかってる、だけどおれのこと好きになってくれてるのもわかったし、嬉しかったけれど。だけどやっぱり、好き同士付き合い始めてないから」
「……じゃあ、言う。私、あなたのこと好き。無理無理彼女にされたなんて思ってもなかった」
「え?」
今度は彼も驚いて、私と同じ言葉を発した。
「好きだよ。喧嘩してもいいから、想われたい」
【fin】