だから、さよなら。
家に帰って、愕然とした。
家に帰って、愕然とした。
パチン、パチン、と明かりをつけ、……そして居間。
<さよなら>
ただ一言。メモに走り書きして。
可愛らしい、目のくりくりした女だった。
お互い一人暮らし仲良くやろうね、と恋人同士にまでなったのにーー……。
いったいなんなの、急に?
メールを打つ。
<急に何>
それだけ。
吐き捨てるように打ったことが彼女には解るくらい、文字だけの、ハテナもない、雑なメールだった。
<もう別れたいの>
<それが何だって聞いてんの>
好きな人でも、いた?
何が、あった。
悔しいって思って、ややあって驚いた。
ーー悲しく、ないのか、俺は。
自分の気持ちにつきん、と痛くなる。
<だってもう、あなたが私のこと好きじゃないって、解ったから。私が好きでも、あなたが私のこと好きじゃなければ、付き合いは成り立たないと思うの。だから、さよなら。>
拒否することすら、拒んで。
「痛ぇ」
初めての、彼女だった。
だから、自分の気持ちの引き潮すら解んなくて、でも彼女が解るくらいに彼女のこと好きじゃなくなってて。
なんなんだよ、クソッ……。
「痛ぇなーー……」
メモをクシャッと丸めて、くず入れに放る。
「はー……」
渡していた合鍵はポストに入っていた封筒に入ってて、それ以外の彼女のものはなくなっていることに今更気づく。
わざわざ、取りに来たのか。
<ごめんなさい、別れよう。荷物を取りに行くから待ってて。君の部屋の合鍵も返します。>
<合鍵は送ってください。荷物も、送りますから。>
あーー、痛い。
ごめん、たくさん傷つけたんだろう?
今度、人を好きになるなら、自分の気持ちの引き潮くらいは、気を付けるから。
じゃあ、な。
「封筒どこやったっけ」
引き出しか?
「あった」
けど、これはきつい。
彼女のはにかんだ写真付きで入ってる。
あー、痛ぇ。
ぽろり、涙がこぼれる。
写真は彼女が見えなくなるまで引き裂いた。そしてまた、くず入れに入れる。
封筒に彼女の名をていねいに書いて、新しいメモ用紙を出して、書く。
<さよなら>
一瞬迷って封筒に入れ、鍵も入れ、きつくきつく、封をした。
傷つけてごめん。
だから、さよなら。
ーfinー