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バニラ2

と、席替えをしてから一週間。

もうしたくない席替えだっていうのに、あと三週間でこの席とも別れることに……

いや、考えぬようにせねば。

「あのさあのさ? 聞きたいことあんだけど」

「ななななななっ、なんでしょーか!」

「……慣れないなあ、春名くん」

「そーそ! 奈々穂のこと奈々穂って呼ばないのは春名くんだけでしょ。いっつもおもうけど、他人行儀っつーかー」

「まー、あたしも春名くんって名字で呼んでるけどさー」

かーっと、顔が熱くなる。

こんな有様で好きだなんておこがましいのではなかろうか。

「はい、プリーズアフターミー。奈々穂」

「な、ななほ」

「奈々穂、先生かっ」

「で、聞きたいこと。ここ、どうしてもわかんないんだけど」

数学?

ええっと、彼女、頭いいんじゃないの?

「え、でも、村野さん頭いいし」

「ななほ」

「奈々穂さん頭いいし」

「何言ってるの、奈々穂ができるのは国語のみだよ。国語でさえあれば100点頻出するくせに」

「数学なんか最もだめ。50点ざらにあるし。私国語によって救われてる」

……なるほど。

「これ……」

大して難しい問題ではなかった。

少しほっとする。

「えーと……」

またさらに障壁があった。

俺、コミュ障でした……。

「ここ、が、こっちに移動すると、90度だから。そうするとここが48度になって」

「あー! 理解!」

がたっと椅子が鳴る。俺が、転げ落ちた音が。

「え、大丈夫?」

いつもの、バニラの香り。

「はい」

今日はことさらに恥ずかしい。




「おはよう、春名くん」

「おはようございます……むらのさ、あっ、ななほさん」

慣れない。けれど、少しくすぐったい。

「おーいー春名――」

「はい?」

男子の中心的存在様。

「ちょっと面貸せ」

「はっ――」

な、なになになになに! 面貸せっていったこの人! ふ、不良。

じゃなくて!

俺、なんかした?!


「で?」

で? ではなくてですね。

「奈々穂と! なんかした?」

「何かって」

「え? キスとか」

「き、キキキキキキキキス?! 何で?!」

「なんで、って!」

ははっと乾いた声が響く。

ここ、体育館裏。いやー告白定番スポット……この人が危ないことしてくるんじゃないかって自意識過剰でした、すみません。

「付き合ってるんじゃねぇの?」

「いえ、全く……」

「はぁ? あんなに奈々穂わかりやすいのに。告ってないの?」

「いえ」

「ふーん」

「はい」

「ふぅーん」

「何でしょうか」

「あんなにわかりやすいのに。もしかしてお前奈々穂嫌い?」

「いえっ!」

好き。とは言いませんが。おこがましすぎるのに。

「と言うか、わかりやすいって何が――」

「はー? 気づいてないの?!」

「はい」

「呆れた……」

「え……?」

「奈々穂がっ! お前のこと好きなんじゃねえのって!」

「何で……」

そういうこというんだろう。そんなことあるはずないのに。

「僕は、ななほさんが好きですけど、ななほさんに限って僕のことなんか。だって僕なんて」

「面倒くせえな」

「え」

「奈々穂がおれに、そう言えって言ってくるの。確かめたいからって」

「……?」

「奈々穂は好きなんだとさ。春名のこと」

うん? 今この人なんて言った? ななほさん本人がそう言ったと?

「もーすぐくるよ」

「は」

「奈々穂」

え。えええええええ?!

「奈々穂のこと好きなんだろう?」

「あ、はい」

「じゃ、告れ、今すぐ告って勝手にくっついてしまえリア充め」

「あーれ? 春名くんは……」

「お、いっけね、退散せねば」

「あ、いた……」

うーわー。何この急展開いや急展開じゃないのか? 少なくとも俺に一生ものの勝負をしろと言った、この人。

「勝手にくっついてしまえって言ってたけど」

「あっはは! うける」

会話が続かん。恥ずかしい。

「ええと。えーと」

今ほど自分のコミュ障悔しいことない……。

「すきです」

「うん、私も……ぅーわー! 恥ずかしい! あいつを使ったことが裏目に出た!」

「いや僕はいいきっかけになったというか」

「じゃあさ、そういうことで」

「……はい」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

「ねー、ななほさんてのやめよ?」

「え……?」

「プリーズアフターミー。奈々穂」

「奈々穂」

彼女の髪が光にすけて薄く光る。

「バニラ……」

「ん?」

「バニラの香りする」

「あー……」

「なんでかなってずっと思ってたんだけど」

「お母さんの趣味。家にバニラの香りこびりついてるから多分」

嫌? と問われてあわててぶんぶんと首を振る。

「いい匂いだと思います」

「よかったー」

彼女がにっこりと笑う。彼女と呼んできたけれど、ようやく、「俺の」彼女にと呼べ……ない。

「恥ずかしい」

「慣れだよ慣れ」

また、バニラの香りを手放さない理由ができた。

-Fin―


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