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好色王と呼ばれた男  作者: 空即是色
第1章 天界編
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9話 天界最高会議(2)

女神たちは全員白い薄い布を体に巻いているが、ほぼ透けていて体の線が丸見えである。

それぞれ見事な身体をしていた。

アイテールやヒュペリーオーン達は違和感を感じたがそれが何か分からなかった。


「まあ、ゼピュロス、久しぶりねぇ、すっかり若返っちゃって素敵になったわね」


「本当に。ゼピュロス、貴方はすばらしいわ。会うたびに私たちに新鮮な感動をくれるのね」


ゼピュロスは絶対なにか言われるだろうと思っていたが、女神たちはみんなにこにこしてゼピュロスを見つめている。

誰一人として不満を言わない女神たちを見て、アイテールやヒュペリーオーン達も意外だったのか黙っている。


「いや、その……みんなすまなかった。黙っていなくなってしまって…すまん」


ゼピュロスは気味が悪いのか殊勝なことを言っている。


「ゼピュロス、似合わないこと言わなくていいのよ。貴方はいつもの通り我儘でいいの」


「ああ、そうだな、ガイア、ありがとう」


女神達はみんな上機嫌だった。

ゼピュロスが天界を出たときから女神たちは引きこもってしまいアイテール達の前に出てきたことは無かった。

アイテールやゼウスはゼピュロスが帰ってきたから上機嫌なのだろうと思った。

だがそれどころか


「ねえ、ゼピュロス、今度はいつ頃人間界に転生するつもりなの」


とアテナがにこにこ顔で聞いてきた。


―――おかしい、こんなことがあり得る筈がない。天界始まって以来の珍事だ。はっ


その時初めてアイテールやヒュペリーオーン達は気が付いた。

彼女たちは引きこもっていて2千年も会わなかったが、女神たちは以前より若返って生き生きと輝いていた。

まさに聖女のように清らかで少女から女に代わる狭間にいるような透明感のある美しさだ。

はじめに感じた違和感はこれだったのだ。


(どういうことだ、いったい何があった)


「ああ、できれば早めに行きたいとは思っているんだが……その…いいのか」


ゼピュロスもアテナの言葉に戸惑っていた。


「もちろんよ、貴方は風の神、自由に生きてこそ貴方だもの。私達はなにより貴方が一番大切なの。

貴方がしたいことをさせてあげるのが私たちの役目よ。ねえみんな」


今までゼピュロスを独り占めしようと血で血を洗う戦いをしてきた女神達である。

ガイアが信じられないことを言うが、女神たちは皆、ゼピュロスを優しい目で見つめながら頷いている。


「うん、ゼピュロスには自由に生きてほしい」


あのプロセルピナでさえガイアに同意している。

信じられんとゼウスは思った。

プロセルピナは昔、ゼピュロスを拉致して百年もの間独り占めした女神だ。

その時の争いで数億の星が消滅し、女神達の連合軍に敗北したプロセルピナは数百年もの間復活できなかった。

復活後もプロセルピナはゼピュロスに対し激しい執着心を見せていたはずだ。

だがプロセルピナに限らず女神たちは穏やかな雰囲気で、依然と別人のような落ち着きと優しい笑顔を見せている。


能天気なゼピュロスは女神たちが上機嫌の時こそチャンスと見て切り出した。


「なあ、プロセルピナ、話は変わるが十二神将を助けたいんだが、なにか知ってるか」


プロセルピナは一瞬顔が強張ったがすぐに余裕の笑顔を取り戻した。


「なるほど、ムーサ達に聞いたのね。まあいいわ、そうね、そろそろ十二神将は許してあげてもいいかなぁ、みんな」


「そうねえ、最後は消滅させて終わりにしようかと思っていたけど、ゼピュロスが助けたいと言うなら、まあいいでしょう」


「ゼピュロスの頼みじゃ、断ることなんてできないよ。ねえ、みんな」


それを聞いたアイテールは激怒した。


「貴様ら、わしらがあれほど必死になって十二神将を探していたのを知りながら……貴様らは…」


怒りのあまり顔を真っ赤にして口が回らないアイテール。

アテナは心底不愉快そうにアイテールを見ながら言い放つ。


「アイテール、あんたが自分の眷属である十二神将を助けたいのは知ってたけど、あいつらは言っちゃならないこと言ったんだよ」


「そう、あいつら十二神将はゼピュロスを辱めたんだ。許せるわけないだろ」


「ただ殺したんじゃ私たちの気が済まないんだ。だからムーサ達にまかせたんだよ、私達じゃあいつらを消滅させちゃうからね」


アイテールは必死に冷静になろうとしていたが、やっとの思いで言葉を紡いだ。


「頼む、十二神将を助けてやってくれ。彼らがいないと天界の運営に支障が出るのじゃ。頼む」


「わかったよ、だけどあんたのためじゃないよ。ゼピュロスの頼みだから許してやるんだ。勘違いするんじゃないよ」


というグライアイの言葉に激しい怒りを覚えたアイテールだったが、これで十二神将を救えると思ってこらえた。

ゼピュロスはアイテールの気持ちを考えアテナに頭を下げた。


「アテナ、すまないがすぐに十二神将を開放してやってくれ。俺はあいつらに恩があるんだ」


ゼピュロスの言葉にアテナは嬉しさのあまり小躍りしたい気分だったがプロセルピナの手前我慢した。


「礼ならプロセルピナとグライアイに言ってあげて。あの子たちが一番怒ってたんだからね」


「そ、そうか、プロセルピナ、それにグライアイ、ありがとな」


「そんな、いいんだよゼピュロス、じゃあ、すぐに開放するよ」


顔を赤らめたグライアイが何か唱えると広い会議室に十二神将が転移してきた。

全員、首と体が繋がっている。

だが彼らはあまりの消耗に痩せ果て、以前の精悍さは一切無い。

アイテールは彼らに駆け寄り無事…ではないが消滅しなかったことを喜んでいる。


「ああ、お前たち、今まで助けられなかったわしらを許してくれ。しばらく療養してまたわしの片腕として頑張ってほしい」


だがここにはミューズ(ムーサ)とイシスとセクメトもいる。

それにプロセルピア、グライアイ、ヴァルキュアレもいた。

その女神たちを見た十二神将は恐怖のあまりパニックになってしまう。


「「「「「うわあぁぁぁあー」」」」」


と叫ぶと全員が会議室から一目散に逃げだしていった。

ゼピュロスは思った。


―――どれだけトラウマになったんだよ。あれじゃこれから女神たちに意見することなんて出来ないだろ。

アイテール、ご愁傷さま。


アイテールは思った。


―――仕方がない、彼らは辺境の星系に送ってのんびり療養させよう。

そしてその後は各自、辺境の惑星の経営に従事させるしかあるまい。

わしは新たに新十二神将を作り上げよう、今度は何があってもゼピュロスの事を悪く言わないよう徹底させるぞ。


ヒュペリーオーンは思った。


―――5虎将にはこの十二神将の悲劇を伝えておこう。同じ轍を踏まんようによく言い聞かせんとな


ゼウスは思った。


―――ゼピュロス、お前には野心がないから良いが、お前が天界の実質的な支配者なんだぞ。

女神達はお前のためなら何でもするだろう。

まあ、ある意味、お前のおかげで天界は安定しているんだが、いつお前の奪い合いが始まるとも限らん。

お前がこの天界にいれば女神たちの争いの原因にもなる。

お前もそれが分かっているから人間界に転生したんだしな。


オーディーンは思った。


―――ああ、アフロディテ。二千年ぶりだ。相変わらずというかまるで少女のように若返って、ますます綺麗になってる。

そのゼピュロスを見つめる優しい笑顔を俺にもくれよ。

ゼピュロス、さっきの約束、必ず守ってくれよ。



「じゃこれで会議は終わりね。ゼピュロスは帰ってきたばかりだし、しばらくは天界に留まるといいわ。

その間は私達全員でゼピュロスを歓迎するわ。さ、いらっしゃい」


アテナはアイテールやヒュペリーオーン達が見たことも無い柔らかで優しい笑顔をしていた。

美の究極ともいえるほどの美しさだ。さらに女神達全員に言えることだが、清楚なたたずまいの中にも妖艶さを感じる。


「えっ!全員でか」


ゼピュロスは今度こそ本当に驚いていた。

天界が出来てから今までこんなことは一度だって無かった。

普通なら順番で揉めるはず。そのたびに俺はひどい目にあってきた。

これっていったいどうなってるんだ。


「ええ、今まで貴方を取り合って争うなど醜態を見せてしまってごめんなさい。

これからは、私たちは貴方をみんなで大切にしたいと思ってるの。

だからゼピュロス、みんな平等に可愛がってちょうだい」


そのアテナの言葉を聞き、アイテールやヒュペリーオーン達も唖然としている。


―――みんな平等にじゃと。ありえん、こんなことが……

だ、だが女神たちの争いが無くなれば、天界は安泰じゃ。

いつまで持つか分からんが長く続いてほしいものじゃ。

ゼピュロスが人間に転生しておった二千年の間になにがあったのじゃ。

あやつらは全員引きこもっておったはずなんじゃが。



「ウフフ、じゃあ行きましょうか」


アフロディテやアルテミス、エロス達がゼピュロスの周りに集まり手を引いて行こうとした時声が掛かった。


「ヘカテ様。お願いがございます」


アリアンロッドだった。決死な表情をしている。


「あら……アリアンロッド、あなた随分と雰囲気が変わったわねぇ。

それに階位が二つ上がった?……あなたゼピュロスとしたわね……ふーん、いい覚悟ね」


ヘカテから濃密な殺気が漏れた。

それだけでアリアンロッドは気絶しそうになる。

原初の女神の殺気はマアト、フェイト、ルサリィ、ネメシスにも注がれた。

ヘカテの殺気には冷気が伴っていたため彼女らの周りの気温が急激に下がっていく。

絶対零度の殺気だ。だが彼女らは気丈にもそれに堪えていた。

ヘカテが右手の人差し指をアリアンロッドに向けようとしたその時


「まてっ、ヘカテ、アリアを殺すな」


とゼピュロスが叫んだ。


「アリア?……そう、もうゼピュロスが愛称で呼ぶほど仲良くなったんだ。そうか、じゃあ…死になさい」


ふたたびヘカテの右手が上がっていく。

だがゼピュロスが前に立ち塞がる。


「待てって言ってるだろ。アリアは俺の命の恩人なんだ」


「ゼピュロス何を言ってるの」


「さっきアリアに助けられたんだよ、絶対にアリアに手を出すな。ヘカテ」


ゼピュロスの剣幕に押されて殺気を抑えるヘカテ。


「詳しく話しなさい。アリアンロッド。正直にね」


マアト達は仕方なく説明を始めた。


「ゼピュロス様がまだ記憶を取り戻す前、天城浩介様という人間だった時の事なんですが………………………………………………………………という訳なんです」


「なるほどねえ、アリアンロッドはうまくやったってわけね。それにしてもマアト、フェイト、ルサリィ、ネメシスはアリアンロッドに感謝しなさい。

ゼピュロスに傷一つ付けたらお前たちは十二神将以上の罰を与えたうえ、最後は消滅させていたわ」


アテナはゼピュロスの手前、寛大な態度で話している。

どうやらゼピュロスはこの5人を気に入っているようだ。

マアト達はアテナの言葉に震え上がったが、どうやら最悪の事態は避けられそうだと思った。

だが問題はこの後だった。


「だけど、あんた達、記憶を辿るのにゼピュロスの上で腰を振る必要は無かったよ。

手を合わせるか、握るかすればいいのさ。まさか知らなかったとは言わせないよ」


ガイアのこの言葉にマアト、フェイト、ルサリィ、ネメシス、アリアンロッドは凍り付いた。



ストックも少し余裕が出来たので、一章終了まで毎日20時に更新します。

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