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好色王と呼ばれた男  作者: 空即是色
第1章 天界編
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10話 眷属

マアトはここで下手な言い訳などしないほうが良いと肝に銘じていた。

言い訳すればするほど立場は危うくなる。

マアトはともかく、アリアンロッド達は主神に対し嘘などつくことはできないのだ。


「はい、私たちは自分たちの欲望のためにゼピュロス様を騙してしまいました。

お許しください。どうしても我慢できなかったんです」


ガイアとヘカテはどうしたものかと考えたが、ゼピュロスはこの5人を気に入っているようだ。

消滅させたりしたらゼピュロスが怒るかもしれない。

だがこのまま許してしまうのも業腹だし、他の眷属である女神に対してしめしがつかない。

だがあまり酷いことをするとゼピュロスに悪く思われるかもしれない。どうしたものか。


「それであなたの願いとは何」


アリアンロッドの口から出た言葉は意外なものだった。

どうせゼピュロスと一緒に転生させろとかだろうと思っていたヘカテも意表を突かれた。


「はい、私をゼピュロス様の眷属にしていただきたいのです。どうかお願いします」


アリアンロッドの願いはあまりにも大それた願いだったが、フェイトはこの言葉の意味をすぐに理解した。

先ほどゼピュロスはムーサ様やイシス様に会ったとき確かに言っていた。


【これからはずっとお前たちと一緒にいよう。お前たちは俺のたった三人の眷属なんだから】


と言うことは私もアテナ様からゼピュロス様に主神を替えて貰えば、これからもゼピュロス様といっしょにいられるのだ。

今の私はいくつかの小さな星系の支配を担当しているかたわら、こういったパシリのような雑務もこなしている。

だがゼピュロス様の眷属になればそういった煩わしい仕事から解放されるし、なによりあのやさしいゼピュロス様のお傍にいられるのだ。

こんな夢のような幸せなことがあるだろうか。いや無い。

ああ、この願いが叶わないなら消滅させられても構わない、いや消滅させてほしいくらいだ。

そう思いフェイトはアテナの許に傅いた。


「アテナ様、わたくしもゼピュロス様の眷属にしてくださいませ。お願いします」


原初の女神達は顔を見合わせ笑っていた。

ああ、丁度良かったわね、罰としてこれ以上の罰はないわねと。



「いいわよぉ。特別に許してあげるからゼピュロスに頼んでみなさいな。うふふふ」



ゼピュロスは眷属を作ったことは無い。

男の眷属などいらんというのが彼の理由だった。

だがゼピュロスは天界が全宇宙を支配下に置いた後、かつて支配していた神が滅んだ星系でゼピュロスは生まれたばかりの3柱の天使を見つけた。

すでに彼女らには主神となる神がいなかったのだ。

いわば戦災孤児のようなものである。

ゼピュロスはそれを哀れに思い自分の眷属にして天界に連れ帰った。

その3柱の天使がミューズ(ムーサ)とイシスとセクメトである。

ゼピュロスと暮らし抱かれ続け彼女らは美しく成長し階位を上げていった。

さらに様々な能力も開眼し、天使から上級女神になり、最高位の原初の神に次ぐ戦闘力を持つようになった。

ゼピュロスよりはるかに高い戦闘力を持つ彼女らだが、ゼピュロスに対する忠誠心は天界でも有名だ。

ゼピュロスのためなら、躊躇することなく敵陣の真ん中で爆死するだろうと言われている。

ちょっとゼピュロスの悪口を言った12神将は、眷属全てをこの3人に滅ぼされ、自身も首を取られたのだ。

ゼピュロスのたった3人しかいない眷属であるミューズとイシスとセクメトは天界の女神達の間では羨望の的である。

天界でも有数の戦闘力を持ち、あまりにも美しい彼女らはゼピュロスの事以外にはまったく興味はない。


なんにしろそれ以来、ゼピュロスは眷属を受け入れていない。

大規模で広大な星系を支配管理する原初の女神達の眷属の数は無数にいる。

おそらく現在も増え続けているから正確な数は不明だ。

だがゼピュロスはわずか3柱の眷属しかいない。

それはゼピュロスが全く仕事をしていない所為だった。

各女神達のところで毎日毎日酒池肉林だからだった。


もちろんの事だが、アイテールやゼウスなどは不満爆発だが女神達は全く不満はない。

それどころか絶対にゼピュロスには仕事をさせたくないと思っていた。

ゼピュロスが仕事をする暇があるのなら自分のところにいる時間を増やして欲しい。

それにゼピュロスに眷属が少ないことは彼女たちにとって喜ばしいことなのだ。


「なによっ!アイテールっ、ゼピュロスに仕事をさせる気。あんた死にたいの」


と、アテナ。


「ゼピュロスは十分に役目を果たしてるわよ。ヒュペリーオーン、あんたバカなの、死ぬの」


と、アルテミス。


「ゼウスッ、わたくしはゼピュロスは今のままで居て欲しいと思ってるの。

もちろん貴方もそう思うよね」


これもアルテミス。


「オーディーンは分かっているわよね。ゼピュロスは風の神なの。自由にさせてあげないとね。

もちろん私のもとに通って来るのは彼の意思だし。言っとくけど彼に仕事をさせたら分かってるわよね」


と、アフロディテ


とアイテール、ヒュペリーオーン、ゼウス、オーディーンはそれぞれ片思いする女神に言われ切ない思いをしていた。

もちろんその他エロス、セレネ、ヘカテ、プロセルピア、グライアイ、ヴァルキュアレも同様のことを言っている。

それどころか、あまりゼピュロスを責めると女神達によって自分達の身が危ない。

いくら5万分の1程度しか力を出せないからと言っても、それぞれ女神達は自分たちの10倍程度の戦闘力を持っている。

ヘタなことを言ってしくじったら袋叩きにあって、死ぬことは無いにせよ死ぬほどの目に逢うだろう。

ボクシングで言えば4回戦ボーイと世界チャンピオンが戦うようなものだ。


実は、アテナやガイアら原初の女神達もゼピュロスの眷属になりたいと思ってゼピュロスに頼んだこともあった。

だが答えはNOだった。あり得ない答えだった。

原初の女神達を眷属にすれば天界の支配者になれることは確実だ。

だがゼピュロスはそんな面倒くさいことはしたくなかった。

当然、原初の女神達を眷属にするのを断った以上、他の女神達を眷属にする訳にはいかない。

ゼピュロスは女神達の眷属にして欲しいという依頼はすべて断ってきた。

そして断られた女神はあまりの絶望に強烈な精神的ダメージを受け階位を下げてしまうことが多かった。

さらに女神は自殺は出来ないが、自暴自棄になり主神に頼んで消滅させて貰った女神も数万に達している。

そのため今は主神を替えることは基本的に禁止されている。


だからアリアンロッドの願いは無謀だったのだ。

だがヘカテはそれを罰を与えるつもりで許可した。

深い絶望を与え死にたいと言ってきても殺してやらないつもりだ。

ゼピュロスに愛称で呼ばれるとは許せない。

ゼピュロスが女神を愛称で呼ぶ場合、よほど親しい間だけだ。

アフロディテはディーと呼ばれ、アルテミスはアルテ、プロセルピアはセルピア、ヴァルキュアレはヴァルと呼ばれている。

だがヘカテが知っているのはその4人だけだ。

もちろんゼピュロス以外に愛称で呼ばせるなんてありえない。

これは単にゼピュロスがフルネームで呼ぶのが面倒くさいだけなのだが、女神達にとっては重要なことだった。



それはそうとアリアンロッドはヘカテに許可を貰って喜び、さっそくゼピュロスに頼み込んだ。


「ゼピュロス様、どうかどうか、わたくしをゼピュロス様の眷属にしてください。お願いします」


だがゼピュロスの返事はもちろんNOだった。



「あー、そりゃ無理だ、俺は直属の眷属を増やす気はねー」



それを聞いたアリアンロッドはドガーンといった表情だ。

深い絶望がアリアンロッドを襲った。


アテナ、ガイア、ヘカテ、プロセルピア、グライアイ、ヴァルキュアレは愉快そうに見ている。

アフロディテ、アルテミス、エロス、セレネ達は『あ~あ、かわいそうに』といった顔である。


だがその後、ゼピュロスが言った言葉は天界に激震を走らせる。


「んー、だけど、アリアには助けてもらった恩もあるしな。それに俺はお前を気に入ってるんだ。

そうだな、ミューズ、お前、眷属いなかったよな。このアリアをお前の眷属にしてやってくれ。

ヘカテは許したようだから問題ないだろ」


「はい、かしこまりましたゼピュロス様、貴女アリアンロッドといったわね。今から貴女は私の眷属よ。

一緒にゼピュロス様に精一杯尽くすのよ。いいわね」


アリアンロッドはもう死ぬしかないと思うくらいの深い絶望に階位が一つ下がってしまったが、次のゼピュロスの言葉とミューズの言葉で魂からの歓喜に包まれた。

それによって階位が1階位上がって元に戻るという不可思議な体験をしてしまう。


「あ、あ、あ、ありがとうございましゅーっ」


あまりの歓喜に泣き笑いしながら平伏するアリアンロッド。

腰が抜けて立てない状態だ。


ミューズは本当は眷属などいらなかった。

だがゼピュロスのから命令はめったにないが、ミューズにとっては絶対に成し遂げなければならないことだった。


「ゼピュロス様お任せください。アリアンロッド、いいわね。ゼピュロス様の言葉は絶対だからね」


「は、はい、命を懸けて尽くして見せます。ミューズ様、これからよろしくお願いします」


と言うミューズとアリアンロッドを見て原初の女神達は唖然としていた。

あのゼピュロスがアリアンロッドをが受け入れたのだ

直属の眷属では無いにしろ眷属の眷属であれば一族の者となってしまう。

人間で言えば孫のようなものだ。

こんなこと認められないとヘカテは思った。


「ちょっとゼピュロス、貴方。本気?」


「ああ、ヘカテ、アリアは貰うけどいいよな。許してくれたんだろ」


「だ、だめよ、許さないわ。許せるわけ……」


「ヘカテ、俺はヘカテが好きだよ。愛してるんだ。だけど俺たちは原初の神だ、発言には重みがある。

いいかい、ヘカテはさっきアリアを許した。それは変えられない。もしそれを否定するなら俺はヘカテを見損なってしまう」


「だけど……だけどゼピュロス……」


「ああ、ヘカテ、君は美しい、何ものにも代えられない俺の宝物だったんだ。だけど……残念だ…俺は」


「ゼピュロス待ってお願い、貴方の言う通りだわ。一度は許したんだもの。もちろんアリアンロッドはミューズに譲るわ」


「やっぱり君は俺の思った通りのヘカテだった。それは素直に嬉しい。ああ、ヘカテ、君はすばらしい」


「ああ、ゼピュロス、愛してるわ」


「俺もだヘカテ、今日は君のところに行こうと思う。俺はヘカテとしたい」


ゼピュロスのたらし攻撃は全開だった。

ヘカテはもう腰が砕けそうになっている。

アリアンロッドなど数億いるヘカテの眷属である女神のただの1柱だ。

居なくなろうが死のうが全く気にならないが、ゼピュロスが拘ったのが気に入らなかっただけだ。

それより少しでも多くゼピュロスの歓心を買いたい。


―――俺はヘカテとしたい


ああ、なんという甘味な響きだろう。私のすべてはゼピュロスのものと再認識させてくれる。


「ああ、私のゼピュロス。貴方がしたい時は私も貴方としたいわ。すぐにでも私の居城にいきましょう」


と輝く笑顔で話すヘカテだったが、やはりそうは簡単にはいかなかった。


「ちょっと待ってくれヘカテ、ゼピュロスはみんなで接待する手筈になってたはずだろ」


「えっ…ああ、そうだったわね。うん、分かった。じゃあ、ゼピュロス二人きりになるのは今度ね」


信じられない事が起こった。

まさかこの状況でヘカテがすんなり引き下がるとはありえない。

以前なら間違いなく争いになっていた。



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