第1説
柏木修二改めガロンとしてデビュー
『ほっほっほ。柏木修二くんよ歓迎するぞい。そしてこれからの君の人生に幸多からんことを』
そう言って目の前の白髭爺さんはその長い髭を軽く撫でた。
嬉しそうにしている爺さんを見つつ俺も歓喜に打ち震えていた。ずっとプレイしていたゲームの元になった世界にこれから足を踏み入れるのだ嬉しくないはずがない。
『そういえばワシの名前をまだ言っておらんかったの。ワシの名前はウェイスと言う。他の神々よりちっとばかし権限が大きいだけの爺じゃ』
ウェイスと名乗る爺さんはやっぱり偉かったらしい。仮にも一人の人間を別世界に送るくらいであることからしても偉いのだろう。他の神様も同様なことが出来るのかも知れないが俺が知る術はない。
そして目の前の爺さんと軽く雑談を交わし少しずつこれから俺が行く世界についての話しを聞くことにする。
「じゃぁ、ウェイスさん。俺が行く世界についていくつか教えてもらいたいのですがいいですか?」
『構わんよ。聞きたいことがあるなら一つずつ答えようかの』
そう言って爺さんは突然何もない空間から紅茶とティーセットを取り出して俺と爺さんの分に紅茶を注いでいく。
カップに綺麗な色をした紅茶が注がれほんのりと甘い香りが鼻腔を刺激する。フレーバーティーに似ている気がするがなんだろうか・・・そうではないと感じ俺は注がれた紅茶を口にすると
「おいしい・・・味はミルクティーに近いのかな?でも匂いはストロベリーに近い・・・」
そう、俺が飲んでいるこの紅茶はまさにそんな味と匂いがするのだ。不思議な感じがする紅茶を楽しんでいると
『気に入ったようじゃの。この紅茶は君が行く世界アルフォンドにある紅茶じゃよ。広く普及しており王族貴族平民すべての人々に愛されとる紅茶じゃ』
と爺さんが俺に説明してくれて爺さんも紅茶を口にした。
(さてと、何から聞こうかな・・・魔法のことやお金の単位や拠点がどこに出現するのかとか色々ありすぎる。まぁ一つずつ聞いていこう)
一頻り考え爺さんに改めて質問をする
「じゃぁまずはウェイスさんにお聞きしたい。俺はガロンとして行くわけだけど魔法は実在するのでしょうか?行った先で魔法が禁忌だったりすると面倒そうなのですが・・・」
『安心するといいぞい。魔法は実在しとるよ。ただお主のようにMPを消費したりというわけじゃないがの』
MPの消費でない?ということはそれ以外での方法で魔法を使うということだろうか。
『アルフォンドには大気中にある魔力と自身が内包する魔力を使って顕現させるんじゃよ。自身が内包する魔力ということに関してだけ言うのであればMPと大差ないかも知れんの。そして内包する魔力と大気の魔力を使って人々は放出型か内放型かバランス型に分かれるんじゃ
放出型はその名の通り魔力を外に開放するタイプじゃな。相手に攻撃することが主にじゃ。そして内包型は自己強化や回復など主にサポート系じゃな。バランス型はどっちも出来るやつらのことじゃな。ただこれらは先天的なものであっての、一定のコントロールが出来るようになればどちらも使えるようになる。ま、相性などもあって使えないものもあるがの。
そしてお主のMPは使い続けても疲労感に襲われるわけではないがアルフォンドの住人たちは違う。だからあんまり目立つことや乱発はせんことじゃな』
そう言う爺さんは最後にほっほっほと笑いながら俺に説明してくれた。なるほど、確かにそれは気をつけなければいけないだろう。その世界での消費量がどんなものかわからないが乱発しまくっても疲れた様子を見せないのは確実に注目される。
別に後々に注目されてるくらいなら問題はないのだが突如世界に現れてその結果、畏怖され生き辛くなるのは勘弁願いたいものだ。
(別に名誉や地位に固執してるわけじゃないがある程度は持っておくのに越したことはなさそうだなぁ。ま、その辺りのことは追々考えるとしよう)
そう考えて一度記憶の隅に追いやり次に聞きたいことを考える。
「じゃぁ次に金銭価値について教えてもらっても構いませんか?あと俺が持ってる資金と拠点に保管してる資金に関しても説明してくれると助かります」
『そうじゃの、ではまず金銭価値から話すとしよう。金銭は銅貨、銀貨、金貨のこの3つに分かれておる。銅貨はお主の世界での100円だと思ってくれ。そして銀貨は一万、金貨は50万と言ったところじゃな。
あとお主の持ってる資金と拠点の資金に関してじゃがそれはこの世界に行く時にこの世界用に変換しておこう。』
「そうして戴けるなら助かります。無一文だとさすがに困りそうだったので・・・」
さすがに無一文はきついと困り顔になった俺を爺さんはにこやかに見てさすがにそれは無いと言ってくれた。
これでお金のことも一頻りわかったので次の質問に移ることにする。
「では、拠点のことなのですが何処に飛ばされることになるのでしょうか?断崖絶壁のところや海のど真ん中や海底とかはさすがご勘弁願いたいのですが」
『ほっほっほ。そんな所にはさすがに送らんよ。そうじゃな、人の統治する国の端にでも送ろうと思っとるよ。世界の説明はいるかの?』
一瞬困惑するような目になった爺さんだが次の瞬間には否定し人のいる場所に送ってくれることになった。
「いえ、世界に関してはその世界の人たちにでも聞くことにします。」
何でも間でも聞くのはさすがに気が引けるのでと付け加えた。
『そうかの?なら拠点の話に戻るがの一応端に送ると言っても万が一にでも人目についたら大事に成りかねないので世界から干渉できないようにしようと思っとる。
転移ゲートを設置しとくからそこから入って欲しいんじゃ。あと、お主が拠点に戻る時はテレポートで戻れるがそれ以外はこのリターンリングを所持しとる者のみ戻れるようになるから気をつけてくれ』
そう言いつつ爺さんはリターンリングと呼ばれる物を俺に渡してきた。一見ただの木の指輪にしか見えないが指に嵌めるとびっくりすることに指輪が自分の指に丁度嵌る。
おそらく神の御業のようなものなんだろう。しかも外すのも容易ですぐに取り外すことも出来た。
「すごいですねこれ。指に引っかかることなくすぐに取れるのときっちり自分の指に嵌るのにびっくりです」
『そうじゃろそうじゃろ。ワシが作ったものじゃからなこれくらいは同然じゃ。それとな、そのリングはお主が許可した相手以外には見えなくもなっておるから取られるということもないので安心するといいぞ。
あとそのリングはあとでアイテムボックスに入れておくとよいぞ。アイテムボックスに入れれば無限に取り出せるようにしておる』
なんてこった。俺はとんでもないものを貰ったようだった。驚愕してる俺を爺さんは愉快そうに笑っているのだった。
ともかく拠点についても特に問題ないようなので俺は胸の高鳴りが徐々に強くなっていることがわかったので爺さんに改めて向き直しそして
「ウェイスさん、本当にありがとうございます。俺、このゲームをやっていて楽しかったです。そして俺をアルフォンドに招待してくれてありがとうございます。」
そう言って俺は頭を下げる。爺さんは優しく微笑んでこちらこそと言ってくれた。
『では、そろそろ送るとしようかの。では柏木修二・・いや、ガロンよ。話せて良かった。あっちの世界で色々経験するじゃろうがお主はお主の決意と覚悟を持ってそれを信念とするがよい』
最後にもう一度爺さんは微笑み。そして俺は光に包まれながら真っ白な空間から消えていった―
「ん・・・んぅ」
目を開くと少しだけ視界が定まらずにぼやけていたが数回瞬きをしてようやく視界がクリアになっていくのと頭もクリアになっていく。
そして見渡すと今まで見慣れていた自分の自室ではなくそこには豪華なベッドに大きな鏡と紅い絨毯が敷き詰められ部屋の隅には大きなクローゼットがある。
そして俺はその部屋の中央にあるテーブルと椅子がある場所で椅子に座っている。
そう、ここは・・・何度も何度も設置する家具を吟味し納得のいくように配置を考えたあの夢にまで見たガロンの部屋である。
胸の高鳴りはさらに激しくなっていく。ドクドクと自分だけではなく誰かいたのなら聞こえてしまいそうなほど高鳴っているのが分かる。そして、俺は立ち上がり恐る恐る鏡に近づいて自分の姿を確認する。
そこには自分の分身でもあり今まで自分が憧れ続けたガロンの姿が映っていた。
「夢じゃない・・・よな?」
そう言いながら自分で自分の体を触りながら確認する。そしてそれを模写するように鏡のガロンも手を動かしている。
本物だ。
そう確信した俺は背中に生えた羽をパタパタと動かしたりして遊んでみた。
「お?・・・おぉ!あはは、すげー!自分の手の延長みたいな感じなのかな?とっても面白いぞこれ」
初めての割りには上手く動かせてるのではないだろうか。その理由は、どうやら自分の頭の中に羽をどうやって動かすのかってのが記憶されている。
しばらくそうして出し入れしたりパタついてみたりと羽で遊んでいたが屋敷の中はどうなっているのか気になったので自分の屋敷ながら探索してみようとなった。
「まずは2階の部屋全部を探索するぞ!その後で1階だ!」
まるで気分は探検家である。今まさに未踏の地へをガロンは足を踏み入れるのであった。とナレーションが頭の中で言っている。CVは全部俺、探索するのも俺、自作自演である。
そうしてしばらく探索して全部探索し終えるのに大体1時間ほどの時間を費やした。
「我ながら謎だけどなんで俺は部屋を沢山作ったのだろうか・・・ま、楽しかったしいいけどね」
そう、先ほども言ったように部屋数が無駄に多いのだ。2階はすべて寝室であるものの部屋数は10は超えていてしかもガロンの部屋に見劣りはするものの質の良い部屋が揃っている。
1階は応接室に食堂そしてリラクゼーションルームと1階の一番置くには自分でもやり過ぎたと作った当時は思った大浴場がある。露天風呂完備である。
「まさかやり過ぎたと思ったあの大浴場が本当に使えるとはね。嬉しいから全然いいんだが!っと一先ず屋敷内はOKだな。では・・・外の世界へ行ってみましょう!」
まだ気分は探検家である。青年よ扉を開け―まだナレーションもやるらしい。
キィ―と少しだけ音を立てる扉を引いて開けるとそこにはガロンの想像以上の
森だった
どうみても深夜の森です。月明かりに照らされて神秘的な感じになっているが自分の屋敷周辺以外は森なのでこれはこれで怖いものがある。
想像以上に森だったせいで少し思考停止していたが気を取り直して改めて周囲を探索してみることにする。息を吸うと新鮮な空気がガロンの体の中に入り清々しい気持ちになりつつ真っ直ぐに進んで行くと突然ポヨンといった感じで何かにぶつかった。
おそらくここまでが限界なのだろうと当たりをつけることにして少しだけ辺りを歩き満足してウェイスの爺さんに言われた転移ゲートへと足を運んだ。
そこには私が転移ゲートです。と主張するように設置されておりしかもすでに起動しておりそこの一角だけ光っており陽炎が如くぼやけているのである。
一瞬だけ大丈夫だろうか?と思うが何事も経験だと思い思い切って通ってみた。通った瞬間ヒッと小さく悲鳴をあげ目を瞑ったのは内緒だ。
そしてゲートを潜った瞬間だけ浮遊感に襲われたがすぐに収まった。そしてゲートと潜りぬけたあと後ろを振り返ったのだが屋敷の姿はなく屋敷の方へ歩いてみるが全く何もなかった。おそらく次元の隙間か何かを越えたのだろう。
興奮と少しだけ恐怖感が出てきたが今は探索が先だとでも言わんばかりに自分に言い聞かせる。
改めて森を探索するべく歩きだしたのだが少しだけ森を歩いていると木々がなくなり開けた場所に出る。
「これは・・・」
ガロンが目にした先には草原が広がっていた。草木が生え風も少し吹いていて風に身を任せるように草木が揺れている。
サーッサーッと音が聞こえてはいるもガロンは目の前の光景に見惚れていたのだ。
そして―
「おひょおおおおおおおお!これが本物かああああ!」
「おほーっ!草木のにほいがしゅるううううう!」
ここにもし他に人がいたのなら絶句しているか変質者と言われただろう。
それくらい地面に向かいダイブして転げまわっているガロンの姿は怪しかったのだ。
とりあえず転げまわって堪能したガロンは大の字になりながら空を見上げている。空にはまだ月があり星も輝いている。こんなに輝く星を見たのは何十年前だっただろうか。
この景色を見ただけでもこの世界に来た価値があるというものだ。手に掴めるはずもないのだがガロンは腕を伸ばし星々を掴もうとしたが・・・やはり掴めない。
だが掴めなかったガロンは笑っていた。そして世界にありがとうと心の中で伝えた。
「さてと、じゃぁこれからのことでも考えますかね」
一頻りに堪能したガロンは屋敷に戻ってきており自室の椅子に腰掛けながらこれからのことを考えるのであった。
「当面はお金はなんとでもなるが有限である以上稼ぐことを考えないとな。ただ俺はこの世界から逸脱しているから正体がバレないよにしないと危ないな
と言ってもおそらくバレるだろうからそこまで気にしないでおこう。バレるとしても人脈を使えるくらいにはしないと・・・商人は・・・やめとこう。そもそも経済学が門外漢だから無理だ。
なら貴族になるのは・・・だめだな。貴族のシステムがわからない以上に素性を調べられる可能性が高い。となると・・・やっぱり冒険者かなぁ。」
おそらく依頼をこなしていけば指名を貰ったり伝手が出来たりするかも知れない。出会いは大切にしているガロンにとって冒険者が妥当だろうと考える。
(それに世界を自由に回って気ままに過ごしたいからな。おいしい食べ物とか食べまくってみたいし!)
こうしてガロンは自分の今後を考え冒険者として生きることを決めたのである。
この時の決断が後の様々な出会いを引き起こすことを彼はまだ知らない。
異世界さんこんにちわ~不死王だけど元人間です~ 第1説「はじまり」