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第一章 その3

 ゴーン ゴーン

ユウは大きな鐘の音で目を覚ました。この鐘は寮の近くにある時計塔の鐘の音で、毎朝八時になり響く。この寮の生徒のほとんどはこの鐘で目を覚ます。

ユウはベッドから降りるとあくびを一つし、制服に着替え始める。

今日から授業のスタートだ。ユウはワクワクする一方、少し不安でだった。何が不安かといえば、もちろん午後からの特別授業、つまりは魔王育成科の授業が、である。

「何よりもまずは午前中の一般教養だよな」

ユウは気合を入れるとかばんを手にし、寮から出た。



一般教養の授業は、大方は普通の学校の授業とたいして変わらなかった。普通と違っていたのは最後の生物だけだ。初日ということで説明だけだったのだが、説明を聞いただけで違うな、とわかるものだった。生物は生物でも魔物や魔法生物についての授業だったのだ。さすがは勇者を輩出した学園である。

勇者になることを目指して頑張ってきたユウにとってはどの授業も苦になるものではなかった。


「皆さん、午前中の授業、お疲れ様。午後からは別々の教室だから忘れずに指定の教室に向かってね」


シロナガはそう注意すると嬉々として教室から出ていった。

「いろいろと物知りだな」

ユウにそう声をかけたのはルートだった。


「えっと、母がそういうのに詳しかったから」


ユウはこのルートという少年が苦手だった。休み時間のたびにユウに話しかけてくるし、なによりも彼と話していると機械と話している気分になる。


「ふーん。君のお母さんは何の仕事をしているんだ?」


「えっと…」


ユウがどう答えたものかと考えているとそこへフェレがやってきた。


「ユウさん、あなたにお客ですよ」


ユウはこれによってフェレが同じクラスだったことを初めて知った。

「ありがとう」

ユウはフェレに礼を言うと特に何も言ってこなかったのでルートを置いて教室を出た。


「こんにちは、ユウくん」


ユウを待っていたのはなんとシアンだった。


「こんにちは、シアン。ありがとう」


シアンはいきなり礼を言われ、きょとんとした顔をする。


「なんでもない。それよりどうしたんだ?僕の教室まで来てさ」


「一緒にご飯を食べようと思って。ダメかな?」


そんな風に聞かれては断ることが出来ないのがユウである。

ユウはシアンとともにそのまま学食へと向かった。その後、レナがユウの教室へとやってくるのだが、ユウはそれを知らない。そこでいったい何が起こるか知っていたらユウはシアンの誘いを断っていただろう。しかし、何も知らないユウはそのまま教室から離れるのだった。

学食内は昨日とは大違いで、随分と人がいた。昨日は何だったのかと問いたくなるくらいだ。

二人は列に並び、注文する。それぞれ別の列に並んだのだが、料理を持って机に行くとユウもシアンも同じ唐揚げ定食を選んでいた。同じと言っても量は比べるまでもなくシアンの方が多いが。


「今日はお揃いだね。違ったら少し交換しようと思っていたのにな」


シアンは残念そうに言った。ユウはそれに苦笑いで応じる。


「さあ、食べようか」


ユウが促すとシアンも椅子に座る。


「「いただきます!」」


ユウはシアンがおいしそうに唐揚げを一つ食べるのを見届け、聞く。


「なあシアン。昨日の親睦会に生徒会長は出たのか?」


「うん、出てたよ。でも顔は上半分仮面で隠してたし、マントを着てたから何年の誰なのかは全くわからなかったけどね」


「仮面にマントって……」


一体どんな生徒会長何だろう。明らかに何かを隠しているじゃないか。

声はどうだったんだ。男だったとか女だったとか」


シアンうーんと首をひねる。


「男っぽかったし女っぽくもあったんだよね。たぶん声を変えてたんじゃないかな」

随分と怪しい生徒会長だね」


「そうだねー」


シアンは相槌を打つと急に表情を引き締めた。


「ユウくん。生徒会長について詳しく知りたいと思う?」


いきなりの表情にユウは怯みながらも答える。


「知りたいとは思うよ。でも無理に知ろうとは思わないかな」


それは自分が昨日使った言葉の再利用だった。


「そっか。私も同じ意見かな」


シアンは表情を崩してそう言った。


「それはそうと、授業の方はどう?」


シアンは今の話がなかったかのようにあっさりと話を変える。ユウもそれに乗ることにした。


「おもしろそうだなって思うよ。説明を聞いた限りでは。生物には驚いたけどね」


「魔法生物や魔物には町の中にいる限り会うことはほとんどないからね。ユウくんはそういうのって見たことある?」


「魔王の時代に何度か」


ユウはそう言って笑った。


「どうしたの?」


「えっ、何が?」


「今、無理に笑っているように見えたから」


「シアンの気のせいじゃないかな」


ユウは内心焦りながらそう言うと食べるのに集中する。

シアンは全く納得していないようだったが、それ以上踏み込んで来ることはなかった。

その後は気まずい雰囲気のせいか、二人は黙々と食べるだけで会話はなかった。

量が多かったはずのシアンが先に食べ終わり、立ち上がった。


「私は行くね。明日も一緒にごはんを食べようね」


「うん」


ユウが頷くのを見るとシアンは早足で去っていった。

ユウは食べ終わると少し時間は早いが対談室へと向かった。


「あら、よく来たわね。丁度呼びに行こうかと思っていたのよ。ちょっと待っていてね。レナちゃんを…」


「その必要はない」


開いたままだったドアから顔をのぞかせ、レナが言った。


「あらそう。二人ともナイスタイミングよ。これなら間に合いそうね」


サラは二人に二冊ずつ本を手渡した。


「魔法科の教科書か。随分厚いな」


ユウがこれは何かと聞く前にレナがポツリと呟いた。


「これで魔法を学ぶんですか」


ユウがそう質問するとサラは、ふふっと笑った。


「その通りだけれど完璧ではないわね。あなたたちには今日から二カ月、魔法科に潜入してもらうわ」


「「はあぁぁー!?」」


予想外の発言にユウとレナは同時に声をあげた。

あなたたちは特務科ってことになっているからバレたとしても何の問題もないわ。さあ、時間がないから第一魔法館へ行きなさい」

サラは二人に有無も言わせず送り出した。

パタンとドアが閉められユウとレナは顔を見合わせる。


「まったく。サラ先生はいったい何を考えているんだ!」


レナはいつになくイラだった様子で言った。


「お昼になにかあったの?」


「何もない!」


ユウが聞くとレナはそっぽを向き、歩き始めた。


「待ってよ!」


ユウはあわててレナを追いかける。


「ねぇ、レナ!」


ユウが呼びかけてもそっぽを向いたまま何も答えなかった。

 


魔法には主に三つの種類がある。回復や支援魔法等の白魔法、攻撃系魔法や召喚魔法などの黒魔法、呪文等を必要としない属性攻撃や付加などの特殊魔法がそれだ。魔法科とは黒魔法と一部の特殊魔法を学ぶ学科である。

時間前に第一魔法館の前にやってきた二人を一人の女教師が待っていた。ユウたちは普通にその横を通り抜けようとした。


「お待ちなさい」


その女教師に呼び止められた。


「バッチを見せてくれないかしら」


ユウとレナは視線を交わし、女教師にバッチケースを渡した。


「…なるほど。あなたたちがポウンの言っていた生徒ってことですわね」


女教師はバッチケースを二人に返す。


「失礼しましたわ。私は黒魔術を教えるミミーナ=シャラン。ポウンによろしくお伝えくださって」


「えっと、ポウンって誰のことですか」


ユウがそう聞くとミミーナは意外そうな顔をする。

知らないみたいですわね。まだあの子はサラと名乗っているってことかしら」


「サラって名前じゃないのか?」


「ええ。家名のサラナを略したものですわ。本名はサラナ=ポウン。私から聞いたことは言わないでくださいね」


ミミーナはそう言うと二人から離れ、魔法館へと入っていった。

ユウとレナもミミーナに続き中へと入る。

ユウたちが最後だったようで二人が入るとどういう仕組みなのか、扉がゆっくりと閉まった。


「少し早いが皆がそろったことだし始めさせてもらう」


男性教師が台に立ってスピーカー越しに言った。


「私はロンベール=ノート。君たちに黒魔術についての知識を教える。そしてこちらの先生は…」


「ミミーナ=シャラン。実技を担当させていただきますわ」


ミミーナはロンベールの隣に立ち、一礼する。


「ではさっそく始めよう。まずは何を学ぶか詳しく見ていこう」


ロンベールがパチンと指を鳴らすと二人の頭上に映像が現れる。


「ここで学ぶのは主に黒魔術だ。黒魔術とは戦闘に特化した魔術だ。使い方を間違えれば…」


「言葉で説明するより実際に体感したほうが早いですわよ」


ミミーナはロンベールの話を遮り、口から巨大なシャボン玉を生み出す。


「ミミーナ先生!その魔法は!」


ロンベールが止めようとするが時すでに遅く、シャボン玉は上空に浮かんでいた。


「動いたら死ぬから、気をつけてね♪」


そう言ってミミーナは小さいシャボン玉を飛ばす。

小さいシャボン玉と大きなシャボン玉が合わさった瞬間破裂し、部屋全体に刃の雨が降り注ぐ。


 ザザザザザザン


刃は人と人の間をねらって突き刺さっていた。そのおかげで誰一人怪我をした者はいないようだった。


「…」


ユウを含め、ほとんどの生徒は恐ろしさのあまり、声をあげることも動くこともできなかった。


「さすが教師だな」


レナは平然とした様子でつぶやいていた。


「これでわかりましたわね。黒魔術がどれほど危険で恐ろしいのかを」


ミミーナが手をたたくと刃は煙のように消えた。

ロンベールはその横でやれやれと肩をすくめ、すっかり静かになった生徒たちへの説明を再開する。


「まずは周りの人と適当に二人組を作ってくれ。ペアが決まった者は後ろに、決まっていない者は前に移動してくれ」


ロンベールがそう言ったが、さっきのショックが残っていたのか、生徒たちはすぐには動き出せなかった。


「私と組むぞ」


ユウも例外ではなかったのだが、例外であるレナがユウの腕を取った。


「あ、うん。そうだね」


完全に立ち直ってはいなかったユウはレナに引かれるまま集団から抜け、後ろにさがる。

レナと同じように例外がいたのか、他にも何組か抜け出てくる。その中にはルートの姿もあった。


「お前たちも魔術科だったのか」


ルートがパートナーの少女とともに二人の方へ近づいてきた。

そういえば入学式の日にルートはレナのことを知っている風だった。ケリクラとレナは知り合いなのだろう。その証拠にレナはあきらかに不機嫌そうだ。


「僕らに何か用?」


「そんな言い方はないだろう。知った顔を見かけたから声をかけてやっただけだぜ。なあ?」


ルートは同意を求めるように後ろにたたずむパートナーの方を向く。


「あなたの言っていることは正しいとは思うけど、相手を見下した物言いはやめた方がいいわよ」

堂々とした様子で彼女は言った。それを聞いてルートは素直にうなずく。

そうだね。お前の言っていることは正しい。悪かったな。それじゃあ、手合わせする事があったら頼むぜ」


ルートは背を向けるとそのまま二人から離れていった。ルートのパートナーも一礼し、ルートの後に続いた。


「嫌な奴に見つかってしまったな」


レナは苦虫をかみつぶしたような顔でそう言った。

ユウたちが話している間に立ち直ったようで、他の生徒たちも動き出し、後ろへ来る生徒が増え始める。そのせいでレナに何も聞くことができなかった。


「皆二人組になったな。最初の数ヶ月はそのペアで行動してもらう」


ロンベールがそう告げ、ミミーナが前へ出る。


「まずはカードを作らせてもらいますわ」


ミミーナはそう言うと手を高く挙げる。するとユウとレナの間に光の玉が出現する。周りを見ると他のペアにも同じことが起こっていた。

その光はしばらく漂っていたと思うと急にミミーナの方へと集まり、ミミーナの手元でカードになった。


「オリエンテーションはここまでにして、授業を始めますわ」


ミミーナは授業と言ったけれどその後も教科書を使うこともなく、魔法を使ったショーが行われた。そのショーは黒魔術の使い方を変えれば見せ物にもなると生徒たちに教えてくれたのだった。

授業が終わり、教室に戻る途中にユウはレナに話しかける。


「ミミーナ先生の魔法はすごかったね」


しかしレナはユウの言葉に何の反応も示さなかった。


「レナ?」


ユウがレナの肩に触れると、レナはビクンと体を震わせた。


「な、何だ」


レナの反応はまるでユウがいることを今思い出したかのようだった。


「どうしたの?心ここにあらずって感じだったけど」


レナはユウをしばらく見つめたかと思うと首を横に振った。


「何でもない。少し考え事をしていただけだ。それよりも急いで戻るぞ。ゆっくりと歩きすぎた」


レナが言った通り二人の周りには誰の姿もなく、ホームルームが始まりそうな時間だった。


「そうだね。みんなを待たせることになるからね」


ユウはうなずくとレナとともに足を早めた。

それ以降教室の前に着くまで会話はなかったのだが、Ⅰ組の教室の前でレナは振り返って言う。


「ホームルームが終わったら談話室へ行くぞ。サラを問い詰める必要があるからな」


「わかった。僕がレナを迎えに行くよ」



「ああ。ではまたあとでな」


レナがⅠ組の教室に消えるのを見届けるとユウは急いでⅢ組の教室へ向かった。


「もう!遅いですよ、アオノメくん!何をしていたんですか!」


ユウが教室に入るなりシロナガはプンプンと怒った様子で言った。


「遅れてしまってごめんなさい」


ユウがすぐに謝り、頭を下げるとすぐに表情を緩めた。


「わかればいいんですよ。さあ座って。ホームルームを始めますよ」


ユウはシロナガにうながされ、自分の席へ向かう。その途中にケリクラと目が合う。ケリクラはにこりと笑ったがユウはすぐに目をそらし、席についた。

放課後、Ⅰ組に行くと、教室の前でレナが待っていた。レナはユウが声をかける前にユウに気づき声をかけた。


「遅かったな。先生から遅れたことのお咎めでも受けていたか」


「ああ、うん。だいたいそんな感じかな」

 

実のところ、ユウに説教をしたのはシロナガではなくフェレだったのだが。


「さあ、行こう。まだ談話室にいればいいんだけど。談話室以外でサラ先生がどこにいるかわからないわけだし」


 レナはひとつうなずくとユウに並んで歩き出す。

それはそうと、気にしたことはなかったがサラ先生はいろいろと秘密が多い。知っていることといえば奴が魔王育成科の教師だということぐらいか。サラが本名ではないことも先ほどわかったしな」

レナはもっとサラ先生について知っているのではないか、そう思っていたが実はそうではないらしい。


「レナはサラ先生にどういう経緯で出会ったんだ?」


「んん。サラ先生と出会ったのは私が学園を見学に来た時だったな。その時どの学科に入ろうか迷っていてな。サラ先生の方から話しかけてきた」


レナは一度間を空け、ため息を吐く。


「何も知らない風に話しかけてきたが、すべてを知っていたのだ。あいつは!」


レナは憤りを隠すことをしなかった。ユウも似たような憤りをサラに感じたことがあったのでレナには大いに共感できた。


「よし、魔法科の件以外にもいろいろと言及しよう」


「ああ」


二人はそううなずきあったのだが、いざ談話室に行ってみると鍵が開いているというのにサラの姿はなかった。


「まさか本当にいないとはな」


レナは肩をすくめ、椅子に座る。どうやらサラが来るのを待つ気らしい。鍵が開いていたからすぐに戻って来るだろうと踏んだのだろう。

ユウはとくに異論もなかったのでレナの隣の椅子に腰を下ろした。


「ユウ。すまないがサラ先生が来るまで私の話を聞いてもらえないか」


「うん、いいけど」


レナがいたって普通の表情で聞いてきたのでユウは完全に油断していた。


「私とルートは同じ学校出身なんだ」


「い、いきなり何を…」


「私とペアを組んだからな。お前にも関係ある話だから話しておこうと思った。あいつは数少ない私の正体を知る人間だ」


正体、つまりレナが魔王の娘だと知っているということだろう。


「えっ、ケリクラは知っていたのか」


レナは苦い顔でうなずいた。


「私の不注意でな。それにあいつは私を目の敵にしている」


「だから僕にレナには関わらない方がいいって言ったのか。ケリクラにバラされる可能性はないのか?」


ユウが聞くとレナは数秒の間の後うなずいた。


「その可能性はほとんどない。私もあいつの秘密を知っているからな」


「秘密…」


「ユウにも話すわけにもいかないがな。それはそうと多分ユウに迷惑をかけることになるだろう。同じクラスであるぶんルートはお前にあたってくるかもしれん」


レナは申し訳なさそうにそう言ったのだがユウは逆に笑って答える。


「そんなことは僕にはなんてこともないよ。そういうのには慣れているんだ」


「慣れている?何故…」


「あらあら。随分と楽しそうにしているじゃない」


レナもユウも突然背後から肩に手を置かれ、声が出ないほど驚く。なんと、気づかない間に二人の後ろにサラが立っていた。


「いつの間に…」


「邪魔しちゃ悪いと思って、そっとね。それよりも私に何の用かしら。会議は週末と言ったんだけど」


サラは探るようにユウとレナを交互に見る。


「いろいろ聞きたいことがあってな。サラ先生、まずは座ってくれ」


レナはサラに向かいの席に座るように促す。サラはそれに素直に従う。


「まずは今日の魔法科潜入について私たちに詳しく説明して欲しい。その責任がサラ先生にはあるはずだ」


レナの言葉にサラは困ったわ、というようなポーズをとる。それはわざとらしいしぐさであった。


「説明責任なんて言われたら説明しないわけにもいかなくなるじゃない。レナちゃんって意外とあざといのね」


「黙って説明しろ!」


レナは鋭い眼でサラをにらむ。今日はいろいろあったせいか怒りが限界に到達してしまったようで、レナの怒りにあてられ隣のユウも寒気を覚えるほどである。


「わかったわ。話すからそんな目でにらまないで。魔王育成科は人員不足なのよ。だからああいう方法しかなかったのよ」


「人員不足だと!」


「そう。もちろん、それだけじゃなくて私にもいろいろと考えがあってね。全学科をめぐってもらう予定なんだけど順番が大事だから…」


「ちょっと待て」


「待ってください」


レナとユウが同時に遮る。ユウとレナは視線を交わした後、代表してユウが話す。


「全学科をめぐるって言いましたよね。それって、皆に僕たちはいろいろな学科を受けていることがバレますよね」


「ええ。それは仕方のないことよ。背に腹は代えられないわ。だから魔王科の本格的活動は来年あたりになるかしら。ああ、嫌がらせのことが心配なのね。でも大丈夫。私がうまく手を回しとくから」


サラはいつもと何も変わらぬ表情でそう言った。

ユウはしばらく黙っていたかと思うと急に立ち上がった。


「ユウ?」


「もう行こう。先生、ありがとうございました。」


ユウはレナの手をつかむと引っ張るようにしてレナを部屋の外へ連れ出す。


「どうしたんだ、いきなり。まだ要は済んでいないぞ」


ユウはそれを無視して歩き続ける。


「おい、ユウ!」


レナはユウの手を振りほどき、ユウの前に回り込んでユウの足を止めさせる。


「私の話を聞け。黙っていても何もわからん。お前らしくないぞ」


「…サラ先生は僕らには何も話してはくれないよ。何かを隠しているかはわからないけど、僕たちが知らない方がいいことだと思う。だから…」


「もういい。それぐらい私だってわかっている。サラ先生は信用できるかは別として、信頼できる教師だからな。わかった。もうサラ先生には何も聞くまい」


「うん、それがいいと思う。ごめん、レナ。用事があるから先に行くよ」


ユウはそう言って走り出した。

ユウは走りながら頭を悩ませる。何故僕は逃げてしまったのだろう。ユウは考えても何の答えも出てこなかった。


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