第一章 その2
ユウは昼食を終えると校舎から一キロほど離れた場所にある男子寮へと向かった。
学園内には十の寮があり、男女それぞれ五つずつ、学園内のいろいろな場所に点在している。
ユウが暮らす予定の寮は校舎から一番近いところにある。
ユウは管理室で鍵を受け取り自分の部屋へ向かう。ユウの部屋は二階の奥にある、数少ない一人部屋である。ユウがその部屋を取るためどれだけ努力をしたか。
ユウは荷物を置くとすぐにベッドに倒れこむ。
「まずは一日目が終わったー」
ユウは窓の外に目を向けると何人かの生徒が学園街の方へ向かって行くのが見えた。どうやら今日の残された時間を街で過ごそうという考えらしい。
ユウも学園街に興味が無いわけではないのだが、沢山の人がいる場所に一人で行く気にはなれない。とはいっても、誰かに誘われたとして行くかどうかは別だ。
「さて、残りの時間は何をして過ごそうか」
制服を着替えてしまおうか、いや夕食の時には外出しなければならないのだから制服のままでいるほうがいいか…。
ユウがそんなことを考えていると突然ドアが開かれた。入ってきたのはユウと同じ一年の少年だった。
「失礼します。あなたがユウさんですね。私はソルーユ=ミ=フェレといいます。よろしければ、私が学園内を案内します」
いきなりの乱入者にユウが驚き固まっているとフェレは自己紹介をした。
「
案内って、君も一年だよね」
ユウは立ち直るなりそんな突っ込みを入れた。
「大丈夫です。私は生徒会副会長ですから。ちゃんと学園の地図を覚えています」
「生徒会!一年生なのに!」
「めずらしくはありませんよ。試験合格後に立候補できますから。さあ、行きましょうか」
どうやら答えないうちにユウは学園内を案内されることが決まってしまったらしい。
「ん、でもどうして生徒会の君が僕の案内を?」
「正確にいえばユウさんの案内ではなく、この寮の一年生の案内係りなのですが、あいにく他の方は皆お出かけのようで。今回はユウさんお一人ということになりました。後は歩きながらにしましょう」
フェレはそう言うとドアを大きく開ける。
「そうだね」
断れる雰囲気ではなかったのでユウは諦め、フェレと一緒に部屋を出る。
フェレは寮から出ると言う。
「さっそくですがどこか行きたいところはありませんか」
フェレがそう聞いてきたがぱっとは思いつかない。
「えっと…」
「別に無理に出す必要はないですよ。まずは学園街へ行きましょう」
フェレはすぐに切り替えると街の方へ足を向ける。
「えっと、今さらだけど、どうして僕の名前を知っていたんだ?」
「会長命令で新一年生の名前を全員覚えさせられました」
表情を一切変えずフェレは簡潔に答えた。
「凄い会長だね」
ユウは苦笑いで応じた。
「ええ。私もそう思います」
フェレはわずかに頬を緩めて言った。
学園街に到着してみると結構な人数の生徒が男女学年問わず行き交っていた。ユウはその様子に気が重くなる。
「人混みが苦手だったんでしたね。人が少ない場所から案内しましょう」
「あ、うん」
ユウは普通にうなずいた後に気づき、 ユウは歩きだしたフェレを呼び止める。
「ちょっと待って!どうしてそのことを知っているんだ?」
フェレはゆっくりと振り返り、ユウを見る。その表情からは何を考えているのかまったく読めない。
「情報収集が私の仕事ですから」
フェレはそれだけ言うと再び歩きだした。
ユウはその答えに納得したわけではなかったが、聞いてほしくないことなのさと察し、黙ってフェレの後を追いかけた。
「ここは?」
フェレは中心街から離れた場所にある純白の建物の中へとユウを連れてきた。
「ここは人に魔法を授けたとされる神を祀った神殿です。学園にはこのような神殿が五つあります。それぞれの学科に関係しているらしいですね」
やはり魔王育成科に関係した物はないらしい。
「次の場所に案内しましょう」
「次って、他の神殿?」
「神殿巡りをしたいのなら後日に一人でやってください」
辛辣な物言いである。
「そうではなく、日常生活で使う場所です」
どうやら神殿は日常的に使う場所ではないらしい。毎日礼拝する習慣がないことがわかりユウは安心する。
「日常的に使うとかいうと雑貨屋とか?」
「そうですね。これからは人通りの多い場所にあるので覚悟してくださいね」
フェレはとユウは神殿を出て中心街へと戻った。
それからユウはフェレに連れられ、街の中を歩き回った。大きな図書館や博物館などもあって本当にここは学園内なのかと思うことも多々あった。何より辛かったのはフェレの長い説明で、必要のないことまで語られるのだった。
「どうしてそんなに学園の施設のことを知っているんだ」
ユウが思ったことを聞いてみるとフェレはかすかに笑った。
「入学する前に調べたんです。徹底的にね。事実は見抜けませんから」
どこか含みを持った言い方だった。
「それより、もう六時になりますね」
フェレは時計に目を向け、言った。
「六時になにかあるのか」
「何ですか。ユウさんは手紙を読んでいないのですか。見えやすいところに置いてあったはずなのですが…」
「手紙…。ごめん、気づかなかったよ」
フェレはやれやれと肩をすくめた。
「とにかくホールへ行きましょうか。何があるかは行けばわかります」
フェレはユウの手をつかむと歩きだした。
フェレが言っていたホールというのは学園街の広場の横にある巨大な建物のことだった。
その建物の前には一年の青色の制服以外にも赤と黄色も混ざっていた。
「先輩!」
フェレは入口に立っていた二年生の少年にそう声をかけた。
「ん、ああ。フェレか。俺の代わりにご苦労だったな」
「いえ、寮には彼しかいなかったのでとても楽でした」
フェレの言葉で二年生の少年はユウを見る。
「俺は生徒会庶務のエンタット=ラウルーニャだ。ラルと呼んでくれ。一応君の寮の寮長だ。本当は俺が案内しなきゃいけなかったんだが、この通り忙しくてな。フェレに代わっても…」
ラルがカッコよく自己紹介をしているところで扉が開きラルの背中に直撃した。
ラルは打ち所が悪かったようで扉から少し離れたところでもだえ苦しむ。
「おい、ラル。そろそろ中に入れていいぜ」
そう言い扉から顔をのぞかせたのは赤髪の三年の少女だった。
「フェレか。時間通りじゃねーか」
三年の少女はフェレに気づき、声をかける。
「ちょっと待ってくれフィーネ先輩。俺に謝るとかしてくれないのか」
「謝る?何をだ?」
フィーネと呼ばれた彼女は意味がわからんという顔で言った。
「俺に扉をぶつけたことだよ!」
「わずかに抵抗があったと思ったがお前だったか」
フィーネは納得した顔でうなずく。
「お前だったか、じゃねーよ!」
二人のやり取りにその場にいた生徒たちが注目し始める。
「やれやれですね。ユウさんは少し離れていてください」
フェレはそう言うと二人の間に入った。
「お二人ともいいかげんにしてください。見苦しいけんかなど誰も見たくありませんよ。会長に怒ってもらいたいのですか」
会長という言葉が効いたのか、フィーネは謝り、ラルは生徒たちを誘導し始めた。
「フィーネ先輩。準備は先輩たちだけで大丈夫でしたか」
「ああ。問題ねー。教師も手伝ってくれたからな」
「それは良かったです。フィーネ先輩、すみませんが彼のことを頼みます。ここで何をするか知らないらしいので教えてあげてください」
フェレは建物の中に消えた。ユウが声をかける暇もなかった。
「あたしはパロモット=N=フィーネだ。生徒会で会計をやっている」
「えっと、僕はアオノメ=ユウです」
ユウは緊張した面持ちでフィーネと握手を交わす。
「これから何をするかといえば寮生を歓迎する会といったところだな。まあ、入ってみればわかる」
フィーネはユウの背中を押し、建物に入るよう促した。
建物の中には巨大な空間が広がっており沢山の生徒の姿があった。
ユウはそれには目眩がしそうだった。
「二、三百人はいるな。多い年は五百を超えることもあるそうだ」
「五百人!」
「まあ、その時は寮ごとに、てことになるがな。アオノメくん、私も仕事があるから失礼するぜ。楽しんでいってくれ」
フィーネは人混みのなかを通ってステージの方へと向かっていった。
ユウはこんなところに一人でいるのは辛いのだが、さすがに帰るわけにもいかないので我慢して始まるのを待つことにした。
待つこと五分ちょい、ステージをライトが照らす。
「寮生の皆さんこんばんは。お疲れのところお集まりいただき、誠にありがとうございます」
そうあいさつし、一礼をしたのはステージ中央に立つフェレだ。
「手紙を読まれたとは思いますが今一度ここに集まっていただいた理由を説明させていただきたいと思います。寮の使い方を聞いていただくため。そしてもう一つ。先輩後輩にかかわらず親睦を深めてもらうためです。まずは寮の使い方について会計のフィーネさんに説明していただきます」
フェレはフィーネにマイクを手渡す。
「寮の利用については私から説明させてもらうぜ。それぞれ鍵をもらっただろう。その鍵を無くすことは断じて許さん。無くした場合は自腹で鍵を付け替えてもらう。無くしそうな奴は各寮の管理室に預けるといい。詳しくは管理人に聞け」
フィーネは一度言葉を切り、ホール内を見渡す。フィーネの眼力に敵う物はいないのか誰も何も言わず、ホール内は静かである。
「次は調度品についてだが、ぶっちゃけ、ぶっ壊してくれても構わん。寮に入った時点でお前らの物だ。自由に使うがいい。だがそれらについては学園も生徒会も責任は持たん。買い換えるのもすべて貴様らだ」
「説明が少し過激すぎるよね。みんな怖がっているよ」
ユウは突然の背後からの声に驚き振り返った。そこには苦笑いを浮かべたシアンがいた。
ユウは知っている人に会えて安堵する。
「こんばんは、ユウくん。また会ったね」
「こんばんは。シアンも寮生だったんだね」
「うん。往復するだけで半日かかっちゃうから。ユウくん、ちゃんと前を見てフィーネさんの話を聞かなきゃダメだよ」
シアンはそう言い前を指す。
ユウは理不尽だな、と思いながらもステージの方を見る。
「…最後に門限について説明する。門限は夜の十一時だ。それ以上外にいたい場合は寮の管理室に許可書を提出すること。急な用事で門限に間に合わない場合は寮に十一時前に連絡を入れろ。もしこれらを守らなかった場合は朝まで寮には入れないからな。なお、夜十一時から朝の六時以降の外出も特別な理由がない限り禁止だ。どうしても外出する場合は許可をもらえ。詳しいことは他の諸注意とともに部屋に備え付けてある注意書に載っているから見ておけ!以上だ」
フィーネはマイクをフェレに返すと颯爽とステージから降りていった。
「フィーネさん、ありがとうございました。それでは早速寮生親睦会へと移りたいと思います。始めのあいさつは庶務のラウルーニャさんにしてもらいます」
フェレはゆっくりとやってきたラルにマイクを渡す。
「シアン、生徒会長は出てこないのかな」
シアンは突然のユウの言葉に戸惑う。
「どうしたの、急に?」
「こういうのって生徒会長がやるんじゃないのかなと思って。入学式の時も出てこなかったし」
シアンはやれやれと肩をすくめた。
「この後に出るんじゃないかな。ちゃんと今日は登校してるみたいだし」
ユウとシアンが話している間にラルのあいさつが終わったようだった。
「それでは皆さん、グラスをお取りください」
フェレの声がそう告げた。
「グラス?」
「ユウくん、はいこれ」
ユウがグラスを探しているといつの間にかシアンがグラスを二つ持っており、片方をユウにくれた。
「ありがとう」
「それでは皆さん今日の出会いに乾杯!」
フェレのかけ声で何百ものグラスが高く掲げられる。
「ユウくん、他の友達に呼ばれてるから行くね」
「ああ。また今度」
「うん、またね」
シアンはグラスを持ったままユウから離れ、生徒たちの中に消えた。
ユウはお腹が減ってきたので料理が置かれた机に向かう。しかし、途中で一人の生徒に袖をつかまれ、止められる。
「少しいいかしら」
「いったい…」
ユウはその一年の制服を着たその人が最初は誰かわからなかったがすぐに気づく。
「サラせ…」
一年の制服を着ているサラはユウ唇に人差し指を当てる。
「シッ。これでも変装中なの。それよりレナちゃんを見なかったかしら。参加しているはずなんだけど」
「見ていませんけど。何かあったんですか」
「別にそういうわけではないのよ。少し彼女に話があってね」
「それなら僕も探すのを手伝いましょうか」
ユウがそう申し出るとサラはにこりと笑う。
「あら、それは助かるわ。私は入口のところを探すからアオノメくんは奥の方を頼んだわ」
「僕が申し出たからって楽をしようとしないでください」
ユウがそう言うとサラはふふとほほ笑む。
「勘違いしないでほしいわね。あの子はこういうのが苦手だから外に出たがるかもしれないでしょ。誰かが見張っていないと」
確かにそれはあるかもしれないが…。
「それじゃあお願いね」
ユウが何かを言う前にサラは生徒たちの中に紛れて消えた。
「はぁ、しょうがないな」
ユウは食べるのを一時諦め、まずはレナを探すことにした。
とはいってもこんな広い場所でそれなりの数の人が似たような格好でいるのだ。レナを見つけだすのは至難のわざだろう。
ユウは名前を呼びながら探すわけにはいかない、というより恥ずかしいので顔を確認しながら歩く。
「どうした?目をキョロキョロさせてよ」
ユウにそう声をかけたのはラルだった。
「ちょっと人を探していて…」
「人探しか。どんな奴だ?」
「僕と同じ一年生で藍色の髪の女の子なんですけど」
ラルはわかんないなと首を傾げる。
「その人の名前はなんて言うのですか」
そう聞いてきたのはラルではなく、いつの間にかいたフェレだった。
「レナ、オオラギ=レナだよ」
「レナさんなら見ましたよ。ステージの近くの柱のところにいましたよ」
「ありがとう」
「いえ、礼を言われる程のことではありません。先輩、会長が呼んでいるので行きますよ」
「お、おう」
フェレがラルを連れて行くのを最後まで見届けず、ユウはフェレが教えてくれた場所へ向かう。
フェレが教えてくれた通りレナは柱の陰に隠れるようにして立っていた。近づきがたい雰囲気を放っていたがユウはそれに構わずレナに近づき声をかける。
「レナ」
「ん、ユウか。どうした、息を切らして。まさか私を探していたのか」
「あ、うん。用があるのは僕じゃなくてサラ先生だけどね」
「そうか。わざわざすまなかったな。ユウ、サラ先生がどこにいるか教えてくれれば一人で行くが…」
「いや、僕も一緒に行くよ。サラ先生に聞きたいこともあるし」
「そうか」
レナは頷くとユウと並んで歩き始める。
二人はしばらく黙って歩いた。ユウは何かを話さなければと思うのだが、いったい何を話していいかわからなかった。それはどうやらレナの方も同じようだった。
「なあ、ユウ」
しばらくしてレナが恐る恐る口を開く。
「ユウは誰かと一緒にいて楽しいと思ったことがあるか」
「え、えっと…」
いきなりそんなことを聞かれユウは戸惑いながら答える。
「もちろん、あるよ。レナはないの?」
「もちろん私だってある。だが最近は楽しいなどと思えない」
「レナはもしかして、人と接するのが苦手?」
「なっ…。そんなわけ…!」
レナは否定するが顔が図星だと言っていた。
「僕と一緒だね。僕も人と話すのが苦手でさ」
「だから、違うと言っているだろ!」
ユウはレナが言うことを受け流す。
「まあ、レナ程僕はひねくれてはいないけどさ」
「私はひねくれてなどいない!!」
レナがあまりにも大声で叫ぶものだから周りの視線がレナとユウに集中する。
それに気づいたレナはかああっと顔が赤くなる。
「ユウ!さっさと行くぞ!」
レナは視線から逃げるように足を速めた。同意見だったユウも慌ててレナを追いかけた。
「あいつはどこにいる。制服を着た奴らしかいないが」
入口のところに着いたところでレナは聞いてきた。
「たぶん先生の方から声をかけてくれると思う」
「あら、私を呼んだかしら」
ユウが言ったそばから制服姿のサラが二人の前に姿を現した。
「どうして制服など着ている?」
レナの質問にサラはてへ、と笑う。
「ここって今は大人の立ち入りは禁止だからね。ひとまずここを出ましょう」
サラはそう言い、二人を外へと連れ出す。
サラはホールからだいぶ離れたところで振り返った。
「さて、アオノメくん、レナちゃんを連れきてくれてありがとう。もう行っていいわよ。それとも一緒に話を聞く?」
サラはいたずらっぽく笑った。
「話しっていうのはなんなんだ」
「もちろん、あなたの秘密についての話よ。レナちゃん♪」
サラは虚をつかれたような顔をする。
「まさか、約束を破るつもりか!」
サラはレナに睨まれても表情を変えない。
「そんなつもりはないわよ。でも、知ってもらったほうがいいんじゃないかしら。これから一緒に学んで
いくんだから。秘密にしていたら良い関係を築けないわよ」
「だからといって…!」
「またあなたは自分の過去から逃げるの?その所為であなたの友達がどうなったか忘れたのかしら」
「くっ…」
レナは顔を歪めてうめく。
「サラ先生、そこまでにしてください」
ユウはサラとレナの間に立ち、言った。
「ユウ…」
「あら、アオノメくんは知りたいと思わないのかしら?」
「気にはなるよ。でも無理に聞きたいとは思わない。秘密を抱えていたって良い関係は築けます。先生に
も秘密はありますよね」
ユウがそう切り返すとサラは声をあげて笑う。
「うふふふふ。曲がりなりにも勇者志願てわけね」
「勇者志願?」
レナいぶかしげな顔でサラを見る。
「あら、言い間違いをしたわね。魔王志願よ。レナちゃん、今回はアオノメくんに免じて許してあげるわね」
サラはそう言い、二人に背を向け歩き出す。
「待て!話というのは…」
「今のがすべてよ」
サラは振り返ることもせず、そのまま歩いていってしまった。
「すまなかったな、ユウ。私の所為で迷惑をかけたな」
サラの姿が見えなくなるとレナは言った。
「そんな、別にレナが悪いわけじゃ…」
「いや、私が悪いのだ。自分の秘密を守ることに固執しお前のことを考えていなかった。私が言うべきことをお前に言わせてしまった」
レナはうつむき言った。
「そんなに気にする必要はないよ」
ユウがそう言うとレナはフッと笑った。
「お前は優しいな、ユウ。すまないが少しだけ、お前の時間を私にくれないか。お前に見せたい場所があるんだ」
レナは顔を上げると何かを決意した様子でユウの目を見た。
「…わかった」
「ありがとう」
レナは一言礼を言うとすぐに歩き始める。ユウは黙ってそれについて行く。
皆、ホールにいるせいか人通りはほとんどなかった。
ユウがレナに連れられてやってきたのは大きな無紋の石碑が置かれた石造りの小屋だった。
「ここは『石碑の間』と呼ばれている第六の神殿だ」
こんなお粗末なのが神殿だというのだろうか。それに第六というのは…。
「まさか僕たち魔王育成科に関係した神殿?」
「察しがいいな。石碑に何の文字も書かれていないのは、これが十年前勇者たちによって倒された魔王の墓だからだ」
ユウは驚きを隠すことができなかった。学園内に魔王の墓があると誰が思うだろうか。
「ユウ、私はこの墓が作られた時、私はこの場にいて完成するのを見ていた。父を殺した男と共にな」
「父を殺した男!?」
レナはゆっくりと頷いた。
「ああ、私は魔王ルシファスの娘なんだ」
そう告げたレナの瞳には涙が浮かんでいた。
ユウは衝撃的な告白を聞いた後、ホールには戻らずそのまま帰路についた。レナとは神殿の前ですぐに別れた。用事があると言ってはいたがたぶん一人になりたかったのだろう。
寮の自室の前にやってきたユウは首をかしげる。出て行く時に閉めたはずの鍵が開いているのだ。
ユウは不審に思いながらもドアを勢いよく開けるとなんと部屋の中でフェレが優雅に紅茶を飲んでいた。
「…勝手に人の部屋で何をしているんだ!」
「あなたを待っていたんです。それにしても随分遅かったですね。待ちに待ってティータイムを始めてし
まいました。後これは差し入れです。すっかり冷めてしまいましたが」
フェレは机の上の料理を指した。
ユウはそれを見て、夕食を食べ損ねていたことを思い出す。
「ありがとう」
「いえ、ついでですから気になさらずに。それよりも食べながらでもいいので聞いてもらいたいことがあるのですが…」
「あ、うん」
ユウはお言葉に甘え、早速机の上の料理を食べ始める。
「こうしてあなたの部屋で待っていたのは、あなたがホールから出て行くのを見かけたからです。用事があったのなら仕方ありませんが、出て行く時は生徒会に声をかけてからにしてください。一応主催者は私たち生徒会ですから」
「以後気をつけます」
「それと、あなたと一緒にいたのは誰ですか。一人はレナさんだろうとは思いますが」
ユウはそう聞かれ回答に窮する。
「言いたくないのなら結構です。会長にそう報告させていただきます」
ユウはそう言いきられてしまっては何も言えなかった。
「ここからは個人的な話なのですが、ユウさんは会長に会いましたか?」
「いや。会うどころか見たことすらないよ」
シアンは親睦会に出るのではないかと言っていたが残念ながらユウは途中で抜け出したため見ていない。
「そうですか。会長はあなたのことを話していたのですが。ユウさんが知らないで出会っていたのかもしれません」
「えっと、生徒会長って誰なんだ」
「残念ながら教えるわけにはいきませんね。会長が隠しているようならなおさらです」
フェレはティーカップを置くと立ち上がった。
「そろそろ親睦会が終わる頃ですし、私は戻ります。では、また明日会いましょう」
フェレは一礼すると部屋から出ていった。
「生徒会長か。いったいどんな人何だろう」
ユウはフェレが出ていったドアを見つめ呟いた。