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第一章 その1 

それから約一ヶ月がたち、サンライズ学園の入学式の日がやってきた。その日にはクラスの発表があった。

一年生のクラスは全部で十クラスあり、いろいろな学科の生徒が混同しているようだった。


「Ⅲ組か」


ユウは案内図を頼りに一年Ⅲ組を目指す。


「おい、そこのお前!」


ユウは乱暴なその口調に反射的に振り返った。そこには同じ一年の青色の制服を着た藍色の髪の女の子がいた。ユウをじっと見つめる眼差しは鋭く、ユウは謝らなければと反射的に思ってしまう。


「お前は何組だ?」


予想外の言葉にユウはなんだ、という顔をする。


「何組だ?」


彼女はユウの表情を見て繰り返した。


「Ⅲ組だけど…」


ユウが恐る恐るそう答えると彼女は舌打ちをする。


「サラの奴め…。時間を取らせたな」


彼女は用が済んだのか、ユウの横を通って行ってしまう。


んっ、今サラって言ったよな。


ユウがその事実に気づいた時には彼女はⅠ組の教室に入ってしまっていった。


「あいつには関わんねぇー方がいいぜ」


ユウの肩にそう言って手を置いたのは魔法科のバッチを付けた少年だった。


「君ってⅢ組か」


「そうだけど…」


「なら一緒のクラスだな。俺はケリクラ=ルートだ。よろしく」


ルートはユウの肩から手を離すとそのまま行ってしまった。


「ケリクラくんか」


ユウは後ろ髪を引っ張られる思いを断ち切り、ルートの後を追って教室へと向かった。

ユウが教室に行くと、もう結構な人がおり、いろいろな人がいた。各地から人がやってくるだけはある。

ユウは指定された席にを見つけ座る。一番前の席だった。


「みんな、そろっているかなー!」


ハイテンションで入ってきたのはピンク色の髪の女性だった。

「あなたたちの担任を務めることになったシロナガ=シオンです。格闘技の講師もやっているからみんな、よろしくね!」


ワンテンポ遅れて拍手の音が聞こえ始めた。みなが戸惑いを隠せない様子でシロナガを見ていた。大丈夫か、この教師という声が聞こえてきそうだった。


「それじゃあ事務連絡をするね」


シロナガは変わらぬテンションでそのまま続けるのだった。



入学式を無事に終えた放課後、教室を出たところでサラが待ち構えていた。


「まずは入学おめでとう、てところかしら、アオノメくん」


白衣姿のサラはニコリと笑った。


「僕にいったい何の用ですか」


ユウがぶっきらぼうに聞く。ユウは魔王科に入れられたことを納得してはいなかった。


「あら、素っ気ないのね。もちろん話があって来たのよ。ついてきなさい」


最初に会ったときと同じようにサラは背を向け歩き出した。仕方なくユウは其の後に続く。そして対談室へとやってきた。


ドアを開けて中に入ると驚いたことにすでに先客がいた。


「あっ…」


見たことのある顔にユウは思わず声をあげる。


「アオノメくん、彼女が君の唯一のお仲間さんのオオラギ=レナちゃんよ」


レナは漆黒の瞳をユウに向け会釈した。その少女は今朝会った彼女に間違いなかった。


「唯一ってことは、魔王育成科って、僕とオオラギさんしかいないんですか!」


「そうね。アオノメくんの言う通りよ」


「ちょっと待て」


レナは鋭い眼光を宿した瞳をユウに向ける。ユウはそれを今度は目をそらさず受け止めた。


「アオノメとかいったな。私の名前を呼ぶならレナと呼べ。上の名で呼ばれるのは嫌いだ」


やけにトゲトゲしい口調だった。どうやら本当に嫌いのようだ。


「…それならさ。僕のことはユウと呼んでよ」


ユウは目をそらさずにそう言い返した。するとレナはふっ、と表情を緩めた。どうやらユウの対応が良かったらしい。


「わかった。これからよろしく頼むぞ、ユウ」


「うん、よろしく、レナ」


ユウはレナが差し出してきた手を握り握手をする。


「さて、アオノメくんも座って。紹介も終わったし会議を始めましょう」


サラはパンパンと手を叩き、そう言った。


「「会議?」」


レナも会議をやるなどとは聞いていなかったらしく、ユウと同じように声をあげる。


「大丈夫よ。今回は私が一方的に話すだけだから」


「今回は、てことは、何回もやるってことですか」


ユウの質問にサラは指をパチンと鳴らす。


「その通りよ。週に一度、週の始まり、つまりは黄色の曜の昼、または放課後に会議を開く予定よ」


何と面倒なことを。ユウはそう思いながら手を挙げる。


「会議の前に学食で何か食べてきてもいいですか」


「だな。私も食べていない」


ユウの提案にレナも同意する。


「それは会議の後にしなさい。五分で済むわ」


サラは二人の提案を考えるそぶりすら見せず却下し、話を進める。


「あなたたちには二つのことを絶対に守ってほしいのよ。一つは魔王科の存在を他言しないこと。もちろん、教師にもよ。あなたたちに配ったバッチも、求められない限り見せないでね」


「何科か聞かれたときはどうすればいいんですか」


サラはユウの質問にうなずく。


「いい質問ね。そのときは特務科だと答えなさい」

「特務科?」


ユウの疑問にはレナが答えてくれた。


「入学時に何科か決めずに入学し、五つの学科を自由に受け、二年になるまでに入る学科を決める。そういう制度がある」


「そう、これで一年は通せる。二つ目は私の命令に必ず従うこと」


「命令に従えだと?」


レナは不満をあらわにする。そうだそうだとユウはうなずく。


「安心して。パシらせたりとか何かをおごらせたりとか、職権乱用するようなことしないから」


サラは笑顔で言ったのだか、それはユウを不安にさせる笑顔だった。


「これにて会議は終了。授業の時もここに来てね」


サラはそう言って誰よりも先に部屋から出て行った。


「勝手なやつだな」


レナはため息混じりにそう言い、立ち上がる。

「えっとレナ、よかったら一緒にお昼でも…」


ユウは勇気を出して誘ってみたのだが、


「いや、すまない。実は外せない用事があるのだ。だから先に失礼する」


レナは断るなり部屋から出ていったのだった。


ユウは精神的にダメージを受け落ち込む。断られるかと思っていたが女の子に誘いを断られるのは辛いものがあった。しかしながら、ずっと椅子に座っているわけにもいかないので素直に一人で学食に向かうことした。


学食には生徒の姿がなくガラリとしていた。いや、一人だけ生徒の姿があった。

青い制服ということは同じ一年生だろう。


「…」



彼女は一番奥の席に座っていて近寄りがたい雰囲気を発していたし、なにより元来、人と話すのが苦手なユウは彼女とは離れた席に座った。


「向かいの席、いいかな」


ユウが一人寂しくうどんをすすっていたところにそう声をかける者がいた。


「かまわないけど」


「ありがとう」


ユウがそう答えると目の前に青い制服の子が座る。さっきの生徒だろうかと思い、視線を向ける

るが、あの眼鏡をかけた生徒はまだそこにいる。


「君は街に行って食べないの?」


声をかけてきた彼女はそう聞いてサンドイッチをおいしそうに頬張る。彼女の目の前にはサンドイッチが山のように積み上げられている。


ユウは彼女に聞かれ、学食が無人だった理由がわかった。みんな街に行っていたのだ。


「そういえば今日はもう授業がないからそういう選択肢もあったのか」


「そうだよ。学園街だと学食より安くておいしい店が沢山あるからね。学食は近いってくらいしか利点はないからみんな街に行っちゃうんだよね」


彼女は苦笑いを浮かべそう言った。


「えっと、なら君はどうしてここで?」


「することがあって街に行って食べている時間がないんだ。あっ、そういえば名乗ってなかったね。私はシアン。一年Ⅱ組だよ。きみは?」


「僕はユウ。一年Ⅲ組だ」


「ユウくんか。いい名前だね。それはそうとユウくん、もしかして人と話すのが苦手?」


シアンは食事を中断し、ユウの目をのぞきこむ。


「それとも女の子が苦手?」


ユウはどちらも図星だったので言い返せなかった。


「やっぱりね。さっきから私と目を合わせないようにしてるもん」


ユウは言われてばかりも嫌だったので、シアンが食事を再開し、意識がユウに向いていない間にシアンの顔を盗み見る。


こうして見てみるとシアンは綺麗な顔立ちをしていた。大きな目とエメラルドグリーンの瞳は見ているだけで吸い込まれそうだし、紫がかった黒髪も彼女の可憐さに色をそえている。


「どうしたの?箸が止まってるよ」


ユウはそう言われ、自分がシアンに見惚れていたことに気づく。


「な、何でもないよ!」


ユウは慌ててそう言い、食事を再開する。恥ずかしくて頬が熱い。


「そういえば、ユウくんって何科?私は普通科何だけど…」


ユウの様子にシアンは気づいていないのかそんなことを聞く。


「ま、いや、特務科だよ」


半ば冷静ではなかったこともあり、ユウは危うく正直に答えてしまうところだった。


「特務科!」


シアンはいきなり目を輝かせて真っ直ぐユウを見る。いきなりの豹変にユウは驚く。


「凄いよ!特務科なんて。なんか憧れちゃうなー!。試験がとても難しいって聞いたよ!」


ユウはシアンの思いもよらない反応に戸惑う。ユウの様子に気づいたのかシアンは誤魔化すように笑った。


「ごめんね。一人で興奮しちゃって。知り合いに特務科に合格した人がいるから」


「知り合い?」


特務科と聞いてユウの頭に一人の顔が浮かぶ。


「うん。同じ学校出身の子でね。ユウくんに紹介してあげたいけど、彼女とは今疎遠になってるんだよね」


シアンは寂しそうに笑った。


「それはそうと、自分が特務科だってことはあまり人に話さない方がいいと思うよ。嫉妬して嫌がらせをしてくる人もいると思うから」


「そ、そこまで…。それじゃあ、聞かれた時はどうしたらいいんだよ」


ユウは思わず思っていたことを口に出してしまっていた。


「そこは心配ないと思うよ。バッチをつけてない人に聞いてくる人はほとんどいないから」


「聞いてくる人はいないって、でもシアンは聞いてきたよね」


ユウの指摘にシアンは頬をわずかに赤らめる。


「ユウくんのことをもっと知りたかったから」


シアンは最後の一口を口に放り込むと席を立った。


「私、そろそろ行くね。またね、ユウくん」


「あ、うん」


シアンのあまりの素早さに、ユウは頷くのが限度だった。


再び孤独ひとりとなったユウはすっかり冷め、伸びてしまったうどんをたいらげるのだった。


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