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プロローグ

「残念ですが、あなたの入学を認めることはできませんね」


女性面接官は緊張した様子のユウに淡々とそう告げた。


「い、今なんて…」


受け入れられない現実にユウは震える声で聞き返す。

不合格です」


女性面接官は笑顔で今度ははっきりとそう言った。


「な、なぜ……?」


精神的に打ちのめされたユウだったが残った精神力を総動員してそう聞いた。


「あなたみたいなのが勇者になれるわけがありません。どうせなら魔王でも目指したらどうですか」


その言葉は残った精神力もろともユウの心を粉々に打ち砕いた。


「そ、そうですか。ありがとうございました」


退出許可も出ていないというのにユウは立ち上がると一礼し、部屋から出ていった。

ユウは今朝、嬉々としてサンライズ学園へとやってきた。もちろん勇者育成科の二次試験を受けるためだ。一次試験である、筆記と実技はどうにかパスする事ができた。そこでユウは安心していた。なにせ面接で落ちることはないと聞いていたからだ。 実際、落ちたという記録は皆無だった。


「僕が初めての落第者ってことか…」


そう呟いたユウの表情は暗く、瞳の輝きは失われていた。。


「アオノメくん」


「どうすればいいんだ…」


「アオノメ=ユウ!」


ユウはいきなり肩をつかまれ、自分が呼ばれていたことにやっと気づく。

ユウが振り返ったところにいたのは教員用の制服を着た小柄な女性だった。


「えっと、何の用でしょうか」


生気の無い声でユウは返事をする。

「少しだけ顔をかしてくれないかしら。大事な話があるのよ」


「わかりました」


ユウはそう一つ返事で頷いた。ここで付いていかない選択もできたユウだったが彼は自暴自棄となっていたのでおとなしく付いていく。面接で落ちた僕に何の用だろうか。ユウはそんなことを思うことぐらいしかしなかった。

彼女について行くと対談室なる部屋に到着した。そこはソファーと机があるだけの簡素な部屋だった。


「さあ、座って」


 彼女は手前のソファーに座り、向かい側のソファーをユウに勧める。


「あ、はい」


 ユウは勧められるままに椅子に座る。


「その様子だと面接、落ちたみたいね。その場で落とされるなんてことがあるんだね。驚き驚き」


ユウは受けたばかりの傷をえぐられ、押さえていた涙が流れ始める。


「よしよし、辛かったね。悔しかったよね」


サラはユウの隣に腰をかけると優しく頭をなでる。


「…ありがとうございます」


ユウはどうにか涙を抑え込み、頭を下げた。


「いいのよ。ときには泣いたっていいのよ。アオノメくんの気持はわかるから。そこでそんな君にピッタリの話があるんだ。君の願いを叶える方法があるんだよ」


「それってどういう…」


「それは転科制度というものよ」


それを聞いてもユウはピンとこなかった。その制度があることはユウだって知っている。確か授業について来られなかったものが普通科に異動することができるというものだったはずだ。


「信じられないという顔ね。まずはこれを見てみなさい」


彼女はそう言って一枚の紙を机に置く。それには転科制度に関する一文が書かれていた。


「これは…」


「授業内容が生徒の実力に見合わないと認められた場合、ほかの学科に移ることを許可する。それが正式文よ。どこにも普通科にとは書いてない」


「つまりはぼくにどこかの学科に入れと?」


彼女はユウの問いに笑顔で応じる。


「その通り。一次試験合格者は二次で落ちないというからくりよ。あなたのような優秀な人をほおっておくことなんかできないわ。入る学科はこちらで適正な学科を用意するから」


彼女はそう言って契約書と思われる紙をユウに差し出し、ペンをユウの前に置く。ユウはペンを睨み、自分の道について考える。わからないことだらけではあったがただ一つ言えるのはここで話を蹴れば勇者育成課に入る可能性が完全になくなるであることだけだった。

ユウは一息吐くと彼女が差し出したペンを受け取ると迷わずに自分の名前を書いた。


「確かにサインをもらったわ。入学に必要なものは後日あなたの自宅に送るわね」


彼女はこれでおしまい、という態度を見せるのでユウは慌てる。


「ちょっと待ってください。まだ何科に入るかを…」


「決まっているじゃない。今サインしたでしょ」


「えっ!」


ユウは、はっとして入学許可書を取ろうとしたが彼女に先を越され、奪われる。


「ほら、この通り」


彼女は紙を一枚めくってみせた。やはり二枚重なっていたのだ。しかも感圧紙によって、後ろの紙に写せるようになっていた。


「こんなのずるいですよ!それに魔王育成科って何ですか!」


見慣れない単語にユウは首をかしげる。

サンライズ学園には勇者育成科、魔法科、白魔術研究科、武芸科、普通科の五学科しかないはずである。


「聞いたことがないのは仕方ないわね。この学科は最近創られた秘密の学科だから。魔王を誕生させようなんて学科、世間に知られたらただしゃすまないでしょ」


彼女は笑ってそんなことを言った。



四時間近くかけて家に帰りついたユウは部屋に入るなりベッドに倒れこんだ。


「勇者志望がなんで魔王育成科なんだよ!」


ユウは今までのことを発散するかのように叫んだ。

あの後サラと名乗った彼女に魔王育成科について説明された。


彼女曰わく、魔王育成科、通称魔王科とは魔王を育てるために創られた学科である。何故そんな学科が創られたのかといえば、勇者ばかり育てても戦う相手がいなければ何の意味もない。だから魔王を育てちゃおう。そういう発想らしい。なんという自作自演か。

それじゃあ本末転倒ではないかとユウは思う。

そんなことよりもユウにとって大きな問題が一つだけあった。


「なんだ、帰っていたの」


ユウの母が部屋に入ってきて言った。母とはとはいってもユウとの間に血のつながりはない。戸籍上の母といったところだ。


「ただいま」


 ユウはそう言った後、気まずくて黙り込む。


「どうしたの、もしかして面接で落とされたっていう…」


「…一応はサンライズ学園に入学することにはなったよ」


「一応ってどういうこと」


ユウはこれ以上母の視線に耐えられず、サラからもらった手紙を母に渡す。


「詳しくはこれを見て!」


母は黙って手紙を受け取ると厳しい表情で中身を読む。しかしその表情は次第に穏やかなものに変わっていった。


「ふむ。あなたの事情はわかった。ユウの人生だし好きにしなさい」


母はそう言って部屋からそのまま出ていった。

ユウはまさかの出来事に呆気にとられてしまった。

いったい、あの手紙には何が書いてあったのか。知りたいようで知りたくない、そんな不思議な気分を味わったユウであった。


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