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脱獄計画(プリズンブレイク・プラン)

 ミラは自分の固有技能(ギフト)のことをラムに打ち明け、ラムと共に脱獄計画を練っていた。


「ミラの固有技能(ギフト)はたしかに強力だ。例えば、この牢の鍵を複製できりゃあ、いつでも脱獄できるだろな。ただこの場合問題は、牢の鍵を複製するチャンスがねえってことだ」


「そうよね、いつもの看守が持ってきてくれたら話は早いんだけど。でも、わざわざ食事の配膳に牢の鍵を携帯する筈ないよね」


 ミラは堅い錠が二重にかけられた鉄格子を見て、気を重くする。


「そうなると、この案は駄目だな。ミラ、他に思い浮かぶ案はないか?」


「でも、鍵が無かったら物理的に牢の外には出れないわ。それこそ、穴を掘らない限りはね」


「言われてみればそのとおりだよな。やっぱり詰んでるじゃねえかよ!クソが!」


(でも、鍵を複製するっていう方向性自体は悪くない気がする。問題は、鍵を看守に持って来てもらわないといけないってこと。鍵を持って来てもらえるシチュエーションなんてあるのかな?)


 そう考えて、ミラは一つ思い付いた案をラムに尋ねた。


「ねえラム!例えば、病気に罹ったら、牢の外で診てもらえたりしない?」


「病気?さぁ、どうだろな。俺は監獄に入ってから風邪を引いたこともねえし、気にしたことも無かったぜ。まぁ、十中八九無視されるだけだろうよ。これまで俺の牢の前を運ばれた囚人どもは、ピクリとも動かない死体ばかりだったぜ」


(そうか、死体か。流石に死んでしまったら、牢を開けて連れてくんだ。そうよね、死体を放置してたら病気が蔓延しちゃうよね。ん?ちょっと待てよ?)


 ミラは自分の思考の中の矛盾を発見した。


「ねえ、やっぱり病気に罹ったら、隔離されるんじゃない?死体は放置されないんでしょ?それって、病気の蔓延を防ぐためだと思うの。もしも病気が蔓延したら、看守だって困るんじゃない?」


「そうかぁ?アイツら俺らが苦しもうと、何も気にして無さそうだがな」


「そうかもしれないけど、それは配膳係の看守が下っ端だからよ」


「ん?どういう意味だ?」


 ミラは己の労働経験から、組織の下っ端は、往々にして組織全体の意図を把握できていないことを知っていた。


「つまり、指示や規則に従うだけの下っ端は知らないかもしれないけど、この監獄のルールを決めている上の人間は、監獄内の病気蔓延を快く思ってない可能性が高いわ」


(考えてみれば、一応ベッドもあって、十分な食事も、定期的な糞尿瓶の取り替えも、イメージよりよっぽどクリーンな環境だわ。まるで、囚人を殺さず長生きさせることに意味がある、ような?)


「つまり、病気になればここから抜け出せるってことか?じゃあ、演技すりゃあいいのか?」


 ミラは病気の演技をする自分を想像する。


(ダメだ。半端な演技じゃ、看守に無視されて、食事抜きの罰を食うだけだ)


「演技で切り抜けられればいいけど、それじゃたぶん無理ね。血涙が出るとか、体中に湿疹が出来るとか、そのレベルの病気じゃないと、牢からは出されないと思う」


「じゃあ、意味ねえじゃねえかよ」


「……うん、そうだよね。期待させてごめん。意図的に病気になる方法があればいいんだけど……」


 ミラは消沈した。

 いい線行っていたと自覚がある分だけ、溜息が大きくなってしまう。


「病気になる方法じゃねえけどよ、”ゲロツボ”って知ってっか?」


 消沈するミラに、ラムが声を掛ける。


「そのツボを突かれるとな、ゲェゲェとゲロが出て止まんねえんだ。子供の頃によ、気に入らねえ奴に試したことあんだけど、いやぁ、アレは傑作だったぜ。……ん?待てよ?ツボ……」


(なんて悪ガキ、相手が可愛そう)


 ミラは想像して、ラムにターゲットにされた相手のことを不憫に思う。


「まてまてまてまて!ミラ!思いついたぞ!ツボだよ!ツボ!」


「え、どうしたの?ラム?」


「俺は人体のツボのことをよく知ってるんだ。家がそういう剣の流派だったからな。そんで、その中に"安危のツボ"っていうツボがある。そこを突けば、人は半生反死、つまりは仮死状態になるんだ。んで、暫く放置すっと運がよけりゃあ回復する。どうだ?試してみる価値はあるんじゃねえか?」


 ラムは興奮した調子で語った。


「すごい、ラム!それよ!」


 ミラもその興奮が伝染したかのように、思わず大きな声を出してしまう。

 ミラは慌てて口を押さえた。


 二人は看守の足音がしてないか、耳を欹てる。

 暫くして、


「まだ食事の時間じゃねえ、大丈夫だろ」


「そうね、ごめんなさい」


「あぁ、気をつけろ。だがそれよりミラ、安危のツボの話だ!このツボは背中にあるから、自分じゃ突けねえ。やるなら、俺がミラのツボを突くしかねえ。だがな、そこは半生半死のツボだ。いっぺんこのツボを突いたら、蘇生できる保証はねえ」


「そっか……もちろんリスクは高いのね」


 ミラは死の危険と聞いて、臆病になる自分の心に問うた。


(このままここで朽ち果てるか、自由の為に死ぬリスクをとるか、どっちがいいと思ってるの?そんなの決まってる!)


「私、やるわ!」


 ミラは答えた。

 だがその声は震えていた。


「あぁ、だが今すぐって話じゃねえ。怖くなったらいつでも言いな。無理やりするつもりは毛頭ねえからよ」


「……うん、ありがと」


 ミラは自らの拳を強く握りしめた。



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