吐露(デュー)
「ただいま、ギルマス」
「よくぞ…… よく無事じゃった。会えて良かった…… 本当に、会えて良かった」
「うん…… ゔんっ」
二人は再会の抱擁を交わした。
時を経て、お互いの立場は変わってしまったが、その絆までは変えられない。
それを確かめ合うように、二人は長い間ずっとそうしていた。
やがて、抱擁を解いたセウスはミラの目を見て言った。
「ミラ、魂に誓おう。何があっても、わしはお主の味方じゃ」
「……ギルマス」
過去と決別した日々を送ってきたミラに、その声は甘く響いた。
ミラはもう一度言った。
「私、ギルマスに聞きたいことも話したいことも、いっぱいあるんです。少し、お話しませんか」
「あぁ、わしもじゃ……。そうじゃな、先にわしの方から話してもよいかのぅ?」
紅茶が溢れたテーブルを片し、今度は二人分の紅茶を用意したセウスが席に着く。
異論はなく、ミラは頷いた。
「ミラがギルドを出た後、わしの元には報告が届いた。それはミラが、アレンと共に逃亡したという内容じゃった。じゃからわしはてっきり、ミラはアレンとどこか遠くで暮らしているものじゃと思っておった。それがまさか、こんな形で再会するとはのぅ」
セウスはティーカップを手に取り、喉を潤す。
静かにそれを下ろすと、淡々と続きを語り出した。
「A級冒険者じゃったアレンの失踪に、第三王子クリフが関わっていた。その事実を世間に知られるのはまずい、という判断があったのじゃろう。事件は隠蔽され、アレンを失った責任を取って、わしはギルドギルマスを辞めた」
ミラは驚き、息を呑む。
それは想定できたことだ。
だがミラには想像力が足りていなかった。
無意識に当時のことを、記憶から遠ざけようとしていたせいかもしれない。
「ミラが気にする必要は全くない。わしも、ちょうど辞め時じゃとは思っておった」
セウスは優しく微笑む。
その穏やかな笑みがミラを安心させた。
「それからは、隠居生活をしておった。じゃが、つい最近帝都の方まで呼び戻されてのぅ。なんでも、A級昇格試験に同行できるほどの監査官がいなくて困っておったらしい。最近の職員は貧弱で頼りないと嘆いておったが、おかげで、こんな嬉しい再会があるとはのぅ」
「私も、監査官がギルマスで良かったです」
「あぁ、幸運じゃった」
その言葉に、二人は目を合わせて笑った。
「わしの方はこんなところじゃ。さて、ミラの話を聞かせておくれ」
「はい」
ミラは覚悟を決めた。
親友のエマにさえ打ち明けられなかった秘密。
しかし、セウスにだけは話すべきだと思った。
「あの一件の後、私は監獄に収監されました」
「何……じゃと?」
「このことで、ギルマスを恨んだりなんてしません。それに、もう脱獄しましたから」
「……何?」
セウスの口から間抜けな声が漏れた。
とても冗談を言っているようには見えない。
セウスにも、ミラの話が嘘や冗談の類ではないことはわかっていた。
しかし、ただただ驚きの連続で、セウスは思考が追いつかない。
「幸運だったんです。私には、固有技能がありました。最初は気付かなかったけれど、それはとても強力なもので。私は固有技能を使って奇跡的に脱獄しました。けれど、監獄の壁を越えたところで力尽きてしまって……。でも、そこへアレンが助けに来てくれたんです!」
「……ふむ!そうか、アレンとは会えたのか!」
「はい、アレンとは今でもずっと一緒です!後で呼びにいきます!アレン、飛んで喜びますよ!ビックリするだろうなぁ!って、あぁ、すみません!」
ミラは取り乱したことを恥じ、口元を抑えた。
「よい、よい」
セウスは笑顔で応じ、ミラに話の続きを促す。
「とにかく、アレンのおかげで、私は九死に一生を得ました。そこからは遠くに逃げたんです。王国では脱獄者として指名手配されるかもしれないと思って、ここ帝国まで逃げました。そこで、私は冒険者になることを決めました。アレンの助けもあったし、私自身も挑戦したかった。魔法学院で学んだ魔法と知識、それと固有技能を使って、私はここまで来ました。もしA級冒険者になれて影響力の強い存在になれば、王国側も五年も前の罪には問えないはず。ギルマスに、ギルドのみんなに再会するために、私頑張りました。でも、まさか今ここで会えるなんて、思ってなかったので……。ぐすっ」
ミラの瞳には涙が滲んでいた。
話を聞き終えたセウスは、ミラが余りにも濃い時間を過ごしてきたことを察した。
どんな試練を乗り越えれば、監獄を脱獄して五年余りでA級冒険者候補まで成り上がれるのか想像もつかないかつ。
かつてA級冒険者として最強の一角を連ねていたセウスには、A級に挑むほど冒険者ランクを上げる困難さは知ってるつもりだった。
「私は恵まれています。今の自分も幸せだと思っています。でも、あの時のことを許せない気持ちもあります。あの王子、第三王子クリフにはやり返さないと気が済みません。突然監獄に入れられた恐怖も、幸せな日常の全てを奪われた悔しさも、絶対忘れません。だから、私は、いつか復讐するつもりです。ギルマスは、どう思いますか?止めますか?」
ミラはセウスを見つめた。
セウスはその視線を正面から受け止め、しっかりと見つめ返した。
二人の視線が交錯する。
「……言ったじゃろう。わしはお主の味方じゃ。ミラがそう決めたのなら、わしはいつでも力を貸そう」




