門出(ヒット・ザ・ロード)
昨晩は遅くまで酒を酌み交わした。
今回の昇級試験を機に、ミラは炎の剣を抜けることになったが、仲間としての関係性は変わらない。
今日もミラたちの見送りに、昨日のメンバー全員が集合している。
「ミラ、達者でな」
「うん、ありがとう」
「ミラなら絶対昇級できるんだな〜」
「うん、任せて。絶対そうする」
ミラはラグーンとマトウに、それぞれ固く握手を交わす。
「イリアァ〜、寂しいよぅ〜」
「ふふふ、エマ。私もよ。エマがいなかったら、私の周りはすごく静かになるかも」
エマはミラの首に縋りつくように手を回し、返すようにミラも抱きしめた。
「アタシたちもすぐにイリアに追いつくわ。それまで、A級になって待ってなさい」
いつまでもエマにしがみつかれたままのミラに、モネが言う。
「うふふ、その頃にはもうS級になってたりして」
「もう、へらず口」
そう言うと、モネもエマと混ざって、三人で厚く抱擁を交わした。
ミラは四人それぞれと挨拶を交わした。
最後に、ミラは全員を見渡して言う。
「ねえ、覚えてる?モネにもらったこの短剣」
ミラは腰に下げた短剣を手に取った。
「あ、懐かしい。たしかイリア、最初の頃はそれ装備してたわね」
「それって……。たしか初陣の時、アタシがあげた……」
「最近は杖を使ってたもんな」
「ミラは物持ちがいいんだな〜」
四人は口々に感想を言った。
「これはお守り。私にとって、炎の剣として活動したこの五年間はかけがえのない時間よ。絶対忘れない」
ミラは短剣を胸に抱き、集まった四人の顔を順番に見つめた。
「じゃあ、行ってきます!」
ミラは、笑顔で別れの言葉を告げた。
「ミラ、もういいのか?」
離れて見ていたアレンが、様子を察してミラを呼びに来る。
「うん、行こう」
ミラは、アレンと共に出発した。
☆
移動は馬車。
商人の荷馬車を護衛する依頼を受けた形だ。
B級冒険者のミラに引き受けてもらえて、商人も喜んでいた。
ミラは荷台に揺られていた。
そもそも護衛の依頼は、一人では出来ない。
アレンと、同じ依頼を受けた冒険者たちが、今はミラの代わりに周囲を警戒していた。
「で、なんであなたがこんなところにいるの!?」
「嫌だなぁ、イリアさん。そりゃ、俺もこの依頼を受けたからですよ」
イリアの隣に座っているのは、一人の少年だった。
「そうじゃないわよ。どうしてこんな依頼を受けたのかって聞いてるの」
「だって、イリアさんが受けるって聞いたから」
「誰に? 」
「…… えっと、エマさんに」
「はぁ〜」
ミラは一つ、大きな溜息を吐いた。
横目で少年、ウサをちらりと見る。
ウサは革の防具を全身に纏い、一見して冒険者と分かる装備をしていた。
なるほど、駆け出しと言われるE級冒険者の装備ではない。
しかしそれは、D級冒険者の平均を超える程でもなかった。
「イリアさん。この前はすみませんでした。エマさんや先輩に言われて、俺なんかがイリアさんにパーティーを組んでもらうのは、おこがましいことに気付きました」
「そう」
「だから、弟子にしてください!」
「……なんで、そうなるのよ」
ミラは頭を抱える。
百歩譲って、弟子をとるのはいい。
しかし、今は昇級試験を控える大事な時期だ。
余計なことに割く余裕はない。
「ウサ、これはあなたが勝手に受けた依頼よ。私はあなたを弟子にするつもりはないし、面倒を見るつもりもないわ」
「そんなぁ! イリアさんは、可愛い後輩を野垂死にさせるんですか! 」
「野垂死にさせるって、あなた。人聞きが悪いわね」
「だって、俺このままじゃ野垂死にしますよ。帝都へ行く依頼はあっても、帝都から下る依頼なんてそうそうあるもんじゃありませんよ。金も全然持ってないし、イリアさんに助けてもらわなかったら俺、帝都で野垂死にします」
「そこまで分かってるなら、なんで…… 」
言い掛けて、ミラは気付いた。
帝都までの護衛依頼。
ウサのような子が受けようとすれば、受付嬢は普通止めるのではないか。
ミラはそこまで考えて、思い当たる節があった。
「エマさんが、『こんなチャンス滅多にないわ。大丈夫、イリアなら結局助けてくれるから』って」
「あぁ、やっぱり」
イタズラっぽい笑顔のエマが、ミラの脳裏に浮かぶ。
ミラは、たしかにエマなら言いかねないと納得した。
「卑怯なのは、分かってます。でも、俺、イリアさんの弟子になりたいんです。お願いします! 」
ウサは深々と頭を下げた。
床に擦り付けそうな勢いだ。
「……はぁ。仕方ないわね。エマが唆したなら、私が見捨てるわけにもいかないし」
「やったぁ 」
「ただし。条件があるわ」
ミラはウサの目を見て凄んだ。
冒険者ランクが上がるにつれて、こうして目を見て話すだけで、相手は怯むようになった。
しかしウサは、一歩も引かずにミラを見つめ返す。
「はい」
「まず、私の言うことを聞くこと。勝手な真似はするな」
「はい! 」
とびきりのいい返事だった。
「はぁ、調子だけはいいんだから」
「はい、よく言われます」
ウサは、後頭部を掻きながら言った。
「褒めてないわよ全く」
イリアは「お調子者」という言葉を連想した。
また頭を抱えたくなる。
「条件はまだあるわ。期間は、この依頼の間だけよ。帝都に着いたら、すぐに帰りなさい。真っ直ぐ帰るだけの路銀は用意してあげるから」
「ええっ! なんでですか!?」
「私は昇級試験があるの。試験の依頼を受けたら、まさか連れて行けないし、置いといたら宿代も勿体無いでしょう。あなたに付き合ってる余裕はないの」
「……はい、分かりました」
意外に聞き訳が良くて、ミラも拍子抜けするぐらいだった。
「弟子として、イリアさんには、A級冒険者になってもらいたいですから! 」
「もう、本当に調子いいんだから」
ミラは笑った。




