入団(ジョイニング)
「何者なの?」
モネの質問に場の空気が一瞬止まった。
アレンは直ぐに答えず、一旦目を瞑って考える素振りを見せた。
そして、再び目を開けたとき、アレンは物々しい雰囲気を纏っていた。
「あー、そのなんだ。俺はお前らの命の恩人って事でいいよな?」
アレンは、モネ、ラグーン、クローゼを見渡して言った。
「うん」
「あぁ、もちろんだ」
立っているのもままならぬ満身創痍のモネとラグーンは、肯定の意で大きく頷いた。
「まぁ、本当なら俺が命の恩人になるはずだったんだがな……。しっかし、正直なところ俺も危なかった。助けられたのは事実だ、恩人かと聞かれたら、まぁそうなるだろうな」
クローゼは渋々といった様子でアレンの問いに了解を示す。
「そうか。なら、話は早い。俺からの要求は一つだ。今日のことは他言無用で頼む。礼は要らんから、その代わり、今日あったことは全て忘れてくれ」
アレンの発言に、モネとラグーンは顔を見合わせた。
クローゼも怪訝な顔で、アレンの真意を読み取ろうとしていた。
「ちょっと!それじゃ、みんな混乱するでしょ?もう少し丁寧に話さなくちゃ」
「いや、そうは言ってもな。実際問題、説明するのも一苦労だぜ?」
ミラが結論を急ぐアレンに待ったを掛けるが、それでもなおアレンは止まらない。
「他言無用と言ったが、これは嘘や冗談じゃない。この場にいる人間以外が、今日のことを知っていたら、俺はお前らを殺さなくちゃならねえ」
モネは唾を飲み込んだ。
アレンに尋常ならざる事情があることを察する。
「ちょっと!いい加減にして!」
ミラが語気を強めて言った。
それに気を削がれたように、アレンは剣呑な空気を収める。
「まぁ、そういうことだ。俺も、せっかく助けたお前らをどうこうしようなんて思ってないさ。お前らが口を滑らせない限りはな」
「どうしたの?あなた今日ちょっと変よ?」
ミラは、アレンの名前を出さないように気をつけながらも、態度の急変に戸惑いを口にする。
アレンはミラの頭を抱え込むと、周囲に聞かせないように小声で言った。
「すまん、ミラ。だけどこういう時は、馴れ合いで済ましちゃ駄目だ。俺たちの進退がかかってるんだ。強めに釘を刺しておかないと」
「……うん、わかった。私こそごめんね」
傍目から見ても、ミラとアレンがいい関係だということは分かった。
ミラとアレンの談合が終わると、まずクローゼが口火を切った。
「何はともあれ、これだけの数のジャイアントマウスを倒したんだ。剥ぎ取りしてもいいよな?」
狩った魔物は剥ぎ取る。それは冒険者の性だ。
「分かってるとは思うが、一度にギルドに売りに出すなよ。小出しにするんだ。今日のことは他言無用なんだからな」
「分かってるって!」
クローゼはそう返事を返すや否や、急いで剥ぎ取りを始めた。
冷静に勘定すれば、ジャイアントマウス三十匹の毛皮は一財産だ。
モネとラグーンも反対はしなかった。
ラグーンは、クローゼの背中に向けて声を掛ける。
「クローゼの気の済むまで剥ぎ取ってくれ。もちろん、今日の礼は別にするから、遠慮なくな」
男気溢れる台詞だが、ミラは気になったことがあり、モネに尋ねた。
「ラグーンはそう言ってるけど、本当にいいの?全員怪我しちゃったし、炎の剣の収入は暫く無くなっちゃうよね?」
「惜しい気持ちもあるけど、命の恩に比べたらね。少しは貯金もあるから、イリアにもこのお礼はちゃんとするわよ」
「でもその貯金って、いつか都に行くための貯金でしょ?」
「そうね。だから、また一から貯めるわ。あっ!イリアは遠慮しないでいいからね。剥ぎ取り参加しておいで」
モネはそう言ってミラを送り出した。
クローゼ、ミラ、最後にはアレンも手伝い、みるみるうちに三十匹のジャイアントマウスが剥ぎ取られていく。
「このデカブツのはお前さんに任せるよ」
クローゼがアレンに言った。
「そうだな、これをギルドに持っていくわけにもいかないからな。ありがたくもらっておくよ」
最後に、アレンがキングジャイアントマウスの剥ぎ取り作業を行う。
「おっ!?」
キングジャイアントマウスの頭蓋骨付近から、アレンが何かを取り出した。
☆
「新人!半分の十五匹ずつでいいか!?」
一方、クローゼが取り分にミラに尋ねる。
ミラは了承の意を示した。
思わぬ臨時収入にクローゼは上機嫌だ。
その後、再び全員が集合し、ようやく帰還の流れとなる。
その時になって、ミラは言った。
「炎の剣に入れてもらえるって話、結局どうなったの?」
ラグーンとモネは言われて思い出したかのように、お互い顔を見合わせた。
ラグーンとモネは同時に口を開こうとしたが、モネがリーダーのラグーンに譲った。
「イリアの実力が新人の比じゃないことはよく分かった。今日は本当に助けられた。イリアさえ良ければ、ぜひパーティーに入ってほしい。だが……」
ラグーンはアレンを見つめる。
「彼と組んだ方がいい……だろうな」
今度はミラとアレンが顔を見合わせた。
アレンが言う。
「いずれはそうなる。だが今はまだその時期じゃない。それまでの腰掛けになるが、それでもいいならイリアを頼む」
アレンは頭を下げた。
その意味を直ぐには汲み取れず、呆けていたラグーンとモネは、ミラが炎の剣に加わる意思があると気づき、目を大きく開き口角を上げた。
ミラも笑い返した。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ!ようこそ、イリア!炎の剣へ!」
「アタシも歓迎する!イリア!」
炎の剣の二人は、両手を広げて三人でミラと抱き合った。
「間違いなく、マトウも祝福してくれるさ」
ラグーンが言った。
「あ、そうだ。パーティーメンバーになったから、私の分のジャイアントマウスの毛皮は山分けだね」
「イリア!」
モネは一段高い声を出し、ミラをギュッと抱きしめた。




