A級(クラス・エー)
アレンは駆ける。
そのスピードは巨鼠を寄せ付けない。
一気に王巨鼠の懐に飛び込んだ。
王巨鼠は、ウォーター・ブラストを放とうとするが、
「遅い!」
アレンの剣の方が圧倒的に早い。
アレンは豪快に剣を振り抜く。
「グオォォォォォ」
長剣が体毛ごと皮膚を切り裂き、はじめて王巨鼠の鮮血が飛び散る。
王巨鼠は重低音で鳴いた。
ウォーター・ブラストの水球が霧散し、魔法発動が失敗する。
「……凄すぎる」
ミラに肩を借りて避難していたモネは呟いた。
まだアレンの攻撃は終わらない。
振り抜いた剣を返し、逆袈裟斬りに一閃。
しかし、王巨鼠も次の攻撃には敏感に反応した。
発達した後ろ足の筋肉をフル稼働し、一足飛びに大きく後退する。
そして、ここからが王巨鼠の本領だ。
「グヌォォォォォ!!」
その鳴き声は、ダンジョンの壁に大きく反響する。
アレンは地が揺れる錯覚を覚える。
それは、配下の巨鼠の足音だった。
一匹や二匹ではない。
十匹前後の群れが三つ。
計三十匹になろうかという大群が集結していく。
ダンジョン中の巨鼠が集まってきたかのようだ。
「ミラ!半分頼んだぞ!」
アレンは首だけ後ろに向けてそう言うと、自分は奥の王巨鼠へと一直線に走り出す。
ミラはクローゼと共に、ラグーンとモネを壁の端へと避難させていたが、アレンの言葉に前を向いた。
「わかった!気をつけて!」
ミラは大声で返事するが、内心では動揺していた。
(ものすごい数の魔物!もう!無茶言うんだから!)
三十匹の巨鼠は、王巨鼠を守るかのように、アレンに殺到する。
「ウインド・ブラスト!」
そこへ、ミラは全力の魔法を放った。
魔力を温存するのは止め、最大出力で、風魔法を巨鼠の大群へと放り込む。
風の刃は音速で魔物の群れへと到達し、三匹の巨鼠をまとめて屠った。
「やるじゃねえか!」
クローゼがミラを称賛する。
仲間を殺された巨鼠は、振り返ってミラたちの方を向いた。
十匹ほどの巨鼠が、ミラを標的と定めて迫り来る。
「って、おい!こっちに来ただろうが!」
クローゼは慌てて、剣を構えた。
「あら?おじさん、ベテランなのに自信ないの?」
「言うじゃねえか!」
クローゼは、ラグーンとモネを守るように、前線へと飛び出した。
ミラも後方から、風魔法を放ち、複数の巨鼠を相手していく。
一方、アレンは巨鼠の大群に、十重二十重と囲まれながらも、一撃も攻撃をもらうことなく、その間隙を縫うように本丸の王巨鼠の元へと走る。
王巨鼠は、四足で地を蹴りながら、アレンから距離をとることに専念していた。
配下の巨鼠二十匹がかりの足止めのおかげで、流石のアレンもその距離を詰めるには至らない。
十分に距離が取れたところで、王巨鼠は振り返ると、アレンに向かって魔法を放つ準備をする。
それは、今までのウォーター・ブラストの比ではない大魔法。
ウォーター・ブラストの水球がいくつも王巨鼠の眼前に浮かび上がり、それらが結合して、巨大な水球を形作っていく。
配下の巨鼠との連携が真骨頂だった王巨鼠にも、最早その余裕はなかった。
魔法が完成するや否や、巨鼠ごとアレンに向けて大魔法を放つ。
ダンジョンの通路いっぱいに広がる水球は、物理的に回避不可能だ。
必然的に、アレンはその魔法を正面から受け止めざるを得ない。
アレンは煩わしい周囲の巨鼠を払い除けると、両手で剣の柄を持ち、肩口あたりで構えた。
「奥義……グレーター・インパクトォ!!」
それは、乾坤一擲の突き攻撃。
アレンの固有技能を遺憾なく発揮した、一点突破の必殺技だ。
対象の弱点を的確に見極め、A級冒険者たるアレンの全力の身体強化魔法を、神業の如き剣技に上乗せした突き攻撃が、衝撃波となって王巨鼠の魔法とぶつかり合う。
その軍配は、アレンに上がった。
剣の衝撃波が、王巨鼠の魔法を貫く。
そのまま、王巨鼠の脳天へと直撃した。
「グヌォォォォォ」
最後に一際響く鳴き声を上げた王巨鼠は、ダンジョンに沈んだ。
「ちっ、思ったより随分強かったぜ」
アレンは捨て台詞を吐くと、残兵たる巨鼠の掃討に移る。
ミラとクローゼの健闘もあり、あっという間に全ての巨鼠が倒されていった。
「ミラ!無事だったか!」
アレンはミラに駆け寄った。
「"ちょっとアレン!ミラじゃなくてイリアでしょ!?"」
ミラはアレンの耳元で囁く。
「おっと、悪い」
アレンは軽く頭を下げる。
その様子を見ていたモネが、口を開いた。
「イリア、助けてくれてありがとう。おかげでアタシもラグーンも助かったわ。感謝してもしきれないと思ってる。後でこの礼は必ずするわ。ところで……あなたは何者なの?」
モネがアレンに向かって問うた。




