真打(ヘッドライナー)
ラグーンを庇って巨鼠に吹き飛ばされたモネは、もんどり打ってダンジョンの床に倒れた。
「うおぉぉ、スラッシュ!」
ベテラン冒険者のクローゼが、モネを吹き飛ばした巨鼠目掛けて袈裟斬りを叩き込む。
モネへの追撃は許すまいと、一刀のもとに巨鼠の命を絶った。
「モネ!無事か!?」
「なんとか大丈夫!っ……ケフッ、ゲホッ!」
ラグーンの問いかけに応えるモネだが、ダメージは浅くないようだ。
モネの咳には血が混ざっていた。
「ちぃ!お前ら、また来るぞ!」
クローゼが叫び、警告する。
王巨鼠の背後から、新たな個体のジャイアントマウスが現れていた。
一匹の巨鼠が、クローゼを大きく迂回し、倒れ伏すモネへと迫る。
モネは何とか体勢を立て直すと、巨鼠へと大杖を構えた。
「モネ!デカブツの魔法の追撃もあるからな!」
ラグーンが警告する。
それは、これまでラグーンが辛酸を舐め続けた黄金パターンだ。
巨鼠の突進からの、王巨鼠のウォーター・ブラスト。このシンプルな二段構えをラグーンは何度も食らい、そして一度も突破できなかった。
「炎神よ、我等の敵を燃やし尽くせ。ブレイブ・ブラスト!」
モネは魔法で迎撃する。
モネの炎魔法が突進する巨鼠の正面に命中した。
「なっ、嘘でしょ!止まらない!」
巨鼠は、全身を黒こげにして瀕死状態になりながらも、その勢いを止めることなくモネへと迫る。
モネは大杖を横に構え、杖で無理やり突進をガードした。
「メキメキ」
突進自体の威力は半減しており、何とか防ぎ切ることができた。
しかし、芯が折れたような嫌な音が杖から響く。
そこへ、間髪入れず王巨鼠のウォーター・ブラストがモネを襲った。
モネは後退して回避する。
先の巨鼠の攻撃のダメージから胸を押さえつつも、ラグーンの助言を聞き、予め動き出していたたおかげで回避自体には成功した。
「やべえ!この調子じゃ次は凌げねえ!お前ら、さっさと逃げるぞ!」
クローゼが二人に合図を送る。
ラグーンとモネの二人は、ダメージを負った体を庇いつつも、クローゼの指示に従い退避し始めた。
「って、おいおいおい!何匹いるんだよ、こいつら!」
逃げる三人を追い越していく巨鼠の影。
三匹の巨鼠が、三人の正面へと回り込んだ。
「モネ!まだ魔法は打てるか!?」
ラグーンが尋ねる。
「ごめん、杖も折られちゃったし、魔力残量も厳しい。ギリギリ、あと一回だけなら!」
「そうか……」
ラグーンはポンとモネの頭に手を置いた。
「ラグーン?」
「クローゼ!モネを頼んだ!」
クローゼは真剣な表情で頷く。
「合点だ!任せろ!」
ラグーンの言いたいことをモネは察した。
「ダメ!また囮になるつもり!?ダメよ!今度こそ死んじゃう!」
モネはラグーンのシャツを鷲掴みして取り乱す。
しかし、ラグーンは動じない。
モネの頭を撫でると、
「今までありがとな」
と言った。
モネは卑怯だと思った。
無情にも、魔物たちは彼らの別れを待ってはくれない。
王巨鼠が背後からラグーンたちに追い付いた。
それと同時に、ラグーンたちの正面の巨鼠三匹が突進攻撃を開始する。
「行くぞ、スラッシュ!」
「あぁ、もう!炎神よ、我等の敵を燃やし尽くせ。ブレイブ・ブラスト!」
クローゼとモネはそれぞれ迎撃した。
しかし、ラグーンだけが攻撃体勢に入っていない。
「ぐおぉぉぉぉぉ!」
剣を横にし、防御の体勢で巨鼠の突進を受け止める。
ラグーンの技量であれば、正面からの突進を軽く受け流すこともできただろう。
だがラグーンは、あえて突進を受けることで隙を晒し、王巨鼠の標的を自分へと向けさせた。
王巨鼠は、ラグーンへとウォーター・ブラストを放つ。
長い戦いの末の止めの一撃だと言うのに、無感情に、ただ淡々と。
それは、まるで歴戦の狩人のようだ。
獲物を確実に殺すために、最適なタイミングで最善の一手を打つ。
王巨鼠は、明らかに、知性の高い動物特有の行動を見せていた。
「ラグーンッッ!」
モネは喉が潰れそうな悲鳴をあげた。
この時、モネは目を瞑っており、それを確認できなかった。
しかし、クローゼは見ていた。
自らの背後から、風の刃が嵐のように通り過ぎ、王巨鼠のウォーター・ブラストとぶつかり、鬩ぎ合い、相殺したことを。
「モネ!ラグーン!助けに来た!」
ラグーンは振り返る。
そこには、いるはずのない人物がいた。
「イリア!!」
モネも目を開け、振り返った。
「イリア!どうして!?と、誰!?」
ミラの隣には、ラグーンもモネも見たことのない人物が立っていた。
背の高さから、おそらくは男性。
しかし、フードを被っており、その素性は分からない。
「今は話せないけど、安心して!彼は私が知る限り、世界で一番頼りになる冒険者よ!」
ミラはモネへと笑いかけた。
「何だか知らないが、援軍は助かった!」
ラグーンの生存を諦めかけていたクローゼの顔にも、希望の光が差す。
「俺の女を泣かせやがって。許さないからな、このデカブツ!」
フードの下で、アレンは静かに言った。




