援軍(レインフォースメンツ)
「ぐはっっ!」
王巨鼠の魔法を避けきれず、ラグーンは左足を負傷した。
脛当てが変形し、出血している。
無論、傷の手当てをする余裕はない。
配下の巨鼠が追撃しようと、ラグーンに迫ってきた。
何度も繰り返した攻防だが、今度ばかりは今までのように凌ぐことは難しい。
左足の負傷に、ラグーンの機動力が削がれているからだ。
ラグーンは長剣を払い、巨鼠の突進をいなす。
しかしこの時既に、ラグーンは察していた。
魔物たちの本命は次の一撃、王巨鼠のウォーター・ブラストだと。
「くそっ、ここまでか!」
巨鼠を切り伏せたラグーンは、王巨鼠を睨みつける。
王巨鼠はラグーンの予想どおり、魔法を放つ予備動作に入った。
その青い目が、無情にラグーンを見下ろしていた。
「ラグーンッッ!助けに来たわ!」
その声を、ラグーンは幻聴だと思った。
「炎神よ、我等の敵を燃やし尽くせ。ブレイブ・ブラスト!」
ラグーンの聞き馴染み深いその声は、パーティーメンバーのモネの声だった。
魔法の火球が、王巨鼠に向かって空中を走る。
王巨鼠は、ウォーター・ブラストの発動を中止し、正面からモネの魔法を受けた。
「ブォォォ」
王巨鼠が低く唸った。
大ダメージは負わなかったようだが、モネの魔法を煩わしいとは感じているようだ。
「驚いた、あの魔法を食らって本当に無傷なんだな」
モネと同行しているベテラン冒険者が言った。
「そう、魔力障壁があるみたい。でも、こいつら雑魚には有効なはずよ」
「なるほどな。っと、おい!また来たぞ」
王巨鼠が、配下の巨鼠二匹を二人に差し向けていた。
「炎神よ、我等の敵を燃やし尽くせ。ブレイブ・ブラスト!」
「スラッシュ!」
モネは炎魔法で、ベテラン冒険者は剣技で、それぞれ巨鼠を迎撃する。
「来るぞっ!」
ラグーンが鋭く警告した。
その直後、王巨鼠のウォーター・ブラスト二発が発射される。
「炎神よ、我等に加護を。ブレイブ・サンクチュアリ」
モネとベテラン冒険者は、読みどおりとばかりに王巨鼠の魔法を回避し、モネの加護魔法がその余波をも防ぐ。
そして、そのままラグーンへと走り寄って合流した。
「ラグーン、助けに来たよ」
「……まさか、本当に戻ってくる奴があるかよ。馬鹿野郎」
台詞とは裏腹に、ラグーンの口調には嬉しさが滲んでいた。
「援軍を連れてきてくれ、って言ったのはラグーンの方でしょ?」
「ははっ、そうだったな」
「そうだぜ。俺が来てやったんだ、恩に着ろよな」
「クローゼ……。まさか、お前が来てくれるとは。世話になる……」
「水臭え、俺とお前の仲じゃねえか。だが、この恩は高くつくぜ」
ベテラン冒険者のクローゼはニヤリと笑った。
「ありがとよ。もしもここから無事に出られたら、何だってするさ」
ラグーンは王巨鼠を警戒しながら、そう返した。
ウォーター・ブラストの巻き起こした土煙が徐々に晴れていく。
「ラグーン逃げよ?外でマトウとイリアが待ってるわ」
「そうか、二人は無事か。サンキューな、モネ。俺も今すぐ逃げ出したいところだが、足をやられた。長くは走れねえ」
「そんな……」
ラグーンは左足を上げ下げして感触を確かめる。
鈍い痛みにラグーンの顔が歪んだ。
「なら、こいつをここで倒すしかねえってことかよ」
クローゼは剣を構え直した。
「いや、それも無理だ。三人じゃ戦力不足だ。要するに、戦いながら逃げるしかない」
「ちっ、厄介だな。だが、たしかにそれがベストか」
方針が決まってからの行動は常に迅速だ。
ラグーンたち三人は、王巨鼠に背を向け、ダンジョンの外へと走り出した。
走りながら、ラグーンはクローゼに目配せをする。
そして聞こえるか聞こえないか程の声で囁いた。
「いざとなったら、モネを連れて逃げてくれ」
「あぁ、任せろ」
ラグーンたちの逃亡を見て、王巨鼠も動き出す。
巨体に見合わぬ俊敏な動きだった。
配下の巨鼠三匹が、ラグーンたちを追い抜かし、回り込んで立ち塞がった。
「ちっ、邪魔だ!スラッシュ!」
クローゼが横薙ぎの剣で、三匹を纏めて斬り払う。
中央の一匹には致命傷を与えたが、左右の二匹への傷は浅い。
二匹の巨鼠が飛びかかってきた。
「後ろも来るぞ!」
ラグーンが警告する。
王巨鼠のウォーター・ブラストだ。
前と後ろの両方から迫る攻撃に、回避の方向は横にしか残されていない。
ラグーンは、倒れ込むように地へダイブして回避する。
だが、足の負傷の影響で、飛距離が足りていない。
巨鼠が僅かに方向転換し、ラグーンを襲った。
「ラグーンッッ!」
モネがラグーンを庇い、巨鼠の突進を大杖で受け止める。
「キャアアアアア!」
十分に助走をつけた巨鼠の突進は、モネを大杖のガードごと吹き飛ばした。




