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初陣(ファースト・コンバット)

 ラグーンら一行は、ダンジョンを歩いていた。


 ダンジョンを外から見てもただの岩窟にしか見えないが、中に入ればその差は一目瞭然だ。


 ダンジョン内部には松明のような魔法の光源が一定間隔で設置されており、意外にも視界がよい。

 そして何より、魔物との遭遇率が桁外れに高い。


「前方、巨鼠(ジャイアントマウス)の群れ!五匹!」


 ダンジョンに潜って半刻ほど、先頭を行くラグーンが魔物を発見し、パーティー全体に警告した。


 その魔物ーー巨鼠(ジャイアントマウス)は、ミラの膝上ほどの体高の巨大ネズミだ。


「雷光と疾風の神よ、我等に力を。アジリティ・ブースト!」


 空かさず、モネがパーティー全体に支援魔法を使う。


(すごい!体が軽いわ!)


 ミラは、初めて受ける支援魔法に驚いた。


 一方、いつものように支援魔法の恩恵を受けたラグーンとマトウは、魔物の群れに突撃してその注意を引く。


 マトウが二匹、ラグーンが三匹の巨鼠(ジャイアントマウス)を受け持った。


 しかし、筆頭のラグーンであっても、流石に三対一では数的不利が否めない。

 それを察知し、ミラは援護魔法を敢行する。


「打ちます! ウィンド・ブラスト」


「ちょっと待って!ここからじゃ避けられっ!?!?」


 ミラが、ラグーンに加勢する中級風魔法を放った。

 圧縮された風の刃が、高速で魔物に飛来する。


「……すごい」


 モネが呟いた。

 ミラの放った風の魔法が、回避の隙さえ与えず、ラグーンが対峙するうちの一匹に炸裂した。

 運悪く真っ先にターゲットとなってしまった巨鼠(ジャイアントマウス)は、唐竹を割るが如く縦半分に切り裂かれて絶命する。


 着弾を確認したミラは、あらためて戦況を見渡す。

 前衛の二人が、四匹の巨鼠(ジャイアントマウス)をそれぞれ二匹ずつ相手しているが、二人とも余裕のある立ち回りだ。

 ラグーンはミラの腕より長い長剣を片手で楽々と振り回し、左手の丸盾を使うまでもなく、華麗な剣舞を見せていた。

 反対に、マトウは大盾で巨鼠(ジャイアントマウス)の突進を受けきったところを剣で薙ぎはらうという豪快な戦いぶりだ。


(強い……。この調子なら、私は魔力温存するべきかな)


 ミラはそれ以上は戦闘に参加せず、二人の戦いを見守った。


 それから間もなく、マトウが最後の巨鼠(ジャイアントマウス)を叩き潰すようにしてとどめを刺した。


「終わったかしら?」


 モネが前衛の二人に声を掛ける。


「終わったんだな〜」


「ふう、お疲れ様」


 マトウとラグーンは振り向いて、戦闘終了を告げた。


「すごいです!お二人とも、身のこなしが洗練されてて、かっこよかったです!」


 ミラは感想を述べた。それは、ありのままの気持ちだ。


「あはは、そこまでまっすぐ褒められると照れるな」


「ちょっと!なに浮かれてんのよ」


「モネはラグーンに厳しいのな〜」


 勝利の余韻もそこそこに、ラグーンたちは魔物の死骸から素材となる部位を剥ぎ取った。


 魔物は死後数分で体積が大きく減る。

 魔物の筋肉や臓器はダンジョン自身のエネルギーによってできており、死ぬと気体化してダンジョンに還元されるのだ。

 残った骨や皮などは素材として有用なものも多く、冒険者が魔物を狩る目当ての一つである。

 もちろん、元ギルドの職員として、ミラもその技を身につけていた。


「ミリアすごかったな〜」


「ああ、ミリアのおかげで随分楽になったよ」


 前衛の二人は、剥ぎ取り作業をしながらミラを称賛した。


「ちょっと!どういう意味?アタシが役立たずだって言いたいわけ?」


「モネさんの魔法だってすごいですよ。支援魔法なんて私全然得意じゃなくって、憧れます!」


「ねえ、それ褒めてる?マイナー魔法使いだって馬鹿にしてない?」


 モネがミラを睨んで言った。

 ミラは迂闊な発言を少し後悔した。


「ちがいますよ!モネさんの魔法が無かったら、こんなにスンナリとは終わらなかったはずですし!」


「ふぅん?……本気で思ってる?そう言って腹の底では、自分の方が才能あるって見下してるんじゃないの?」


「見下してるなんてそんな……」


 ミラは助けを求めるようにマトウとラグーンを見つめる。


「そうだな〜、モネは考えすぎだな〜」


「そうだぞ、モネ。俺には構わないが、イリアにちょっと厳しすぎないか?俺もイリアがそんな風に思ってるとは思えないよ」


 しかし、モネは全く納得していない表情だ。

 男性陣の助けの声は、モネをますます苛立たせていた。


「ああっ!もう!」


モネが鬱憤を晴らすかのように大声をあげた。

ミラはビクリと反応して瞬きをしてしまう。


「アタシだって分かってるわよ!イリアにそんなつもりないってことぐらい!でも、あなただって悪いのよ!あなたの喋り方、本当にムカつくから。もう敬語はやめて、普通に喋りなさい!」


「……うん、分かった。ごめんね、これからは敬語はやめるね」


「……そう、アタシこそごめんね。イリアの魔法が予想以上にすごくて、嫉妬して八つ当たりした」


 事の成り行きを見守っていたラグーンとマトウは、微笑ましいものを見るようにはにかんでいた。


「何だよ、結局仲良いんじゃないか」 


「違うわよ、別に仲良くなんて無いからっ」


「仲がいいのはいいことなんだな〜。イリア、僕にも敬語はいらないんだな〜」


「ああ、もちろん俺にもだ」


「分かったわ、ありがとう。モネ、マトウ、ラグーン」


ミラは感謝の気持ちを込めて、各々の名前を呼んだ。

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