ほろ酔い(グッド・バズ)
ミラはほろ酔いの状態で宿屋へ帰った。
「ちょっと飲みすぎたかな」
ミラは火照った顔を手で仰ぎながら、扉を開けた。
「ただいま、ってもう寝てるか」
「おかえり、ミラ」
「あ、待っててくれたんだ、ありがとアレン」
ミラは微笑んだ。
「どうだったんだ?」
「あ~、それなんだけど、パーティーに誘ってもらったの。滅多にないチャンスだと思ったし、その場の流れで『入りたい』って返事しちゃった。大事なことなのに勝手に決めちゃってごめんなさい」
「そうか、良かったじゃないか。もちろん反対はしないよ。ミラが冒険者になるのを応援するって決めたからな」
ミラは安堵の息を吐いた。
「ありがとう、そう言ってくれるとは思ってたけど、やっぱりちょっとだけ不安で……」
アレンは両手を広げてミラを迎え入れる体勢を取った。
ミラは素直にアレンの胸へと飛び込む。
「反対はしないさ。ミラの好きなことをすればいい。そのためにこんなに遠くまで来たんだ」
アレンは抱きしめた体勢のまま、ミラの頭をそっと撫でた。
「うん……。そうだね。私たち、本当にずっと遠くまで来たんだね」
ミラはアレンの胸の中で、ここまでの道程を思い起こした。
(王都の外なんて、数えるぐらいしか出たことなかったはずなのに、今はもう王都どころか、遥か彼方の別の国にいるなんて、自分でも信じられない……)
「あぁ、そうさ。ここには、俺たちの顔を知ってる人は誰もいないだろう。ミラは思いっきり『冒険者』を楽しんでいいんだ」
「ありがと」
アレンは抱擁を解き、ミラに水差しの水を汲んで渡した。
ミラは喜んで受け取ると、水の入ったコップを手に持ちながら、ダブルベッドへと腰掛けた。
アレンはその隣へと座る。
「でも、人生分からないものだな。まさかミラが、冒険者になりたいだなんて」
「うん、自分でも想像もしてなかった。でも、私は自由な仕事をして生きていきたい。だから、自由な冒険者になったの。ふふ、それでね!いつかアレンみたいにA級冒険者になったら、あの馬鹿王子を見返してやるんだ!」
ミラは茶目っ気たっぷりに言った。
「ははは、そうだな。ただ、王子に物申すってなったら、A級でも足りないかもな。S級冒険者にならないと!」
「S級!?そんなのあるんだ!?」
元受付嬢のミラは驚いた。
「あぁ、噂だけどな。でも、俺と成長したミラが組めば最強だろうな。たぶん敵なしだぜ」
「う〜ん、そう言ってくれるのは嬉しいけど、本当に私やってけるのかな〜?やっぱり、学院の授業とは勝手が違うよね」
「ははっ、魔法学院の首席様がよく言うぜ。大丈夫だよ。元A級冒険者の俺が言うんだ、間違いない。ミラの魔法は一級品だ。魔法の才能はA級冒険者クラスだぜ」
アレンは一点の曇りもない目でミラを見つめる。
その瞳に、嘘偽りは写っていなかった。
「アレンは褒めすぎなんだよ。私が調子に乗って、A級冒険者になりたいだなんて夢を見たのは、アレンのせいなんだからね!」
「だから、俺は全力で応援するさ。安心しろよ、俺がミラをA級冒険者に育ててみせる」
アレンは大言壮語を口にする。
ミラは上機嫌に聞いていたが、酒の酔いから、口を尖らせて普段は言わない我儘を言った。
「もう!調子のいいこと言っちゃってさ。だったら、パーティー組んで一緒にダンジョンに潜ってくれればいいのに……」
「ミラ……。分かってるだろ、俺たちはこれでも追われる身だ。俺は元A級冒険者なんだ、暫く目立つようなことはできない。ギルド名簿の保存年限の五年が過ぎるまでは、俺の冒険者登録はしないって決めただろ?」
ミラは上目使いでアレンを見つめる。
アレンはミラを見つめ返した。
無言の沈黙が続く。
先には照れたのはミラだった。
ミラは顔を背けていった。
「ごめん……。私、分かってるのに。アレンに構ってほしくて、我儘言ってる」
「全然嫌じゃないさ。むしろ、ミラが我儘言うなんて、いつもと逆でなんか嬉しい。それに、ミラはよくやったよ。炎の剣に誘われたんだろ?俺も調べたが、そこはこの街一番のパーティーらしいじゃないか」
「うん、すごい幸運だよね」
「このあたりには高難度ダンジョンも無いようだし、実力的には今のミラでも十分通用するはずだ。受付嬢としてじゃなくて、冒険者としてのイロハを学ぶには、絶好の機会だと俺は思うぜ」
「うん。今度、入団試験があるの。そこで合格できたら、入団したいと思ってる」
「俺のミラを他所に預けるのは少し癪だが、その分成長してくれよな。それで五年後、一緒にパーティー組もう」
気障な台詞だ。
アレンは自分の言葉に照れて、つい目を背けた。
その隙に、ミラがアレンに横から抱きつく。
「分かった!今の言葉、覚えててね。五年後、一緒にパーティー組んで、S級冒険者目指そうね」
ミラは今日一番のご機嫌な声だ。
アレンの肩に顔を乗せ、ベッドに押し倒した。
「こいつ、酔っ払ってるな!おい、ミラ!明日後悔すんなよな」
☆
翌日、ミラが己の醜態を思い出して顔から火が出る思いをしたのは言うまでもない。




